水天一碧に飾れ、幾万天の星々 其の二十五
ただ、目の前にいる【血の権力者】が干渉した魔力の一時的な消滅は私の体が一時的に留めることさえも許されない状況下…必死に体内に残っていた魔力を外部に漏らさないようにしていた。そのまま宙を動いていた事もあって地面に落下しているのだがルウェーがすぐに駆け寄った。
「喋らなくていい、元は魔力で後付けされた身だからな単純に魔力封じがお前の天敵なのは重々知っているから安心しろ…お前の眼を借りにきた。行けるか?」
身動きができない中片腕だけで支えに来てくれたルウェーには感謝を心の中でしつつルウェーが要求するのは他人との五感を強制的に繋げる【同調】、両目が魔眼であるルウェーにとって視覚を潰されているのと同様だが私のベースは魔眼でも何にでもない純眼、その事即座に判断したルウェーに私は視覚を埋める。
「十分状況が読めた、もう【同調】は切って大丈夫だ。後ろにいたグリエの方は魔力の異変に気づいて後ろに…だがいつでも攻撃に移るようにしている。アウェルとシグマリに関してはまだ遠いが戦闘には来る感じだな…」
ブツブツと喋るルウェーだが地面からゆっくりとだが持ち上げて【血の権力者】から少し離れた場所だろうかその場に座ったのだが依然として自分の核から逃げようとする魔力を逃さない為にするのに必死だった。
「今ここで動けるのはジェバルだが…とんでもない速さで遠くに飛んでしまったから動けられるのは自然と限られるのか。だったら―――――――」
耳にも異常を発し始め耳鳴りのような症状のせいで喋っていたルウェーの言葉が段々と聞こえなくなって遂には周りの音すらも聞こえなくなってしまった。
「……?ルウェー?おいルウェー!急にどこに行ったんだ!返事をしてくれ!」
異変をルウェーに伝えるべく右腕を必死に伸ばして円を描きながら回るのだが何かにぶつかるということはなく大声で叫んだ後に反応がある訳でもなくただルウェーがその場にはいないと分かるのだが…【血の権力者】による魔力の影響が今も足を引っ張っている為魔力感知もできず目も手足も動かないこの状況をただただ呪う事しかできなかった。
◆
『あの炎を宿した魔剣で身体を断ち切ったあの小僧…!すぐに殺してやる…今の魔力管理は我に分がある。だからすぐに戻ってくる前に今から始末しに…!?』
槍のような形状をした赤黒い塊が真横を通り過ぎた。【血の権力者】は先程放った自身防衛としての機能を持つ完全なる初見殺しとも言える魔力の根本を一時的に消滅させる、これだけで愚者とも命知らずとも言える人間や魔物は無力に落ちる。
だからこそ、今が好機なのだ。自分の持てる権威を一瞬にして三つも落としたあの底見えないがただ有り余る力を振り撒くあの小僧を始末しようと動こうとしたその瞬間を踏み躙るかのように邪魔をしてきたのだ。
しかし、焦ったのは間違いだったのかもしれない。そこにいたのは飛び回る蝿のようにしてちょこまかと動き回っていた二匹のうちの一匹だった。分身との戦闘では反吐が出るようなつまらない動きしかしていなかったあの蝿が今目の前に立っているのだ。
「お前の生存本能が危険だと警報を鳴らし続けるジェバルに向いてるんだろ?」
蝿は煽るようにこちらの動きを確かめるように口を達者に動かすが…言い方に違和感を感じた。たかが右腕だけ残った蝿が小言を言っているだけだというのに、ただ不思議だった。その違和感に気づけたのは逆に良かったのかも知れない、その理由はすぐに分かった。
『小賢しい、貴様のような虫けらに語ることでもない。直ぐにここから立ち去り姿を見せないのなら殺しはしないが』
「はい、と言えるほど簡単じゃないことくらいお前は分かっていると思うが…同士討ちは嫌か?」
『笑止、上に立ち勝算すらない中その態度…面白いが今魔力が使えぬ中どうするつもりだ?』
力の無いただの羽虫が何を根拠にその思わせぶる行動は何だろうか、すぐに羽虫を潰せるように狙いを定めながら羽虫の動きを見定める。
「魔力は使えなくても使える手段はお前も持っているんだろ?だからお前みたいに他人に頼ってこの場を切り抜けようと思うってな」
途端、羽虫は何も無い左腕を動かして巻いていた包帯を外し血を垂れ流していた。綺麗に断ち切られていた腕から血が一滴、一滴と垂れるがその血は少しづつ左腕を形作ったのだ。
