絶え間ない風を貴方に
「何で『英雄武器の欠片』を?」
「さぁ…【勇者】は色んな所で自分の功績を残していく人間だからな、人なんか行かないところにでも自ずと足を運んでいる可能性だってあるからなぁ」
勘なのかどうなのか分からないようにしているキャッツェ王なのだが『英雄武器の欠片』を持っていることは確実に分かっているみたいだ。後ろにいた教授は本当なのかオルフィットに聞いているみたいだけど何も伝えていないオルフィットは首を大袈裟に振っていた。
「お前さんはその武器の卵とも言える存在をどうするんだ?何もせずにそのまま誰も触れることがない空間に放っておくのか?」
「…………」
「実際それを技術の国に持って行ったりしたら立派な武器が出来上がると思うが英雄武器に成り損なった半端な物が造り上げられちまうだろうな。それが分かる奴があそこには山ほどいるからそんな心配は必要ないだろうが…」
「謂わばそれは武器の補助的な存在でな、お前さんと『アルチャー』を呼んだ理由がそこにあってな」
キャッツェがつらつらと英雄武器の欠片について喋っていたのだが守護者との会話で聞いた英雄武器の存在とは違って武器に何かしらの進化を促す素材みたいな言い方をしているみたいな感じがしたのだが…手帳を広げて物凄い速さで書き込んでいるオルフィットと真剣な顔をしてキャッツェ王の事を見ていたポトッル教授は突然話を振られて少し驚いていた。
「『真匠』の技術の公開許可ってことですか、いいんですか?」
「それ相応のもん持っている人間は中々いねぇんだからいいんだよ」
「…はて、ただ世界の事を知りたいしがない研究員ですよ。大層な物なんてね必要がないんですよ」
「親父、そろそろ炉もいい具合だ…そろそろいいか?」
豪快に笑うキャッツェ王は好きにしろと言った後ポトッル教授を見ながら部屋を出ると息を吐いた教授は乾いた笑いをすると何を隠しているのかオルフィットに襟首を掴まれて脅されているのだがそんなに隠し事をする人なのか?引っかかるが物凄い真剣な顔をしたガドマが自分の目の前に立つ。
「親父が言った通り『真匠』の技術を『アルチャー』に見せるっていう理由てのと『英雄武器の欠片』を使ってあの暴風を今以上に扱えるように方向性を向かせるっていう理由だ」
「というか本当にジェバル君はその英雄武器の欠片あるってことなんだよね、自分も責任から逃れて海底探索したかったなー」
「まぁ、海底で色々とあった中でな……ほい」
【宝物庫】から取り出した英雄武器の欠片をガドマに手渡すと存外な扱いをしたことで急に怒り始めたがすぐに落ち着いてガドマの手の平に乗っかった一欠片をじっくりと眺めた後少し深呼吸を挟み炉の方に足を動かした。オルフィットはもっと見たかった…と嘆いていたがポトッル教授は結構綺麗なんだねーと軽々としていて本当に教授の立場に立つ人間がいうような言葉じゃないなと思ったがすぐに引っ込めた。
「そんじゃ、お前さんが竜の風を従わせられるように俺も頑張るからよ。ちょいとばかし預けてくれ」
「預けるも何もガドマの腕を疑っている訳じゃないんだからさ、よろしく頼む」
既に【宝物庫】から取り出しておいた甲飆竜の終亡志刃をガドマに渡すと手慣れた手付きで刃と柄の部分を外し柄は鉄床の隣の机にそっと置き刃は鉄床に置いて炉の方へ足を動かし石炭を少量入れつつ魔法道具で火力調整をしており一通りの工程を済ませた所で加熱された地金と共に英雄武器の欠片を挟み込んで包み込んだ所で炉の中に再度入れて真っ白に熱された地金を取り出して鉄床に置くと素早く掛けられていたハンマーを片手に持つとガドマから大量の魔力が放出され始めた。
「ジェバル…あれが【錬金魔法】って奴です。ガドマさんあれ息をするように【鉱物操作】もやっているんで見てて圧巻ですね」
鉱物や武器関係の事は全てガドマに任せっきりな部分が多く自分も他にやる事があったりとガドマが鍛冶をしている所は実際こんなにじっくりと見学するようなことは初めてだった。というか前はガドマが自分から気が散るから外で待ってくれとか言ってたからそこの所が強いのかもしれないが…こうして周りの目があっても気にしていないってことはガドマなりに成長してるって事を見せつけたかったのかもしれない。
こんな事を考えているうちにテキパキと手を動かすガドマは何度も打ち付けて薄く伸ばしていた地金を再び炉の中に入れた所で先程鉄床の上に置いていた刃を鍛冶屋箸で挟み込み用意されていた型にセットすると炉から地金を取り出しそのまま武器に垂らそうとするがその時甲飆竜の終亡志刃から受け付けないような意図を感じられるような風がガドマに吹きかける。
ガドマは顔に当たる風など気にせずに動じずに刃と地金が触れ合った所を勢いよく片手に手にしていた槌を何度も打ち続けるのだが打ち込む度にガドマから大量の魔力から生み出された魔法が視線の先で火花を散らす刃にスッと入り込んでいっていた。ガドマが何度も打ち続けるその姿は圧巻で呼吸を忘れるくらい迫力があった。
「はぁーあれが『真匠』の専用魔法の【洗錬】と【調停】か…文献とは違って実際に見てみると結構書かれている事と違うものだね、あれを比較するのはちょっと違うか…」
「【洗錬】?」
「【洗錬】っていうのは個として成り立っている武器の構造を一旦白紙にしつつ元の設計図に沿って新しい物質を簡潔に足し算させるのがその魔法…どの魔法も鍛冶師の初歩的な魔法のように聞こえるけど習得にとんでもない労力が必要だからねー」
「それに、さっき刃から物凄い風吹いたでしょ?竜が素材として成り立ったあの武器が自己防衛で魔法撃っててそんなのが続いたら例え名高い『真匠』だって嫌がるからまずは、今この瞬間鉄を打つ自分が武器としての根本を…主導権を握っているんだぞーって理解させるのが【調停】」
教授の丁寧な説明に納得しつつ大量の魔力を投じながら打ち続けるガドマの姿を見ながら『アルチャー』の二人から鍛冶師等の話をいくつか聞いた。海渡って少ない人脈から広げてやっとのことで場所を確立して後ろ盾としてどういうコネなのか教えてくれないがキャッツェ王を引き込んでいるところがあったりと本当にこの人は教授っていう枠から軽々と超えてないか?
