水天一碧に飾れ、幾万天の星々 其の三十一
少年時の頃家で魔法に関する辞書ぐらい厚い本を何冊も読んでいたのだがその中でもジェバル・ユーストが一番記憶している本が三つある。
【錬金導師】ピュジュート・F・フラットバードが著した『八つの賢者の石』
【勇者】レルト・バチキルトが著した『魔法概念の基礎』
【賢者】キブーレット・ドゥスティックが著した『魔学三論・全三編』
アウェルと共に図書庫に行って思い出して探して読んでみたけど子供の頃に読むような内容じゃないのは確かだった、相当頭が良かったんだなって思えるくらい読んでて難しくて仕方なかった。【勇者】レルトはかなり噛み砕いて書かれていたから子供でも分かるようになっていたのが救いだったのかも知れないが、何故今この本について話を始めたかというとどれも魔法の基礎を活用するに対して自身の魔法をより強靭に昇華させるためのコツを意図的に隠していた。
魔力は元々前として完成した状態であるが魔法へと力を加える際、無理に形を変える為完全な魔力で無くなる。これを【賢者】様は『魔力欠損論』と名称して普通でも分厚い本と感じられる全三編の内何百ページも説明していたが小難しい話を簡単に纏めるのならば氷を例にして表すことができる、例えばブロック状の四角形の形をしている魔力を削ったりする事で魔法にする事ができるが魔力を削ってしまったせいで完全な魔力の状態で生み出した魔法は完全な魔力ではないという事だ。
だから一番効率的で強靭な魔法というのは魔力を何も手を加えずに魔法に移し替えることを要求しているような事だった。だが、それを簡単に扱えるように【錬金導師】は八つの賢者の石を生み出したが見つかる事はなく伝説として語り継がれているが実際に誰が所持しているのかどこに眠っているかすら知らないのが現状であり本当に実在しているのかさえも分からない。
同時期【賢者】は【錬金導師】のように魔力に才が無かった時代の人々のために魔力自体を増やし魔力の形に触れないようにする為に六本の模倣杖を造った。歴史の本にはよくこれに関する戦争がチラホラ見かけるし実在するのは確定だろうが誰が持っているかは分からないが六本とも違う性能と自慢げに描かれているのは見てて笑った。
最後に【勇者】は他二人に負けず後世に形を多く残しているがいつどこで生まれたかすらも記されていないあまりにもふんわりしている人物だった。相次いで起きた戦争にどちらも現れるとか今から数百年前に合同して竜が人類を滅ぼそうとする事件で数多くの竜を地に落としたとこれでもかと盛りに盛っている。
数多くの文書が世に残っている物で【勇者】は極度の武器マニアと記されている、自分でも五本程度の武器を持つ身であるからどれほどかと調べれば推定でも数百という数の武器を造っていたらしい。
それでも長い年月をかけると姿を消した【勇者】が遺した遺産達は姿を変えて現れるらしくそれは今を生きる武器に鍛治師達に大きな影響を与えるのだと、名を残すほどの人物は相応の何かを残している。
◆
『主、姿と存在を奪われてしまったフィレグという守護者はその…【血の権力者】と融合してしまったが為グリエ殿が放った呪いで完璧に消えてしまう可能性が…』
「ウェールでも…そこから何かできるか?」
『私には道化師であろうと滅ぶ結果をひっくり返すことはできません、申し訳ないです』
「魔力は…ウェールの魔力はあとどれくらい残っている?」
全速力で走りながら一つの可能性を信じながらその為の準備として建物を破壊しながらウェールと魔力を通しての会話を続ける。アウェルの長い友である存在が目の前で崩れて行くのをただ何もすることできずに呆然とするしかできないのは酷だしその姿を見てる自分が嫌だ、なら精々できる事を全部やってから事の終わりに臨みたい。
