遮蔽なき刃
「お前等このままこの森林に逃げ込んだ賢者の石を抱えている『水浪』を叩くぞ!」
「「おう!!」」
後ろにいる仲間たちを鼓舞しながら馬に跨がり全速力で逃げて行った争奪戦の火種とも言える藍色の賢者の石を手にしている元特級のジェバル・ユーストに目をつけた。争奪戦が始まった途端どういうことかその場にいた全員が賢者の石を手にしている誓約者とも言える存在の名前が不思議と浮かび上がったのだ、その情報が正しければ相手にしたら五つもある【仮初の命】であろうと足りないだろうがそれに比べればまだ小童に等しい存在を叩くのが合理的だと判断した。
都市部にいると思われる【黒蜥蜴】から逃げるのは誰もが逃げるだろうな、あんな殺人鬼という言葉以上の事をする輩と対峙するのは賢者の石を持つ人間かそれに等しいくらい頭のネジが外れまくっている奴だけだが…そんな存在がいることを心の中で祈りながら馬を走らせる。
後ろの連中に見えるように左手を上げて散開の合図を送り左右に二人組のチームが自分の所から離れるのを確認して自分が三人の仲間を連れて異様に木々が密集している地帯に足を運ぶ。魔力感知に全く反応しないが相手はどんだけ舐めても石に認められた奴だ油断はできないが…
「フッパ!いつでも戦闘の準備をしておけ、ファスとムーエ達が接敵する可能性があるがこっちも何があるか分からないから気をつけろよ?!」
「了解…!」
木々を避け馬と呼吸を合わせて進むとそれまでパタリとなかった魔力を感じ取ることができ警戒を怠らずに進み続け一本の木を通り過ぎる所で人影が見えたのに合わせて後ろにいた三人全員が一斉に魔法を放ったが人影は魔法に当たることはなく前を進む俺たちに向けて一本の短剣を投げると木に隠れて影すらも見えない状態になった。
短剣は俺自身に向けて放たれたものだったが特段素早い物でもなかったため気にすることなく対処できたが牽制にしては少ない方…こちらが木の陰に隠れた存在を追うと考えたのか?しかし『水浪』は魔法を主軸とした魔法剣士のような存在の筈だが…一年も姿を消せば何が変わっていてもおかしくはない。冷静に対処しなくては…
「オジェクト隊長大丈夫ですか!」
「負傷者は誰も出ていないな?それよりも笛を鳴らして出来る範囲で【同調】をして情報を早めに共有して『水浪』、もしくは仲間に遭遇した。とだけ伝えておけ」
【同調】で仲間に情報が共有し始めたのを確認してさっきの人影の対処を考えながら馬を走らせていると光の反射で目の前で微かに輝く細い何かを視界に入って来たのを認識した時には既に遅かった、【同調】をしていたフッパは魔力が帯びられていた糸に反応することも出来ずに首が刎ね体が馬から落ちるとボロボロと体が崩れていった。
俺とヴァークにブリッツはフッパのような攻撃は来なかった訳ではなく俺は体を横にして避けた際に左耳が綺麗さっぱり刎ね、ヴァークは別の糸で左腕を、小笛を吹いていたブリッツはその小笛を持っていた手首を狙われたようでさっきの一瞬でとんでもないことになってしまった。
驚くべき所は他にもあり、丁度馬に乗っていないと引っ掛からないような高さにさっきの鋼のような糸が隠されており…こちらの状況が分からなければ一人一人に攻撃を行うのは不可能だというのに恐ろしい。『水浪』の他に誓約者がこの森の中にいるのだろうか…厄介な奴に巻き込まれたものだ、姿さえ分かればこちらにも多少の分があるのだがどう行動するのが今最善か
「隊長…!両班共に同時刻に攻撃を受けたとファスから連絡が!」
「あの一瞬で何が…!」
俺も横で並走している仲間も先程の攻撃で患部の手当てと重心が取りづらい中での騎従はとてもじゃないが難しい。かと言って機動力とも言える馬から降りた所で止まった所を狙われて何もせずに【仮初の命】を無駄にしてしまうことになってしまう。冷や汗が首元を伝った時微かに前方の木の葉が動いた気がし後ろに掛けていたポーチからナイフを取り出しすかさず投げ入れると金属音が鳴り響き躊躇いなく連続してその場を吹き飛ばす位の量の魔法を撃ち込み警戒をしつつ後ろに下がる。
痛みは多少軽減されているはずの左耳が痛むが歯を噛み締めて堪え後ろを振り返るとフードを深く被った人間が何もない所を掴んでこちらを追ってきていた。素顔を見る事が出来ない何かに恐怖を抱きながらさっき使った分の魔力を回復させて後ろから迫ってくる『水浪』の仲間だと思われる人間が近づいた瞬間に全てが決まる。
「攻撃が来る!防御魔法は必ず展開しておけ!」
ブン、空気が素早く斬れる音が片耳から聞こえ自分たちの行く末が決まる攻防が始まった。初めに犠牲になったのは防御魔法を展開していたにも関わらずに何も抵抗できずにブリッツが切り刻まれ落馬しそのまま鈍い音を出して体を砕けていった。真横で起きた一方的な残虐に耐えられないものだったがとんでもない速さで通り過ぎたフードの奥に隠されていた素顔を見えたが理解が追い付かなかった。
「何で獣人族が…?」
「隊長、空気を斬る音が近づいてきた!」
「………!」
フードの奥に見えた特徴的な耳が見えたのだが自らが危険を晒すような商業国家に赴くような存在が争奪戦に参加しているのは何故だ?極端に人間族を嫌っているのは知っているがわざわざここまで狙われるような場所に来るのは理解できないのだ…緊迫した空気の中で緩んでしまった自分を叩き起こす声が極限状態の『M&F』の俺等に現実を突きつけられる。
殺気が籠った視線が後頭部に注がれたのを感じ取り後ろから遠く離れた木に向かって放たれた魔力を帯びた糸がとんでもない速さで飛んでいくのを見たがこの後来るだろうと予測できた攻撃としては一気俺等を追い詰めた糸ではなく純粋な接近戦…!
