水天一碧に飾れ、幾万天の星々 其の二十二
――――刹那、道が見えた。遠くなんてなかった、すぐ目の前、そこにいるあなたが…あなたが…!
こんなにも近くにいる。
妖でもない、縛る呪いが見せる偽りでもない。
この繋がる道が消えない限り、私は願う…ちゃんと仲直りはできるかな。
私だけの英雄に
……
…………
………………
「ジェバルさーん!!」
「シグマリ!?てか凄いボロボロ具合だけど…もしかして守護者の試練でこんなになったんか?!」
それまで魔力感知で感じた魔力からみて【血の権力者】の伏兵と思っていたので武器を構えていた状態だったのだが瓦礫の隙間から勢いよく飛び出してきたのは猫耳を生やした小さな少女だった。シグマリは飛びつくようにして抱きついてきてにこやかに笑っていた。
「ジェバルさん!残しておいた魔導書が転移の奴でここまで来ることが出来ました!隣にいるのは…!他の魚人族の方々から聞いていますアウェルさんですよね?」
「あ、あぁ…そのアウェルは私の事だが…」
「はいはい、オルフィットは暴走しない。相手を困らせたら意味がないしそれどころじゃないって守護者から聞いたでしょ?」
シグマリの次にオルフィットが駆け込んできたが一瞬でアウェルがこちらに助けてくれと顔をこちらに向くのを見て引き離そうとする所でイプロが間に入ってくれたがこの三人で守護者の試練を受けたってことでいいんだよな?確かキードゥ、グクェフ、ブリペと三つ分担していたから必然的にザンクスの試練をシグマリ達が受けていたってことだな。
聞けば大きい魚…腹魔魚なんて小難しい事をオルフィットは言っているが多分…昔水族館で見た鯨と同じだと思う、そんな巨体である鯨が試練の最中自分が対魔物戦闘で使う中級以上の魔法をシグマリ達向けてブッパしていたなんて言う時点でこの海底都市の守護者は相当頭のネジが外れているのが再度確認できた。
「それで…今の状況はどうなってるの?ジェバルとアウェルさん…がそれぞれ武器を抜いているってことは戦闘状況みたいだけど悠長に喋れてるって言うのはおかしいし…」
「一応整理を兼ねて説明しておくと、各々が試練を終わらせて集合できたからアウェル引率の元守護者フィレグがいるであろうレヴィレット神殿に向かったら守護者に化けた【血の権力者】と戦闘になって今さっき変な姿になって呆然としていた」
「【血の権力者】ってあの?!」
「そうそう」
シグマリはアウェルと喋っているしオルフィットは話を聞いているが変なスイッチが入って考え事し始めて動かないしちゃんと話を聞いているのは目の前で驚きの顔を隠せないイプロだけだった。自分も自由に動かしてもらっているから自分で言える立場ではないけどここまでとは…
「ここで話している場合じゃないってことは分かったわ、作戦とかあるの?」
「統一性皆無の我々に作戦を普通聞く?あったらすぐに伝えてるけど」
「ないのか?!」
イプロが確かに…なんて呟いている所を離れていたアウェルが大きな声で言ってきたが何を今更…最低限の情報共有で今まで動き続けてきた訳だし互いの力量を合わせて動いているから作戦があったとしてもこの場合『お星様』としても邪魔でしかない障害物を払い除ける以外何もないだろう。それに【血の権力者】はオルフィット以外だがイプロとシグマリは戦闘に参加していたからどれくらいヤバいかし知っている筈だ。
「取り敢えず作戦とか大々的なものは必要ないが遠くで暴れに暴れている【血の縁力者】を黙らせるのが今直近の課題だからな…ここで固まるのもあれだし各自自由行動としますので暴れ回って貰おうかな、アウェルは強制的に付いてきてね」
「投げやりな気がするけど…戦闘中全員を纏めるのは無理なところがあるからそれが一番かもね…」
「私もジェバルさんに付いてきます!」
「それじゃあ、私とオルフィットで出来る事したいけど少し休憩挟んでから動くから…」
アウェルはそれでいいのか、と不満げな顔をするが渋々と【血の権力者】に向かって走り始めようと準備する自分の元に近寄るとそれを追うようにシグマリも来た。イプロがオルフィットに駆け寄っているのを確認して走り始める。
少し体に違和感があるが今は関係ない、すぐに合流しないとな…新星の最後の一つの格納に入っている魔法を覗き込みながら走る。
「ジェバルさん…結構悪い顔してますけどアウェルさん知ってますか?」
「いや、今まで炎が出る魔剣を使っていたからあれを見たのは初めてだが何かあるのか?」
「ジェバルさんが一番手入れに力を入れている魔剣ですね、前これがなかったら死んでいた!って言ってて…」
「普通に聞こえてるからな、新星は思入れが一番強いし三つという制限の中で扱いやすい魔法を入れることができる上空きがあれば新星の中に入れて返すことができるからな…」
後ろでコソコソと話している二人を他所に走り続けるとやっと【血の権力者】の姿が一直線に見える大通りにたどり着くことができたので一旦止まって魔力感知で様子を見て攻撃を仕掛けようと後ろにいる二人に合図を出して【血の権力者】を建物の影から見るが…周りに火の球体が浮かんでいるのが確認できたが…あれは何だろうか
まぁ…それはさておき【血の権力者】がこちらに攻撃をするような素振りを見せないからウェール達が攻撃をし続けてくれているって事は分かるがそれ以上にここまで近くに来て分かったが体に不調が起き始めてきた。
アウェルとシグマリはまだ気づいていないが魔力が思った以上に練りにくくなっている。これも【血の権力者】がやった事なんだろうけどまだまだ面倒なものは持っているだろうからそこは用心して戦わないといけなさそうだな
「それじゃあ二人に言っておく、これからの戦闘の中で負傷したりした場合はすぐ回復魔法を使わないようにしてくれ…というか極力しないで欲しい」
「え、そしたら致命傷とかの対処ってどうしたらいいですか?」
「致命傷とかの時はその時はその時として、自分以外が軽傷の時に自分の魔力を使って回復魔法を使った後に自分を守ることができないなんていう本末転倒なことは起こしたくないから極力回復魔法を使って欲しくない」
あの巨体から放たれる攻撃にあたりさえすれば軽傷で済むなんてことはないだろうし考えれば分かる事だろうけど温存できる魔力はキープしておきたい。シグマリもアウェルも納得してくれたので再度【血の権力者】の方を見るとアイツ至る所が燃えてるんだけど何があった?