『全然あります、どのくらい必要ですか?』
「海底都市全体に自分だけの雨を降らせる、だから想定でも大量の魔力が欲しい」
『私は主から生み出された存在、お望みなら全て』
「いや、まだやって欲しいことがあるから多少は残しておいて欲しい」
その言葉を最後に肯定の言葉を残すと次の瞬間大量の魔力が流れ込んできた、死累人だからという理由もあるのかもしれないが想像以上の魔力を一気に創造魔法で創り上げた魔法に乗せるように魔力を流し込み真上に放ち数秒待つと全身を打ち付けるような豪雨が降り始めた。
色々とあるが、なんでこの三人の偉人について話したかというと偉人の言葉を踏まえて自分が創造魔法で創ったオリジナルの魔法が二つある。一つは変光星専用の魔法とも言える【起爆】を起点にどんどんと火力が上がる火魔法だ、そしてもう一つ自分の得意分野である水魔法なのだが自分が創った魔法はどれもまず地盤固めをしなくちゃいけない、だからまずは全体を支配する魔法を…ジェバル・ユーストだけに利がある雨を【覆雨】を海底都市パーラにいや海底都市全域に降らせる。
だが、足りるだろうか。竜とは数回としか会ったことはないが完璧に倒したことはないし竜の契約者だと思われる記憶に新しい…日数的には三日前に火山の中で戦った【胎児を守る影】は確か深緑の鶸蔓竜の力を使って追い詰めてきた。
あの時はガドマやシグマリ、イオルンドの助力あっての事であり今の状況を魔力感知で見ても自分が【熱華】での一撃を蛇の姿をしていた【血の権力者】の首を落とした時後走っている際に魔力感知が使えない状況でルウェーが負傷して戦いを制し少女の形をした【血の権力者】と戦ったのは随時連絡してくれたウェール本人のお陰でなんとなく理解ができた。そして、今黝危槍に近しい能力を持つ魔法をグリエさんが竜の姿となった【血の権力者】に振りかけた。
遠くでも視認できた時にはもう至る所が罅割れボロボロと竜の鱗が崩れているのを見て【血の権力者】との戦いは終わったのを直感した。だが、頭をよぎったのは短い間だが共に行動を共にしたアウェルの存在だった。実際『お星様』だけで行われるはずだった『星海祭』は何故か同族も含まれていた、守護者は『海の王』が決めたことだと言い張っていたがだとするのなら自然とフィレグという守護者の存在を忘れさせないための存在にしか考えられない。
目の前で崩れていく友達を見て心を苦しむのは必然だ。だが、そんなアウェルを助けるのは他所者だが魚人族と昔関係を持った『お星様』、囚われたフィレグを救うのは友達であるアウェルしかいないんだ。絶対にだ。
◆+
目の前で放っておけば完全に死滅するのは確実で所々が崩れ落ちていながらそれでも踠き動く【血の権力者】を見てアウェルが一心に守りたい存在が消え崩れていくのを絶望しているアウェルの肩を叩く。雨で濡れた衣服の感触を感じながらアウェルに一言だけ残す。
「ジェバル…!?いつ戻ってこれたんだ!?」
「【血の権力者】を潰しにならすぐ駆けつけるさ」
振り返ったアウェルがハッとした顔で何故ここにいるんだと問われたがなんて返せば良かったんだろうか、『お星様』として守護者を助けに来た?『お星様』にも害を撒き散らす存在である【血の権力者】がまだ生きているから?いや、自分はそんな為に来るんだったら仲間と共に調査という形で動くことはない筈だ。現実は海の底で仲間の一人が親友を失いかけている、そんな心を苦しめる喪失を感じさせたくないその一心で動く。それが『海の王』が望む『お星様』ではなかったとしてもだ。
