断片的な力
「ジェバル、そろそろ移動するぞ。賢者の石が気になるのは分かるがこれでも俺等は他の連中に目をつけられているのには変わらない訳だしいい加減に準備しろ」
「ごめん、結構魔力が賢者の石に吸われたからその分の供給を待っていたんだけど数分で溜まる位凄い奴だし…どんな事に使えるのか気になっちゃってさ」
呆れた顔で話を聞くルウェーだが実際この藍色の賢者の石はまるで誓約者に合わせて造られたような物で詳しく詳細を眺めるだけでどんどんと疑問が出てくる。気になるのは元々魔力は備わっていると勝手に思っていたし頭に強制的に流れ込んでくる情報もお伽噺に出てくるのと大して変わらないから別に必要ない訳だし誓約者に『忠義』を授けるのもその内嫌になる位分かる事だろう、無責任かもしれないが割り切って考えた方が一週間ちょっとの間悩み続けることは無いからそんな感じで行こう。
賢者の石を失くさないように【宝物庫】の中に入れといて先を急ぐルウェーに置いていかれないように歩き出す。ウェールの【幻想】によって辺りが木々に囲まれていた場所だったが皆が馬車に乗り込んで移動を始めるとそこまであった木々はだんだんと薄く消えていき馬がその場を離れた時にはただの草原が残っていた。
「これから移動を挟みますが完全に敵が来るわけでもないので一応交代しながら見張りをお願いします。普通に魔物が出てくる可能性があるのでそこら辺もよろしくお願いします」
「いやー『M&F』はやっぱり賢者の石目的で来たんだよね?結構連携取れてたけどシガルダ君が上手く対処してくれたし…私たちは色々と楽できたからありがとねー」
「チーム行動ですから気にしないでください、無理を言って参加させてもらっているので簡単な事だったら率先してやるんで」
争奪戦に参加する際に飛び入り参加してきたシガルダ…一応軽い話はしたがガドマからは結構頑張って話しているから自分から話し始めたら自然にしてやってくれ、とか言われたがそんな風にも見えないし…全然馴染めているから気にする事でもなさそうと結論付けている。
シガルダは一般的な剣術や武術といった物を使わない戦い方を軸に置いているらしく魔力で強靭に仕立て上げた糸を操って戦うというスタイルで実際にどんな風に糸を使うのか見せてもらった時はとんでもない速さで空中を移動する糸は普通に投擲された短剣と同様の物だし、その気になれば何かを括り付けて飛ばしたりと一番やられたら厄介になること間違いなしの戦い方をしている。
「オルフィット、このまま西に行って転々と町を移動する訳だが…」
「明け方にも教授とジェバルさんが提案した結界魔法で擬似的に安全地帯を造り出すのはさっきウェールに手伝って貰いましたが駄目でした」
そりゃそうか、勝手にルールを付け加えるようなことする時点でどうかと思ったが駄目だと分かれば諦めがつく。馬車の揺れる中でこれから向かう先である町は都市部と言われている場所とは違って小規模であるが密集した造りだから長い間奪いにやって来るであろう存在から戦闘を意図的に避けて身を隠すのなら一番最適だと場所だと思ったが…
「オルフィット、もっと馬を走らせるんだ!賞金狩りの連中がこっちに突っ込んで来ている」
ドゴン、大きな音の後馬車が大きく揺れて前で休憩をしていたシグマリがこっちに飛んできたがしっかり支えて外を見ていたルウェーは自分からしたら豆粒程度にしか見えないが色々と因縁がある賞金狩りがこちらに来ているようで馬車の中にいた半分は首を傾げ、半分はまた面倒事が寄って来たことに頭を悩ませていた。
実際、もう数十分程度で町に辿り着くというのに臨時の拠点になるはずの場所までに敵を入れ込むのはしたくないのだがここで馬車を止めていれば袋叩きにされる未来が目に見えるなら、このまま逃げながら町で撒いて何とかするしかないな…
「一人、二人…五、六?」
「大御所がそんな少ない人数で殴りに来るわけないですよ、数の暴力を売りにしている人達なんですから絶対に裏がありますって!」
「引っ掛かるな、結構な距離離れているのに正確に攻撃してくる賞金狩りは大して少ないから可能性として有り得そうなのは……」
ルウェーの言葉の後に飛んできた矢を外に出たウェールが弾き返して影を伝って馬車の中に戻って来たがあの長距離での攻撃が出来る賞金狩りが出来るのは少なからず自分の中だと一人しかいない。いや合わせて一人の奴だったな、その内会えるとは思っていたがこんな時に姿を見るとは思いたくないな
「監視員の連中か…猛スピードで来るぞ!」
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「すいません、弾かれました」
「気にすんな【先導者】ホディル・バーン…賞金狩りの元締め直々の命令だ。約一年ぶりの戦闘で足手まといになるかもしれないがそこの所のカバーはよろしく頼むぜ」
「何言っているんですかボス先輩、結構やる気満々何ですからこのまま慎重に攻めていきましょう…ルーナと僕は『水浪』に用があるのでボス先輩達の健闘祈ってます」
お前も頑張れよ、と笑いながら他の監視者に合図を送りボス先輩に僕以外の監視員が先に走っていくのを見送り馬を横に向かせて町に逃げ込もうと一直線に繋がる舗装された道を走る馬車目掛けて弓矢を構えゆっくりと、しかし確実に弦を引き続け呼吸を整えた後、同じ馬に跨るルーナの視界を共有しながら放った一本の矢は馬車の荷台とも言える中に入り込んだがその荷台の中には誰一人も命の存在を感じる事ができなかった。