「【疑血】、初めてにしては上的だな」
羽虫からポツリと言った言葉の後それまで放たれていた弱者だった雰囲気が変わった、悪寒が走り己の直感を信じてそれまで向けていた攻撃を放ち叩きつけるが一足遅かった。飛んでいったあの小僧は後だ、すぐに目の前にいる羽虫…いや獣を潰す。
◆+
欠けていた腕は代打だが動く、強制的にだがウェールから【同調】で借りた目の視界は上手く応用して一時的だが使えるようにする。一時的だが使えれば上々…戦えるからな。やる事はただ一つ、「魔力が使えるまで戦う」だ。
目を瞑り深呼吸しながら左腕を巻き付き手に辿り着く【淵明闘竜】の尻尾を力強く握り締めると棒のようにピンと真っ直ぐになった【淵明闘竜】が形を変え一本の剣へと変わる。先生、少し使わせて貰います。
ゆっくりと目を開くと段々と近づく血の触手がこちらを狙っていたが一歩前に足を動かし思うように身体を動かす。
『無心になれ、だが感覚は研ぎ澄まし手に握る荒ぶる牙はいつでも暴れさせる為に内に秘めろ。戦いはいつでも死と隣り合わせだ』
一瞬だった、さっきまでいた場所より明らかに足を動かしていたので後ろを振り返ると既に斬られていた血の触手がゴロゴロと足場に転がっていた。再び前を向くとその時には空を飛んで攻撃の体勢に移っていた、まだ扱いきれていないのだろうか…一瞬一瞬が途切れ途切れで進んでいる。
手に握る【淵明闘竜】だった剣に、左腕に視線を向けるが真横から感じる気配を信じ身体を無理矢理動かすが思ったように動かない左腕を近づく触手に向け刃が触れた途端触手は木っ端微塵となり崩れ落ちていったのを目で確認できた。落下しながら飛んでくる悪食すらも斬り刻みそのまま【血の権力者】の頭上に落ちていく。
落ちていく中体に当たる風はいつもよりかとても強くそれまでは嫌気が刺すほど嫌いだったが今は全然不安なんてものは心の中にはこれっぽっちも無かった。むしろやる気しかない、何故だろう。【血の権力者】の血が飛び込んでくる餌を取り囲むように取り組みそれまで入っていた光が無くなり闇だけがその場に残る。
でも、先生はいつも真っ暗な未来を明るくしていた。何かを感じ取ったのか手に持つ【淵明闘竜】だった剣と左腕は自然と、手順を辿るように先生が同じ動きを俺にさせた。
「【神鳴り】」
呼吸も時の流れさえも飛ばした紫電の剣捌きは振るった自分も【血の権力者】さえも置き去りにして大量に斬り跡を残し覆い尽くしていた血を不自由のない景色に変え見せてくれたその先には見覚えのある物だった。
「俺の…左腕…!!」
まともに息を吸えたのは今の声を出せた時だった。その時まで何事もなくいれたのがおかしかったのだろう、口から血が今になって溢れ出した。限界にまで伸ばした右腕で飛び出していた左腕を掴む。
『血を代償にして動くだけの雑魚がァ!そのまま潰されろォォ!!』
狙いはただ一点、奴の核だ。核さえ破壊すればこちらの勝ちだし、消滅した魔力を取り戻せる。左腕を血魔法で素早く処置して腕を覆い尽くすように【疑血】を施しなかった時よりも体の重心が元通りになったことでより正確に狙うことができる。【疑血】に回せる血はあと数滴…このまま押し切ってみせる。
「【渇瓏】」
横から飛んでくる悪食を素早く斬り刻み続け最後の一振りを横に振った。同時に攻撃を仕掛けていた【血の権力者】はすぐに攻撃を止めて防御に手を回そうとするが剣先が飛ばしてきた悪食に触れると形を保てずボロボロと崩れ落ちていく。この崩れた悪食を見て頭上に降りてくる俺を警戒して後ろに下がろうと動く素振りを見せた。
相手は安全を、その場での生き残る一手を取った。必ずこの手を取れば次の攻撃に対応できる動きを取れるという絶対的確信を持っての行動を…【血の権力者】は選んだ。だが、そこまで戦いの経験が少ない俺には【血の権力者】の万全の策は通用しない。
だって、次の一手なんてものは無い。今現在、動いているこの一手に全て掛けたんだからな。先生みたいに上手く立ち回る必要もないし魔法が達者で普通じゃ考えられない挙動をして目の前の脅威を払うあの馬鹿とは違うからな
喋っているのだろうか【血の権力者】が口を動かすがもう鼓膜も【疑血】のせいで何を言っているか分からないし耳元で風を裂く音ぐらいしか聞こえない。でもやることは既に決まっている。狙う先は【血の権力者】の首元、力強く握り纏わりつく剣は吸い付くように狙う首元に剣先を向いていた。