『お前はァ…!首を落としてきたゴミィィイイ!!』
「このまま崩れて死んでもらっても十分だが…それだと俺もアウェルも嫌な終わり方だからな。死ぬ物狂いで阻止する」
『ちっぽけな人間如きガァ…!!この場で朽ち果てようと何もせずに終わるなど絶対にない!!』
雨で前が見えにくいが正面に【血の権力者】がいることは確実だ。踠く【血の権力者】はこちらに視線を向けると何を思いついたのか体を曲げながら上へ上へと昇りながら魔力を集める【血の権力者】がいた。あの魔力量から見て【深海】とかそういう類を自分の所に放つつもりなのか?色々と考えるが一番最悪の想定は膨大な魔力を自分らではない他の海底都市に放つという物、そんな思考が頭に過ってすぐに後ろにいるウェールに向かって叫ぶ。
「ウェール、〔道化師の切札〕で俺を上げろ!」
「意のままに」
自分の元に飛ばされてきた一本の〔道化師の切札〕…《A》の柄を握り勢いよく空へ駆け上る、降る雨や空気を分け隔ち横で昇っていく【血の権力者】よりも早く上がる。気配を感じ取った【血の権力者】が目線だけをこっちに向かってビームみたいなのを連射してきたがそれを自分の後を追ってやって来た一本の短剣が完璧に防ぎ切った後そのまま落下して行ったがそれのお陰で【血の権力者】の頭上を越して下を眺めながら深呼吸して魔力を込めることが可能になった。
『お前は下に立つ存在だ!この我がこの世界を統べる王者となるんだ!!邪魔ダァ!!』
「【氷結世界】!」
叫び声と同時に放たれるビームが激しく片手で新星を振り回すのは良くないと判断して〔道化師の切札〕を腰に掛けしっかり両手で新星を握り魔力を込め周りの雨粒に当てながら放つと魔力が冷気として連続して近くの雨粒を冷却し続け足場を作る。
息吹のように吐かれた光線は新星でしっかりと格納しておいて後ろに下がって様子を見る。雨粒同士が冷気によって凍って足場が生み出されたが【血の権力者】が暴れる振動が原因でキリキリと軋んだ音を立てていた。氷の足場を作ったのもその場繋ぎの…いやこれを利用するしかないか
気にせずもう一度攻撃を向けようとしていた【血の権力者】が光線を【宝物庫】から即座に取り出した変光星で叩き落とし【宝物庫】に戻しながら他の物を手に嵌める。
「筋肉馬鹿との戦いでボロボロになったが約束の為に頼むからもう少しの間壊れずに踏ん張ってくれよ【琥珀の力拳】!」
筋肉馬鹿との攻撃全振りの戦いで【過重力天変】を使った大破寸前の左手は装着しないで『金鉑』が撃てる右手だけで十分、と言っても右手も結構ボロボロの状態だが祈るしかない。左手に新星を持って右手は【琥珀の力拳】とあまり見たことのない組み合わせだがこれでいい、魔力はウェールの有り余った魔力で補っているから【琥珀の力拳】に回す魔力に関しては常に満タンでの『金鉑』の発射が可能。
向けるのは【血の権力者】ではなく足場としてより強固にするために【氷結世界】で凍らせた雨粒に向かって全力で撃ち込み接合させる。
大量に生成された大半の『金鉑』が海底都市キードゥに向けられるのを横目で見つつ目の前で【血の権力者】が見当無しに放ったドス黒い色の息吹が迫るのを押し退けるために右手の【琥珀の力拳】で弾き切り左手で掴んでいた新星を回し【血の権力者】に飛びかかる。
息を吐き小指で腰に携えていた〔道化師の切札〕を取り出し【血の権力者】の左目に投げ痛みで動けなくなっている【血の権力者】に合わせて見えなくなった左目に向かって走る、グリエさんの呪いによって鈍くなっていたおかげで目に短剣が刺さり手を抑える【血の権力者】に追い討ちをかけるために再度【琥珀の力拳】から『金鉑』を撃ち込みながら新星の格納から【血の権力者】が放った光線を引っ張り出す。
