留守の間の注意事項
「 ―― おれがいない間、おれの机にものを置くな。それと、ロッカーにもおまえの私物をいれるな。 いいか、ケン、前にぬれたままのおまえのブーツがはいってたことがあったが、」
「わかってるよ。さんざん文句いわれて掃除もしたろ?」
大柄で浅黒い肌のニコルは怒った顔をしていてもどこか愛嬌がある。
一方の短髪黒髪の男は、ほとんどいつも、いまみたいな人をばかにするような笑みをうかべている。
「・・・あと、引き出しにさわるな」
これは絶対だというように、ニコルに太い指をつきつけられたケンは、降伏を示すように両手をあげてみせた。
それをみていたザックはルイをふりかえり、あれってなに?ときいてみる。
机で書類をまとめていた男はいつもののんびりとしたしゃべり方でこたえる。
「まえに一週間休暇をとって帰ってきたときのニコルの縄張りは、ほぼケンに侵食されてたからなあ」
「侵食じゃない、汚染だ」
まじめな声で《被害者》は訂正をいれた。
まあね、とむこうの席でコーヒーを飲むウィルが思い出したようにわらう。
「自分のじゃない、食べかけの菓子類、書きかけの書類、ぬいだTシャツとかがあちこちから出てきたら、ニコルじゃなくても文句言うよね」
これに、机で書類に目をおとしている副班長のジャンも、にやけながら同意見をしめす手をあげた。