第9話 アリスと新ダンジョン
ひさびさのジェシーとアリスです。
俺は俺6号。アリスを担当している笹木の中で最新の笹木だ。フレイヤたちも帰国した後、俺とジェシーは、2人でアメリカの指定ダンジョンに安全地帯を素早く作っていくことになった。
まずは西海岸を南下し、北上しつついくつかのダンジョンを攻めていく。一日で3つが限界だった。きっと休まず働けばもっと行けたのかもしれない。しかし、ダンジョン毎に4つの安全地帯を作ることに増えたことに加えて、さすがに人気がない間に作業を行おうとして深夜帯を狙ったのもあったからだ。インビジブルを使うことで移動中や安全地帯を構築する間を見られることは無い。しかし、できた建物などはもちろん見られるわけで、誰かが傍にいない時間帯を狙うほうがいいのだ。そのため、深夜帯に限って活動を進めた。そのため、夜の11時から朝の6時くらいまでを活動時間としたのだ。
ジェシーがラスベガスのホテルの部屋で外を眺めている。
「朝日が眩しいな」
ジェシーの上半身が裸なのは、先ほどシャワーを浴びていたからだ。俺もその前に浴びたから、今髪を乾かし終わって寛いでいるところだ。今はレギンスにTシャツという格好だ。親子なのだから問題ないと思うが、ジェシー側の俺からすればちょっと目の毒かもしれない。
ちなみに手狭な部屋ではなく、ギルドが用意してくれたスイートルームだったりするので、寝室はいくつかある。親子だからとギルドが1部屋にまとめてくれたのだが、気を遣ってくれたせいで、初めてのスイートルーム生活となった。米国ギルドには緘口令が敷かれているおかげで、俺とジェシーはこのスイートルームを拠点にして、アメリカ全土を回ることになっている。
「ねぇ、さすがに娘がいるんだから、服をきてね。パパ」
ジェシーが服を探そうとする。しかし、誰か来たようだ。
「お。ルームサービスが来たな」
長ズボンに上半身裸のパパがルームサービスがチャイムを鳴らす前に扉をあける。既に何度か上半身裸のジェシーにチャイムの前に出迎えられることを経験したホテルの女性従業員たちは、落ち着いて挨拶をしてくる。毎回、ジェシーが帰り際にチップをたくさん渡すものだから、多少の露出には目をつぶってくれるようだ。
そして、女性従業員たちは備え付けのテーブルにてきぱきと配膳をしていく。
「おいしそう」
通常は朝食を食べる時間だが、俺たちは一仕事をしてきたわけなので、しっかりしたディナーが用意されている。夜勤の人みたいな生活を現在送っているためだ。
「今日はステーキだな」
俺たちが風呂上り感のある姿のまま席に着く。
「パパ、服を着てね」
俺がそういうとジェシーが思い出したようにシャツを着る。
そのあと、女性従業員は、我々の食事が終わるまで室内のカウンターにてドリンクのリザーブ要員として待機してくれる。そして、食事が終われば片付けなどをして、食後のコーヒーやデザート、スナックなどを置いて去ってくれる。
「いたれり尽くせりね」
「あぁ、かなり突貫な仕事だから、気を遣ってるんだろう。1週間で3000万ドルの仕事だからな」
日本円で40数億円といったところだろうか。あまり実感はないが、メルの若返りの仕事に比べて大変な割に実入りが少ないと感じるかもしれない。しかし、メルの仕事はお断り価格ということで、あまり仕事を入れないでねという意思表示が含まれている。
それに対し、こちらの安全地帯は予算として出せる額を提示しているらしい。らしいというのは、貰いすぎじゃないかという話を南さんにしたのだが、既に妥当な額をガームドさんから提示されていたのだ。こちらも安すぎると仕事の依頼が溢れるということだったのだが、既に諸外国からオファーはたくさん来ている。
「今日は休みにしたからな。ちょっとラスベガス周辺で羽を伸ばすか」
ジェシーが素晴らしい提案をする。
「いいわね。でも、別行動でもいい?」
「ああ、問題ない」
どちらも俺だが、ジェシーとして動きたいところとアリスとして動きたいところは若干異なるので、個別に楽しむことになった。