「【月日は我が同類の力】」
光線と共に放った菫鉑蟷螂の光線が竜の首に当たり竜の鱗すら貫通して風穴を空けるとそのまま凍った雨粒と『金鉑』と反射していくのが確認できた。これで多分あっちには擬似的な物だけどそれっぽいものは見せれたかな?というか見上げていたらだけど…動きが更に鈍くなった【血の権力者】に新星を差し込み掻き切り滲み出る黒い霧が体に移る前に後ろに下がり連続して撃ち込んでくる光線を縦横に避けながら次に仕掛けることができそうなタイミングを待つ。
焦りが出てきたのかとりあえず数撃ち込んでおけばいずれか当たるだろう、みたいな考えじゃないとここまで魔力の残量を考えないでいられるのは竜の特権なのだろうか。詳しいのは分からないが【血の権力者】の持つ魔力と守護者フィレグの持つ魔力が兼ね合わさってのだとするならばここまで好き勝手できるのは納得できるが、普通に量が多い。
当たったのはさっきカウンターで同時に撃ち込んだ【月日は我が同類の力】と【血の権力者】の光線と同じようになるだろうからとんでもないことになるのは確実だ、それに長時間この雨粒を凍らして『金鉑』でなんとかしている足場もそう長くは持たないのは分かっている。【覆雨】が降り続いている間にやらなきゃいけない理由もあるし相手が手負いでボロボロの状態でも気をつけないと死んだことさえも分からなくなるだろう。
【覆雨】は滝のような強力な雨を降らせる事もできるし雨粒に魔力を帯びさせる事もできる非常に便利な魔法だ、だから今【血の権力者】の片目を潰して視覚を半分に制限にすることができたとしても魔力感知があるこの場合では雨が俺の体を隠してくれているため隠密に行動ができるため光線が飛んできてもそれは見当違いの場所だったり空に矛先が向けられるわけである。
【血の権力者】の懐に入り込みまずは右手の【琥珀の力拳】を前に出して殴り引いた瞬間風魔法で追い風を再現し連続して殴打を繰り返しつつ暴れる【血の権力者】が無作為に光線を飛ばすのを新星でカバーする。
【覆雨】が海底都市全体を占めるまで後数刻、異変が起きる。
「おかしいな…既に【覆雨】が完全に覆っても問題はない時間のはずなのに後少しの所で何故か完成しない?」
時間がかかる魔法というのは分かっていた、でも数分経っている筈なのに、魔力を永久的に流し込んで万全の体制だといのは変わらないのに、今も目の前の危険を抑え込んでいるというのに何故終わらないんだ?
相手はこちらの動向を【覆雨】で認識するのが遅れて完全に捉えるような仕草をしているわけでもなくただただこっちに光線だけを撃ってくる。当たれば向こうの景色が見える位致命傷の攻撃を弾き、避けているのに…ているのに?
頭の中で思考しながら定期的に飛ばしてくる息吹を完全に防ぎ切りながら一つの考えに至る、【血の権力者】が使って攻撃している光線を【透過】で応用して何かしているのは確定だが…【血の権力者】故の妨害行動を起こしているのなら敵を隠す鬱陶しい雨をどう対処するのか、魔法を発動させた本体を何とかするのではなくその魔法を取り除こうと自分だったらするだろう。
だったら今、相手は…
「妨害行動とは…手癖が悪いなぁ【血の権力者】!!」
『目の前で邪魔をされるのなら邪魔して当然だろうそれに我自身が魔法でもあるからな反発するような魔法位使えて当然だ』
相手が面倒な邪魔をしていたのは分かった…相手が光線を放つならその都度新星で格納して対処するが…それを理解しているのは相手も同じ、だからこの場で警戒するのは…死角外からの攻撃!