最後はオルフィットの愚痴を半ば聞き続けているような感じになっている気がしたがそんな中でも続くガドマの鍛冶は終盤を迎えていた。同じ工程を繰り返し続けるガドマだが刃に打ち付けた槌がぶつかり合った時に鳴る甲高い音が室内を駆け巡ると後に聞こえるガドマの深呼吸と武器から吐き出された溜息のような風が静かに吹く。
「暴れ馬のような風もこんだけ人を振り回したのも少なからずは自覚したって感じだし途方もない志もやっと一つに絞れた訳だ」
「竜の面倒な覇権は直結して刃になってどんな障壁が生まれたとしても突き破る、名は…覇動刃ヴァルヒュリグだ」
刀身は薄っすらと白に近づいているように見えるが元々灰色だった部分が色濃く残っているようで再度刃と柄を繋げ合わして出来た一本の剣をガドマから手渡しされいつも通りに魔力を流そうとしたが何が起こるか分からないので一旦止めて【鑑定】で見れる所はじっくり見ておきたい。以前より全体的に黒色の主張が強い気がするが気のせいだろう
覇動刃ヴァルヒュリグ
竜としての覇権は刃として汝の障壁を打ち砕く形を得た風の剣。風は時に激しく、時に繊細に汝の求める理想郷に進む。だが、龍の心に眠る真実は未だ見せず、共に生きる救いの手こそ覗き見ることができる鍵と成り得るだろう。
誰にも打ち明けることはない、この核に根付き吹かせ続ける風は平穏を運ぶか、混沌を招くか…
「………流石はウチの『真匠』だ、出来が違うな」
「ま、明日というよりもう今日になっちまったが賢者の石をどうこうするまでに準備しておきたかったし自分が『真匠』になる前のちょっとした心残りを解消したかっただけだからきにすんな」
「あと、修繕を頼まれた武器たちはシグマリに持たせておいたから後で受け取っておいて欲しいのと……親父から兄ちゃんにってもう一本贈り物だ。名は――――いや、やめておく」
どう見ても感情が籠っているような武器の説明文だというのにより深くの情報を鑑定しようと薄々気づいていたが文字化けしているのかただ単にこの武器自身が素性を教えてくれないのか分からない奴だ。ガドマに好感触だと伝えると喜んでいたところ諸々の武器の事を話聞いたがシグマリって空間魔法とか持ってたか?魔法道具なら有り得るけどそこは置いとくとして物凄い目つきでヴァルヒュリグを見る二人に少しの間貸しておくと保管庫の方から二本の釣り合いのない一本が極端に片方の短剣より短く、もう一本は片方の短剣の倍くらいの長さの短剣を目の前に差し出してきた。
「不揃いに見えるかもしれないがこれが本来の味を出しているのと変わりがなくてな、そいつは口で説明するより実戦で使ってくれた方が分かりやすいからな。俺の所に来る時は感想を言ってくれ」
「了解」
「あ、お話終わった?『真匠』の生技術見れて最高だった。また見れる機会あったら教えてね、ガドマ君」
「兄ちゃんが武器をボロボロにしてとんでもなく気が立っている時でもいいならな」
言質取った!とにこやかな顔をするポトッル教授を横目にこちらに目線を送るガドマをなるべく見ないようにして…【宝物庫】に覇動刃ヴァルヒュリグと不揃い双剣を仕舞う。
「それじゃあ、解散……というわけにもいかなくて、今から賢者の石の争奪戦に参加するのに色々と確認することがあるから起きている人たちだけで作戦会議しようと思っているんだけど、ジェバル君は大丈夫そう?」
「すぐ行きましょうか、早めに寝て万全の体制で挑みたいので」
ポトッルが付いてくるように手招きしながら鍛冶場を出ていき続いてオルフィットも欠伸をしながら部屋を出ていく。釣られて自分も欠伸をしたが普通に時刻は真夜中、今日は一段と夜空に浮かぶ月が輝いていた。