ちなみにアクセルと遊ぶと思った人、はずれ。アクセルは、ラスベガスダンジョンに潜って絶賛レベル上げ中だ。深層にある安全地帯を使うことで、移動時間の削減、物資調達の効率化が効いているようだ。
そういうわけで、俺は少し仮眠を取ったら、気になっているところに向かおうと考えている。何かというと、グランドキャニオンに見えていたモヤモヤした感じのところが、何やら急に点になったのだ。え? 何を言っているのかって。それは、俺のラビリンス・ドリフトの感知が新しいダンジョンを見つけたかもしれないのだ。
モヤモヤはダンジョンが崩壊した後か、できる前の前兆みたいな気がする。そして、しっかりした点は、ダンジョンそのものだと思う。
そういうわけで、今日はグランドキャニオンの観光と一緒に新しいダンジョンができているんじゃないか疑惑を確認しようと思う。俺はラビリンス・ドリフトを使えば、ダンジョン間で飛べるので、ラスベガスダンジョンに少し入ってから、ぽっと現れたダンジョンに飛んでみようかと思う。ちょっと危険な気もするが、大丈夫。なんてったって、俺の代わりはいるもの。5人くらい。
ラスベガスダンジョンに何食わぬ顔で入る。どこの国もギルドのドッグタグさえあれば通常はスルーでダンジョンに入ることができる。逆に出るときに魔石などの検査がある国は多いらしい。資源の発掘場所と考えると、無断に持ち出されては困るのだ。日本はそういうとこ甘い。しかし、多少誤魔化しても魔石を集めてくれる人員が増えるほうが優先だとガームドさんも言っていた。
よーし、いっちょ行ってみるか。
「ラビリンス・ドリフト」
インビジブルからのダンジョン間転移。転移した先で何かいるか分からないので、隠密も働かせて最大限に警戒した。
警戒していたんだが、目の前に巨大な何かがいた。そして、なんか狭い。ここの空間、体育館くらいしかないんじゃないか?
相手はこちらに気づいていないようだ。ラビリンス・ドリフトの感知のおかげでおぼろげに外形は分かるが、巨大さから階層ボスのように思える。生まれたてのダンジョンって、空間も狭いのだろうか。
「でも、1階層だから、そこまで強くはないかな?」
光がないため、地下エリアなのだろうかと思うが、まだそういった空間の整備までが行われていないのかもしれない。俺はそんなことを考えつつ、とりあえず、そいつを倒してみることにした。相手の位置や大きさを感知すると頭がこの辺っと。
「お掃除っと!」
高いところから頭っぽい位置に踵落としを行う。すると、それは消滅していった。弱い!
いや、弱くてよかったのだけども。しかし、暗いのはよろしくない。そこで、俺はジェシーに変わる。ジェシーならばテリトリーを使って暗闇も問題ないのだ。
不意に後ろに気配を感じる。俺は、それににじり寄る。
「まって、まって。追いかけてきたのよ」
それはアリスの声だった。
「いつもと逆ね。俺5号よ。なんか楽しそうなことをしてそうだから、アリスになってついてきたのよ」
「なんだって」
暗闇の中で親子の再会。立場は逆だけど。
俺は小規模な安全地帯を作り、そこに照明を設置する。建物は無し。ちなみに、この照明、ハイマスト照明といって高い支柱の上に周囲を照らす複数のライトが設置されているものだ。広い空港や駐車場、スタジアムなどで使われている。それが、ダンジョン内を照らす。なんか狭いと思ったら本当に狭い地下空間だった。
そして、アリス姿の俺5号に事情を聴く。どうやら、俺がダンジョンへ入って消えていったのを感じ取って、アリスになって見ていたら不審なダンジョンに入ったことが分かったらしい。
こんなことなら最初から誘っておくんだったと少し後悔した。
「さすがに、教えてほしかったわ。楽しそうな探検なんて」
アリスの姿なので、アリスの話し方で文句を言ってくる俺5号。さすが俺。ぶれない。
「おれもちょっと様子を見て帰ろうかと思っていたが。でも、いきなり目の前に階層ボスが現れたからな。仕方ないんだ」
こちらも負けずにジェシーで返す。
まぁ、俺同士だから特にわだかまりはない。このまま、この未知の新ダンジョンを攻略しようという話になった。
つづきます。