「ジェバル達がいない…?あの一瞬で移動したとも考えられないし、賢者の石が持つ能力とかなのかな?」
「ホディルさんが持つのがあんなにも極端な物なんだから可能性としてもゼロという訳じゃないんだから警戒は怠らない、分かってるでしょフリデップ」
「分かってるよ、ボス先輩達の事もあるからこういう時はよく念入りにしないとね。再確認のためにもう一矢だけ…」
ブン、と音を立てて再度馬車目掛けて放つが先程と同様全くと言っていい程、矢から伝わる振動が全く持って人がいないことを感じられた。一応【同調】付きでの事もあってルーナも納得したのかボス先輩の後方支援の出来る所に向かおうとする。馬を走らせている途中、ふと頭を過ったことがあったのだがだんだんと思い出してきたのだ、既に一度死んでいて気配を隠すのに特化している存在について一年も前の事だから少し忘れ掛けていたが今ハッキリと思い出した。
誰もいない馬車なんてのは罠だ、あそこに一人だけ殿を任せられた化け物がそこにいる。弓を構えるが丁度近くに生えている木々の陰に入られてしまい遠距離での攻撃は無意味となってしまった。すぐさま馬を走らせて再度馬車に攻撃を入れられる場所に移るために足早に馬を走らせだんだんと近づくボス先輩と同じ監視員の小さな後ろ姿を見る。
「フリデップ、あの魔人はボス先輩に任せて私達は町の中に入っていったジェバル達を追うべき心配なのは私もそうだけど馬の機動力が無くなった上に集団で動いている方を叩いた方が的確」
「あっちにはコジロウもいる訳だし後方支援職の人間が行った所で間合いを詰められた近距離の存在に何も出来ないから一理ある…!ルーナの言葉を信じるよ」
それはそうと、町の中に逃げられて建物が密集している中虱潰しに探すのは良くないからここは前もって行動に移さないとね…呼吸を整えて手元で握っている弓矢に簡易的な付与魔法を施しておいて遠方目指して弓を引き矢が一定の高さに辿り着いた所で付与された魔法が発動し矢はその場に留まった後各方面に砕け散って町の至る所に降り注ぎ地面に、壁に、屋根に溶けていく。
「見つけたよジェバル、今回は竜の介入もないから一回だけでも本気で戦いたかったんだ。土俵にも上がっていないけど先手は僕からやらせてもうよ【隕突】」
一点に集約された矢が一本の弓から放たれそのまま弧を描き放った人間が目指した存在に溢れんばかりの殺意を無数に増えた矢に込めて降りかかる。二投目を置いて最短距離で門に向かう中、馬車から放たれる殺気から目を背きながら進み町の入り口となる門に向かうが先に着いていた馬車から一人の魔人が姿を現す。
こちらには興味が無いのか近づいても全く反応をしないのでそのまま門を通り【隕突】が当たったであろう場所の近くに馬を走らせる。後ろを向いて門の前で睨みを聞かせていていた監視員は自分と同様に門を通れたのだが、ボス先輩が門に近づこうとすると魔人ウェールによって阻まれていた。
「フリデップ!『水浪』の仲間はどこに?」
「ここから一直線に行った所に仲間がいます、二人組なんでコジロウさんとフィンデルさんとで行ってください。自分は『水浪』に用があるんでそっちに援助射撃は出来ないと思うので、そこの所は理解してもらえると助かります」
「了解…!」
馬から降りたコジロウとフィンデルが目の前の建物の屋根に飛び乗って移動していくのを横目で見ながら二手に分かれる道を自分は右に曲がり残りの監視員の二人は左に曲がった。さっき通った門の方ではかなりの騒音が聞こえるがボス先輩は大丈夫だろうか…
■+
「わざわざ、俺だけ残して他の仲間を入れるのは『水浪』…ジェバルの奴が考えたんか?」
「争奪戦が始まって早々、色々な方々に遭遇して色々と困っているんですよ。ですが、また邪魔をしに来る存在が現れるのでどうせなら私にとって、主にとって害のある貴方を一度安全地帯に帰ってもらうだけです」
「はは、戦闘だけが生きる目的じゃないんだ俺は、ちょっとばかし石に興味があるってだけだ。その門を通してくれると助かるんだが…」
何も言わずに、気づかない内にスラっと剣を手に握っておりすかさず俺も【贈物:受託】によって手元に顕現するのは以前使ったことのある『断鎌』を構え途端あの一瞬で飛び掛かって互いにぶつかり合う。
「本当はルウェーの奴に前の怪我の帳尻をつけてやりたい所だったが、売られた喧嘩は買ってやるよ。この鎌が目の前の奴を断てって訴えかけてきているからな!」
「私もその鎌には嫌な思い入れしかない、だから粉々に…砕いてやる」
鎌を振り切って再度間合いを離して深呼吸をして少しずつ魔力を流し込んで武器から得られる恩恵を最大限受け取りつつ覚悟を決めて目の前でゆらゆらと実体が無いのではないかと考えるがピリピリとそれまでの空気が嘘だったように一気に重くなって気分は最高に悪いが…目の前の獣を懲らしめるって考え直してみれば全くこんなの何と言う事無いんだわ!
「根性比べだなぁ!」
「刻み尽くしてやる」
左右から空を切る短剣を弾き鎌を地面に刺して勢いをつけて斬りかかり鎌を横振りつつ片手で【火炎弾】を連発するが目の前に現れた一本の短剣に邪魔されるがまだまだ『断鎌』はこんなもんじゃないからな…魔力を入れ続ければどんな戦いでも死なずに動ける。
凶暴な化け物をここに留めることができれば十分ここで『水浪』の動きを止められれば追々追い詰める事くらい可能だからな、それまで幾らでも戦ってやるよ