右手に握られた剣を振るい丁度良く振り相手の獣人族の振るった刃がキリキリと音を軋ませながらもう片方の手で【火炎球】を展開して放ったがフードの奥に見えた獣人族の顔は全く表情を変えることなく片手で扱う短剣が俺の剣をそのまま引き留めたまま【火炎球】を押し突くようにして魔法を壊しいつの間にか伸ばしていた糸を掴み前を進む俺等とは反対方向に空中を滑るようにして木々の裏に入り込まれて見失ってしまった。
「すみません、少しの所で糸が攻撃を防いだせいで…!」
「いい、このまま森から抜ける事を優先する!ここは相手の巣に近い、出来るなら生き残っている仲間との合流をしたいがこの状態だからな…」
「後ろは自分がやります、このまま隊長は先導をお願いしまっ――――」
いつから糸が張り巡っていたのだろう、ただやり取りをしていた途中であってもヴァークも俺も魔力感知を怠っていなかった。そんな魔法の絶対的真理が崩れることなんて絶対に無いというのに…糸に括りつけられていた先程の獣人族が握っていた短剣がそのまま弧を描くようにこっちの首目掛けて飛び掛かるが後ろから差し込まれるような速さでは無かった為攻撃を防ぐことができたが…糸は後ろへ下がっていった。
これだけ魔力感知が作動しないのは賢者の石の効果なのか?魔力を何も制限なく使える他に何かしらが備わっていたりしたらこんな芸当でもできるのだろうか。結局何も分からず仕舞いで後ろから風を斬る音がだんだんと近づいて来て最後に一太刀でも与えることが出来るのなら…そんな気持ちで深呼吸を挟む情けを掛けるように今までの違和感をあの獣人族は優しく諭していた。
「そもそも俺等は森になんか入っていなかったんだ、都市部の周りは草原地帯が広がっていてこんな出てすぐに森林など存在していない…手の込んだ【幻想】だ」
馬を走らすのを止めて剣を地面に捨てて片腕を上げて降参を示すと一瞬音が止まったが再び音が聞こえ目を閉じて後ろから差し込まれたであろう短剣が自身の体が貫かれた途端体はその場で崩れたのだろうが気づいた時には部屋に置かれていたベッドに横たわっていた。
「あ、隊長も戻って来たぞ!」
「ヴァーク、ここは…」
「【仮初の命】の機能が働いたら自動的に送り込まれる安全地帯らしいです。他の仲間は賢者の石が定めた分の基準を達成するために近辺の魔物狩りしている感じですね。『水浪』の所…現時点で既に賢者の石を持っているから基準越えしているのに俺等が突っ込んで現在五位ですよ」
「五位…?」
「雇い主の二代目【狂王】と名高い『戦王』のディスレット・ドルダーさんが現在トップを走っていて続いてあの【神出鬼没】が暴れ回っている感じで…」
「化け物に力を持たせると手のつけようがないな…」
ベッドから体を起こして隣でリラックスしているヴァークに色々と聞くが雇い主は何を望んで『M&F』何かに金を注ぎこんだのだろう、結果としては分かり切った事なんだが化け物の考えていることは全く分からないな。
◆
「姉さん、こっちは片付いたよ」
「お疲れ様、シガルダ。こっちに来てた『M&F』のお仲間さんも全員安全地帯の方に送ってやったから今のところは安全よ」
「その…賢者の石を持っているジェバルは今どんな感じなの?」
「え?何か色々と扱いに難儀しているみたいでもう少し時間が掛かるみたい。制御できなくてもこのままウェールが【幻想】で造り上げた森の中に居座る訳にはいかないからこの場から移動して安全を確保できる場所に移動だって」
「了解」
オルフィットから今回の仲間全員に配られた魔法道具のお陰でこうして会話ができるので物凄く助かっている、普通に欲しい位には高性能だ。魔法道具を一旦仕舞ってさっきの戦闘で足りなかった所を見直していた。
もう少し効率の良い魔力の使い方はないだろうか…一瞬の魔力のブレで相手に認識させてしまう所があるから確実に仕留めるにも扱いをこの一日が終わるまでに完璧に仕上げておかないと…必ず一筋縄では通らない敵も現れる可能性が無いわけではないからな、【幻想】で造り出された木の上で休憩しながら近づいてくる敵が来ないか見張っていた。
『M&F』
結構実績を積んで、功績も残している十人の傭兵で切り盛りしている団体。今回の争奪戦でどこまで行けるか実力を試すために参加したが、海の遥か向こうにいた言ってきた【狂王】に大金を支払われて急遽『水浪』の所に特攻したがシガルダの糸を使った戦闘に為す術なくやられた。
字面ではとても弱そうに聞こえてしまうが信頼の高い仲間との連携で後日、鴨だと思ったそこそこ戦える三下達の奇襲に遭うが全く損害なしで返り討ちにしたのだそう