「『放つは何千とある輝きを秘め空を埋め尽くし、善人も悪人も等しく灯し、今も遠くで輝く星を断つが為の技』」
「【星断】」
自然と口が動いていた、視界が見違えるように鮮明となり見える景色が再び変わっていた。
振り下ろした剣は今まで通らなかった攻撃が嘘のように入り前もって行っていた【渇瓏】が機能し刃が触れる場所からどんどんと崩れていったのを見て安心して全身の力が抜けたのだ、一仕事したし核は壊せた。僅かだが魔力を感じ取れた、力の抜けた体に何が出来るという訳でもなくそのまま重力に従い落ちていくのだが未来視の魔眼が少し先の未来を見せてきた。
「本当に…どうしようもない奴だ。そこまで生に縋るのは分かるがもう潮時ってことだ、そういう奴程終わりが近いってな」
崩れ落ちていく【血の権力者】がこの先どうなるかを視れた所で落下していく体を優しくキャッチしてくれた仲間がこちらを心配そうな顔でこちらを窺っていた。
「安心しろ、大量出血と諸々が重なって体動かせなくなっただけだ」
「よかった…道中で魔力が無くなって倒れ込んでいたウェールを見た時は生きた心地がしなかったしそんな中で戦闘をしていたのがルウェーで…追いついたら追いついたで顔が真っ青で辺り一面が血まみれで…」
「ジェバル達は…?」
「シグマリと一緒にやってきた、それで【血の権力者】は…」
「核は破壊した。お前には苦痛になるかも知れないが皮を被っているだけだと心の中で唱え続けろ、すまんが想像以上に血を使いすぎて朦朧としてきて…」
最後に一番伝えておかないといけない奴には言えた、何もできないが祈っておこう。剣になっていた【淵明闘竜】が寄り添うように腹の上に乗ってアウェルと同じように心配そうな素振りをするが大丈夫だ。お前が消えていないなら致命傷の中でも復帰ができる致命傷だってのは知っているからな。
◆++
ルウェーが魔力が使えない中戦ってくれた。すぐに下がって重傷のルウェーを安全な場所に、シグマリやグリエの元に連れて行こうとしたのだが後ろから膨大な魔力を感じ振り返る。ルウェーは【血の権力者】の核を破壊したと言っていた、だからもう動くことは有り得ない筈だが…
『我?いや俺…?輪郭に近づけることはできたのか?…完璧だ』
聞き覚えのある声だった。何十年も聞けていなかった声だったし姿もそっくりだった。だけどとてつもなく憎悪だけが心に残った。
「大事な人の姿を真似てよくその平気な顔をしている…!」
『あぁ、元の体の友人だった魚人族かこの体も不便ではないぞ?しかし…その手で抱えている男は実に不快だ、この場で殺させてもらう』
ルウェーを抱えながらの戦闘は基本的に一方的だ、攻撃なら魔法で目眩しを…頭の中で考えていたことを実行に移すよりも速く、飛ばしてきた無数のナイフがルウェーと自分に迫るが後ろから追い風が吹き払い除けた。
「女の子…?でもこの感じは【血の権力者】……そういうことね、ウェール君は動けそう?」
「今全て完治し終えた、下準備も兼ねて戦闘に移るのでグリエ殿はルウェーをシグマリ殿の元へ…」
振り返るとグリエとウェールが来てくれていた。お陰でルウェーも自分もナイフに刺さることはなかったがすぐにウェールが【血の権力者】に向かって攻撃を仕掛け奥に下がらせ引き離すとグリエがルウェーを引き取ってくれた。グリエはその時何も言わずすぐ離れてくれたがその気遣いが逆に苦しかった。
すぐにウェールの元に向かう為に踵を返し覚悟を決めて【千羽戯楽】を握った時今までとは違う感覚が襲った。
「なんだこの線…」
今までなかった白い線が【千羽戯楽】を起点に前に伸びていてどういう理由か自分と進む先と同じだった。魔力を込め直して戻るか試したが線が収まる訳でもなく永遠と伸び続けていた。
【神鳴り】:魔力を使わない転移魔法みたいな物、緊急脱出に利用したりと応用の応用ができるのでどっかの剣帝君は重宝してる。【疑血】は自己判断で切り抜けるのに最善の技を選択した。
【疑血】:血魔法の初歩の初歩。『何かに擬態する』のが一番の前提条件、魔力を代償として利用するのではなく血や擬態したい物の毛など個人を特定できる物を代償として要求される。生物限定
【血の権力者】とかいい例だね