新星を足元の『金鉑』に引っ掛けて【血の権力者】に背を向けるように、だが後ろから迫っていた三本の光線を【琥珀の力拳】で真下に叩き落とし新星を抜き直し攻撃体制に移っていた【血の権力者】の薙ぎ払う血の刃を受け流す。たった数秒の動きだがちゃんと対処できた。
【血の権力者】が薙ぎ払った雨粒によって一瞬だけこちらをしっかりと目で捉えていたが覆い被さる雨粒が自分の姿を隠したのを直感して、足の動きを素早く動かし紫色になっていた顔面に近づき新星で三回、【琥珀の力拳】で五発攻撃を放ち左目に刺さったままだった〔道化師の切札〕を素早く抜いて【血の権力者】の動きが一瞬でも怯んだのを確認して足場に戻って光線を打ち込もうと踏ん張ってった瞬間を狙って【氷結世界】を『金鉑』を限定的に解除する。
「直感でも分かる、【覆雨】が完成する」
「ここで決めてやる!かかってこい【血の権力者】!!」
『調子に乗りやがって【虐血】!!』
【血の権力者】の顔前で生み出された禍々しい魔法はそれまで使っていたであろう守護者の物ではなく本人が使っているのがはっきりと分かる魔法だった。例えこの空中戦で【透過】を使うような攻撃が来たとしても必ず相殺するか打ち消す。
連続して打ち込まれる魔法は【琥珀の力拳】から発射される『金鉑』で対処、次に【血の権力者】から生み出された血の剣がこちらに薙いだが新星で受け止めそれを伝って一緒に落下する竜に近づくと頭、腰、足と斬撃が飛ばされる所を勢いよく【水盾】で防ぎ切りながら走るが、真正面を向き続けていたせいで自分がやったようにそれまで血の剣がこちらに牙を剥いていたのに気づかなかった。肩に刃が触れかけるがその場で止まり粉々に砕けた。
『何故ここに精霊なぞがいるんだ!!あいつらは非力で森に篭ることしかできない出来損ないが何故この場で現れるんだ!!』
(精霊魔法が『お星様』の中で使えるのはたった一人…シグマリ!)
数体の精霊が自分の衣服に触れると魔力を分け離れると雨粒の中に溶け込むと【覆雨】の勢いが阻害されていた分さえも打ち払い覆い尽くせたのを確認できた時自然と新星の格納庫から一つの魔法が自ずと準備を始めた。
『【血解】!!』
危険を察した【血の権力者】が攻撃を仕掛けようとするが突如して現れた巨大な魔法が動きを封じられるのを横目で見ながら創り上げた魔法を形創る言葉を紡ぐ。
「『満遍無しに隔たりなく溶け込む水は、妨げられる存在は未だなく』」
「『未来永劫、この自由なる原点の水は』」
「『空と境目無く埋め尽くすだろう』」
「『今ここに創り出すは果てしなく続く水平線』」
目を見開き、新星を前にして構えると不思議と魔力が身体中を巡り【覆雨】や海底都市の水全てが一点に集約されて新星の剣にそっと合わせるようにピッタリと沿われていき自分自身も水のように流れ気づいた時には【血の権力者】の眼前に滑っていた。【血の権力者】はここまで近づいているのに反応一つも変えずに自らに降り掛かった呪いと体を縛る魔法に憎悪を抱いていた。
「【水天一碧】」
今、ここに刃もまた空という水を、竜という水を、魔法という水を、繋がれていた全ての水を相手に悟らす事もなく断ち切り繋ぎ合わせるが、たった一つの【血の権力者】と【守護者フィレグ】を魔力、呪い共に正しく善と悪を断ち分けた後一点に集約させた水を再び全体に還元させる。
「ゴボッ!!ガフッ!!」
一瞬の出来事をただ水が支配していた、一点に集約されていた水が一目散に元の場所に戻る際一番近くにいる人間が危険になるのはジェバルは分かっていた。だが、身構えるよりも先に口を開けていた所に戻ろうとした水が入り込み咽せて吐くが落ちていく二つの姿を逸早くアウェルに伝えるために喉を空にして叫ぶ。
「【血の権力者】と【守護者フィレグ】を断ち分けたァ!!先に落ちる【血の権力者】を狩れぇ!!」
