第7話 ひよりと行商人
ひより編です。
俺は俺3号。俺1号が新たに加えたアバターの遠山影子についてスキルの検証とか特訓という名で、山梨の遊園地に遊びに行っている。それも、女子高の1学年をまるまる演じてみるという狂気じみた検証を行うのだ。明るい子たち、おとなしい子たち、ストイックに乗り物を制覇していく子たち、乗り物そっちのけでカフェに入り浸る子たちなど色々演じるのだろう。何故わかるかって? 俺も俺だからな。
これも、いざというときのための特訓だったりするっていうのは本当だ。何かに役立つかもしれないという大義名分の下に、羽目を外しているのは否めないけどな。見てないから分からないが、絶対ミニスカート女子高生になって、きゃいきゃいするのを楽しんでいるはずだ。俺のことだから。
そんな事はいい。今は、2月14日に控えたダンジョンガイダンスの新機能【行商人モード】のリリースに向けた最終調整となっている。魔装開発局の開発チームは30人体制で行っている。今は、オーブマシナリ側のエンジニアも応援に加わっている。技術要素が近いためだ。
そして、俺は魔装開発局のオフィス内でガームド局長と対面している。いつものひより女史の姿だ。目の前には先ほど調整が終わったダンジョンガイダンス試作機が置いてある。
この会議では、常にペルソナをつけっぱなしになる。まさに、ひより様様だ。
「ハヤト先生。出来はいかがでしょうか」
ガームドさんが俺に訊ねてくる。なぜか開発責任者的なポジションを任せられているが、一子相伝な技術もあるため仕方ないと割り切っている。
「ええ、大丈夫ですね。マジックバッグの収納対象の回収精度が上がっています。やはり、収納対象の回収場所の制限と画像による認識を追加したことで、問題なく該当する物品だけを収納することができています。そこからの転送については問題なく実行できていますね」
ガームド局長がほっと息をつく。
「ありがとうございます。通信の部分は魔装開発局側にも知見が豊富ですからね。過去の実験データが役に立ちました」
魔装開発局というかガームドさん自身が、魔法通信の大家だ。
「今回のリリースに向けて、既に実証実験を行っているギルド支部では運用体制も整えました。ギルド職員の大幅増員なども、魔装開発局の臨時予算をばらまいて実施しましたよ。雇用が生まれて自治体の長たちは喜んでいます」
ガームドさんが各ギルド支部の進捗状況を端末に映して見せてくれる。
「確かに。では、これも最終的なテストに移行してください。遠隔でのアップデートの試験も同様にお願いします」
ガームドさんは笑顔で頷く。
「はい。既に人を配置していますので間もなく始まります。よければ、名古屋ギルドの買取部門に視察にいきませんか? ご覧になったことが無いと思うので」
「ギルドの買取部門といえば窓口ですよね。まだ他にあるんですか?」
ガームドさんはニヤリとする。
「見たら驚きますよ」
ガームドさんと秘書の方、そして、俺という3名で名古屋ギルドの裏手にあるビルに入っていく。そういえば、ここもギルドの所有ビルだった気がする。
「ここは、元は衣類関係の卸し業者の建屋だったんで、広い倉庫と配送に関わるトラックの発着場まであるんですよ。名古屋駅前だったので地価高騰の時に売りに出ていて、ギルドが買い取りました。もっと早くお見せしたかったんですが、多忙なのとリノベーション部分の工事が終わってなかったので遅くなってしまいました」
ガームドさんが案内してくれた部屋というか倉庫は、天井が10メートルはあるだろうか。いくつもの大型の鉄枠で作られた棚が並び、その間を自動車が入れるくらいの通路がある。
「たかーい」
「ここは所謂、行商人の買い入れた物と販売する物を保管する場所になっています。リノベーションした部分には、大型の冷蔵庫、冷凍庫も完備しました。これが時間がかかりました」
食料や生の材料などは冷蔵や冷凍保管が必要だ。現行のギルドでも買い入れた物を保管するエリアはあったが、それでもここまでの広さは求めていなかったはずだ。
「かなり広いですね。名古屋ダンジョンだけでは無駄になりそうです」
軽く試算したのだろうか。ひよりがそんなことを言う。
「そうですね。ここは、東海圏にあるダンジョンの行商人運用をすべて賄います」
ガームドさんは得意げに話す。こちらをちらっと見て、眉をぴくぴくと動かしている。
「え、その構想って、通信範囲の問題でうまくいかなかったはずじゃ」
「私が頑張りました!と言いたいところですが、実はオーブマシナリの方が見つけた通信効率のいい媒体を受信側に使うことで可能になりました。あいにく、特定のダンジョン間にブースターをつけなければなりませんでしたけどね。そして、お詫びします。こっちは驚かせたくて黙っていました」
ガームドさんが謝罪するが、そんなことは問題ない。
