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3 昇級試験


「確認が取れました。シアンギルドのゴールドランク冒険者、ジン様ですね。ライセンスカードをお返しします。そしてこちらがエンジギルドのライセンスカードになります」


 二枚のライセンスカードを受け取る。


 片方はこれまで使っていたシルバーランクのもの。


 もう片方はランクとしては一番下にあたるアイアンランクのもの。


「ジン様はゴールドランク冒険者としての実績がありますのでエンジギルドの所属試験は免除となり、直近のブロンズランク昇級試験に挑戦することが可能です」

「昇級試験か。それはいつに?」

「今日です」

「今日」

「この場で手続きも可能ですが、いかがなさいますか?」

「本当は前もって準備してくもんだけど……」


 でもブロンズの昇格試験だ。


 過去に一発合格してるし、難易度もそう高くはないか。


「受けます」

「では、こちらの書類にサインと――」


 昇級試験の登録を済ませ、うんと伸びをしてからエンジギルドを後にする。


 外に出るとまだ見慣れない街並みが広がり、水の匂いがすこし鼻につく。


 ここはエフメールという名の街。


 街中に水路が張り巡らされ、舟が移動手段として成立している。


 かつては家の数より橋のほうが多いと面白おかしく言われるほどだったと言う。


「習合場所は……あっちか」


 受付嬢からの情報を頼りに街を歩き、人に道を尋ねながら集合場所へ。


「あれかな」


 道行く歳の若い冒険者たちが行き着く先に建物がある。


 スタジアム型の競技場のようでその中で試験が行われるらしい。


 入り口に立つ係員にライセンスカードを見せるとすんなり入れてくれた。


「なんかあの人だけ大人じゃね?」

「ホントだ。どっかのギルドから移って来たとか?」

「それかブロンズの試験に落ちまくってるか」

「ありえそー」


 十代くらいの冒険者に囲まれるとどうしても二十代の自分が浮く。


 それほど歳が離れている訳でもないはずだけど。


「あれ、ジンさん?」

「ん?」


 誰も俺のことを知らない街で声が掛かる。


 振り向くと試験官の一人と思しき冒険者が手を振っていた。


「やっぱりジンさんだ」

「カノン? 久しぶり」


 エンジギルドのゴールドランク冒険者カノン。


 茶髪にラフな格好をした優男で、何度か一緒に仕事をしたことがある。


 人なつっこい性格で年上にモテるらしい。


「ジンさんここで何してるの?」

「見てわかるだろ? 試験受けてるの」

「うちの? それもブロンズ」

「そう。訳あってこっちのギルドの世話になることにしたんだ」

「わお、そうなんだ。じゃあジンさん僕の後輩になるの? やったー」

「後輩……まぁ、そうなるか」

「じゃあ今度ジュース買ってきてもらおうかなー」

「いいぜ、顔面に届けてやる」

「やっぱ遠慮しとこー」


 元パーティーメンバーについて言及しない心遣いはありがたい。


 こう言う気遣いが出来るからモテるんだろうな、カノンは。


「なぁ、さっきの人カノンさんと話してるぞ」

「しかもなんかカノンさんのほうが後輩っぽくないか?」

「どういう関係?」


 周りの目をすこし気にしたりもしつつ、カノンと昔話に花を咲かせる。


 時間は思ったよりも早く過ぎ、競技場の空気ががらりと変わった。


「おっと、時間だ。僕は試験官のお仕事があるからここで」

「あぁ、また今度」


 カノンはその足で冒険者たちの前に立つ。


「どうもー、試験官のカノンです。今回はブロンズランクへの昇級試験ということで、早速始めていきましょう。ゴーレムおねがーい」


 競技場の中心に浮かぶ大きな魔法陣。


 輝きを放つそれの中心に光が集い、それは見上げるほどの物質を形作る。


 石造りの巨大ゴーレム。全長五メートルはある。


 ちなみに召喚されたように見えるが、これは転送魔法で似て非なるものだ。


「はい、じゃあこれから一人ずつこのゴーレム攻撃してもらいます。持ち時間十秒でどれだけゴーレムを破壊できるかで合否が決まるので、みなさん頑張ってねー。じゃあキミからどうぞー」


 ぬるっとしたスムーズな進行で昇級試験が始まった。


 一人につき十秒間、魔法によって壊れたゴーレムが修復されるのに二秒ほど。


 諸々の時間を加算しても一人に掛かる時間は少ない。


 挑戦は次々に行われ、それぞれの力量に見合った結果が残されていく。


「今のところ平均は二割くらいか」


 ゴーレムの設定が硬めにされているのか、みんな苦戦しているみたいだ。


 だいたい腕一本分くらい破壊したところで時間切れとなっている。


 そんな中、一際目を引く魔法を放った冒険者がいた。


「おー」


 舞い散る花弁が複数の刃を形勢し、多方面からゴーレムを切り崩す。


 角張った瓦礫がごとりと落ちて破壊具合は半分ほど。


 他の冒険者とは一線を画した実力に他の試験官も唸る。


 見た目の華やかさも相まってこれまでの誰よりも注目を引いていた。


「名前はたしか……ロゼか」


 ロゼという名の少女。


 綺麗なブロンドの髪に紅色の瞳を憶えておこう。


「次の方」

「あ、俺だ」


 順番が巡り移動。


「あ、あの人の番だ」

「カノンさんの知り合いみたいだし、どんなもんなんだろ」


 ゴーレムの前に立ち、短く息を吐く。


「はじめ」


 その言葉と共にマガミの力を借りて憑依状態へ。


 頭髪が真っ白に染まり、獣耳と尻尾が生え、力強く地面を蹴る。


 同時に拳を握り締め、ゴーレムの胴体に一撃を見舞う。


「ヒュー! 流石ジンさん」


 弾け飛ぶ瓦礫、砕け散る巨体。


 胴体に大きな風穴を開けたゴーレムはバラバラに崩れ伏した。


 全壊。


「よし、上手くいった」


 これなら昇級間違いなしだ。

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