伝える事を伝え切り、そのまま地面に落ちていく。ただそれだけの事なのだが体が異様に軽い、まるで宙に浮いて…浮いてる?!視覚からの情報も魔力感知からもそういう判断ができるのだが…これは?下を向くのだが何故か【血の権力者】も【守護者フィレグ】さえもその場に留まって固まっており海底都市パーラで戦闘をしていた全員がその光景に信じられずにいた。
「ジェバル・ユースト、お主の声は残念だが先の魔法の所為で水と共に流れていった。その身で原点に辿り着くとは血は怖い物だが勿体無いまだ扱い慣れていないのがこの結果だ」
暗緑色のローブを纏っている声からして老人はこちらに視線を向けると淡々と言葉を吐く、必死に顔を上げるが深くローブを被っている所為で顔すらも覗く事ができなかった。しかし、誰だ?何故自分の名前を、さっきの【水天一碧】が起こす力を知っている?疑問が尽きなかったが…その時一つ頭を過ったのは――――
「お前が…ここの海底都市の王『海の王』か…!」
「如何にも、私が『海の王』ルクネリウム・アンストバルト・ジェントルーク・ウンディーネだ。前の『お星様』にはウンディーネと呼ばれていた。御託は後に回し友の反逆者である【血の権力者】を消す」
『お前は、お前は、『海の王』!!その器さえあればこの世界を全て海で埋め尽くせる…!!欲しいなぁ…俺と真逆の羨ましい存在をなァ』
「自らの魂を無数に分け全ての頂点に立とうとしたようだが…分けた魂達がそれぞれ自我を持ってしまった事で自分自身を認識できずに心の弱さがこうも現れ怪物と成り下がってしまった惨めな獣だ」
『何とでも言ってもいいさ、この体に残るは虚無だ。全部をぶつけてみろ、全部喰らって自分の物にしてみせる。これが元の俺のポリシーだからな』
『海の王』と【血の権力者】が共に喋っていたのだがいつの間に手にしていた杖を空に叩きつけるとそこの所から亀裂が走り身動きができなくなっていた血の塊と化けていた【血の権力者】に当たると奇声を上げながらも自身を常に回復しようと体を必死に留めようと踠いていた。呪いも合わさってもうどうしようもないというのに何故あそこまで取り憑かれたように生き永らえようとするのだろうか…
『痛え…痛え…!これが翻て――――ッ!!』
「この海底に立つ頂点はこの私だけで十分だ、私利私欲に満ち溢れているお前が務まる席ではない」
苦痛を叫んでいた【血の権力者】を鬱陶しく思えたのか、それまで体に亀裂がジリジリと体を占めていたのだが魔力が感じられていたが何をしたのか分からずグチャと音を立てて魔物と同様核を破壊された途端塵となって消え、空中を留まっていた守護者フィレグはゆっくりと地面を降りてアウェルが抱えるとゆっくりだが目を覚ました。
【水天一碧】
ジェバルが創造魔法で造り上げた初めてのオリジナル魔法。
『魔力欠損論』の抜け道は無いかと考えたジェバルは魔法をそのまま格納という形で保存のできる一番初めての武器である新星に目をつけた。
格納庫に直接創造魔法を入れ込む事に成功したジェバルは魔力を魔法にさせる直前の状態で保存し微量の魔力さえ流し込めば完成させるように整えた。
次に、ただの魔法では自身が出せる【深海】以上の物を出せないことを分かっていたジェバルは『破壊的で全部を押し流すような水』よりも『その場を一瞬だけでも支配できる水』へと視点を変えた。
『その場を一瞬だけでも支配できる水』を実現するにはどうしたらいいのか、それを可能にするのを考え詰めた結果…一時的に覆い尽くせる雨を降らせ自身に利のある盤面を創り出すのが最適だと至った。
支配を可能とさせた【覆雨】の水を一点に集約させ正反対の物を分断し再び接合させる。これが【水天一碧】の持つ力である。
分断された正反対の物は放った本人の意志で接合するかしないかを判断でき、【血の権力者】を基準とした『水』を断ち分断されたのは『呪いに蝕まれている【血の権力者】』と『呪いに蝕まれていない【守護者フィレグ】』でありこの二つをそのままにそれ以外を接合させた。