「いえいえ、いいですよ。このスピード感で進んでいるプロジェクトですから、驚くことの2,3ありますよ」
ひよりは大人だなぁ。ほんとは10代だが。
「ありがとうございます。お、ちょうど、実証実験に行っているクランからアイテムが送られてきますね。実践的にやりたいという事なので、買取査定なども行います。こちら、査定に関しては魔装開発局が2年かけて作った自動査定の装置を導入しています。
査定結果に応じて入金も自動的に行われます。相場の反映なんかも行えるので、あまりに多数買取が続くと相場の下落なども反映します」
その説明の後、買取品が来るエリアが騒がしくなる。
「お、きましたね。行ってみましょう」
そこには、角や皮、中には、木といった大き目のアイテムがなだれ込んできた。
「どれも、そこまで価値のあるものではないですね」
どうやら浅い階層の物を送ってきているようだ。
「しかし、それは魔石と比べての話です。こういうものもダンジョン攻略上の価値や、工業的な価値があります。あ、釈迦に説法でしたね」
たまにガームドさんがドイツ人だと忘れる。釈迦に説法とか、なかなか日本人同士でも出てこないぞ。
「いえいえ。あ、次もでてきましたね。こちらは別なんですね。ちゃんと販売している方に応じて分類されるんですね」
次は鉱石の他、大き目の魔石、そして、かさばりそうな両手武器や盾といったドロップ品が現れる。武器防具なんかも低確率ながらドロップする。どれくらいの物なんだろう。
「かなり強い武器と防具ですね。これなら最前線からの販売なんじゃないですか?」
ひよりの質問にガームドさんが探索者を確認する。
「これは大和クランの寺野下みどりさんですね。彼女は安全地帯の拡大への協力者として、東京だけでなく名古屋にも進出されていますよ。最近はアメリカに行きたいとしきりに言っていると聞きましたが、クラン活動に支障があるので却下されているようですね」
寺野下みどりさんは、大和の魔法使いで、東京ビックダンジョンの安全地帯構築の際、共同作戦を行った女性だ。ジェシーの安全地帯を気に入り、ジェシーのことをべた褒めしていたのを覚えている。ひよりとしては直接会っていないので、すでに得た他アバターの記憶でしかないが。
それにしても、みどりさん頑張ってるんだな。アメリカ行きってあちらにも安全地帯を作っているから、その件だろうか。本当に頭が下がる。
そんな話をしている間も、次々に物が送られてくる。
「終わりませんね」
「大和はこんな感じです。さすが、日本のトップクランの1つです。最前線のモンスター密度は高いですからね、ドロップ品を丁寧に送るとこんなことになります。今までのダンジョンでの買取傾向と比較して分析しましたが、探索者はドロップ品の9割を廃棄しています。そのため、物流に乗らない商品も多数存在します」
ガームドさんは、市場予測とダンジョンから得られる経済効果まで話を始めた。単純に言えば、ダンジョン産の物資の流通が10倍に増えるので一時的に価格が下がるだろうということだ。しかし、ダンジョン産物資の活用については、色々とあるため、需要と供給が釣り合ったとき、ダンジョンを中心とした市場が更に数倍拡大するだろうという話を始めた。
「手数料もしっかりとエバーヴェイルに入りますし、ハヤト先生へのライセンス費もしっかりと払い始めます。3月からとなりますが、かなりの額になると思います」
南さんが税理士事務所を抱え込んでいたから大丈夫じゃないかなと思う。
「では、販売の方もお見せしましょう」
「こちらは静かなものですよ。あらかじめ販売可能なものを販売用のマジックバッグに入れておくことで、自動的に販売して送付してくれます。この倉庫は補充用の在庫倉庫というところです。あ、今売れましたね。食料とポーションが売れましたね。後は、汗拭きシート。ポーション以外は、買取に比べて安いので、こちらは探索者に対する支援に近いサービスですね。これも釈迦になんとかですが」
そうして、何度か販売と買取が繰り返されるのを確認する。そして、おもむろにガームドさんに告げる。
「そういえば、ちょっと面白いものが手に入ったんです。多分、ダンジョンの素じゃないかと思われる物体です。タンブラーのような見た目ですが、そこからダンジョンが出来上がると思われます」
ガームドさんは少し驚いたようだが、少しだ。
「さすがハヤト先生です。蓋つきのタンブラーみたいな外見ですよね」
「え? 知ってるんですか?」
「ええ、過去に1度発見されています。ダンジョンシードという名前でギルド内の極一部が
知っています。ただし、そこからは何もわかっていません」
この場では話しにくいとのことで、ガームドさんとは一旦この話をやめる。近く話をするということにして、その場は解散となったのだった。
ダンジョンガイダンスの行商人モードがいよいよリリース間近です。