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「グリエ?一応氷で足止めっぽいことはしといたけどそれほど長くは持たないから体勢を戻すんだったら今の内に…何でウェールが燃えてるの?」
「その事についても話しますので今は【血の権力者】の対処について手短に話したいと思います。今現在微量ですが【血の権力者】の放った広範囲の結界の中に入っているせいで神殿内とさして変わらない縛りを加えられている状況になっていると思います」
ウェールの顔についた傷口を見せて魔力を込めて治癒を促すと急に魔力の進みが著しく遅くなった。結果として擦り傷だった部分が黒く固まり瘡蓋のように外面的に見えるだろうが自分の燃えている指で押し付けると焼き切るような音がした後顔に真っ黒な血が流れた。
「この通り、止血していた傷でさえも治癒しようとするのを遅延させる罠がありました。自動的に傷が塞ぐ私の身体でさえもこうやって治癒自体を邪魔してくるので結構面倒なので皆さんに伝えに来ました」
「だから自分自体を燃やしていると?弱点が火であるからこの考えに?」
「あの時も言った通り私は一度死んでいる身なのでこうやって現在怪我をして治癒、回復魔法を使うと逆に手間がかかるという事を自分を使って見せただけですよ、ルウェー」
どんな事でも素早く対処法を考える自体ジェバルと同じような動きしかしないんだろうな…それよりも攻撃よりもこちらの動きを鈍らせることでより攻撃を当てようとする【血の権力者】も考えはあるんだな。
『コソコソと動く蝿共がぁ!足止めとは舐め腐りおってぇ【血爆】!!』
「という訳で…極力攻撃を受けない動きをお願いします【唐紅】」
影が覆いかぶさるところまで動いていた【血の権力者】は息吹を吐く体勢を取ったのでこの場から一旦後ろに下がろうとしたのだがそれまで魔力の流れを一定に保ちながらウェールが持つ魔剣に魔力を入れ込んでいる姿があったのだが一瞬視界が真っ赤になった時にはウェールはその場にいなかったが【血の権力者】の影は動いていない…という事は!
「今の一撃いい具合に当たったのに一瞬で再生とはこれまた…」
『抜かせ!半端で存在自体が紛い物な貴様に止められるとでも?!』
「話を持ち込んだ本人が話の途中で消えるなんてどうかと思うけどコイツを倒せばいいって事でしょ?【緋岸竜の大鎌】もまだまだ働くよ!」
既に建物を利用して【血の権力者】と同じ高さに移動していた二人が攻撃を放っていた、自分も動こうとするために【淵明闘竜】の尾を掴み素早く崩れかかった建物に飛び移り攻撃できる準備をしていると防御に回っていた三本の首がこちらを呑み込む勢いで建物に飛びついてきたので一つの首先に【竜闘刃】を差し込み柄を握りながら宙返りをして再度不安定な足場に飛び移る。
攻撃を外して同じように足場にされた【血の権力者】は振り払うように首を動かしているが既に【招致の果物】によって建物の瓦礫と位置が変わっていた事もありこちらには何も攻撃を与える事はなく済んだ。場所が変わり再び地に足を置いているのだが一瞬でこちらに気づいた【血の権力者】はすぐにこちらに息吹を放つが間一髪で【淵明闘竜】が引っ張ってくれたことで事なきを得た。
『蝿がぁ!!』
「悪食!?」
首を鞭のように動かし叩きつけるようにして動かしてきたと思ったら叩きつける時に体の表面を破るようにして悪食が数匹出てこちらを喰い散らそうと動いていたので回避するか攻撃に移るか考えていると氷の剣が横から飛んで全ての悪食が氷の剣の餌食となっていた。飛んできた方向を見るとマディーが足元から何度も氷の剣を生み出しては【血の権力者】に向かって放っていた。
「おーーい、ルウェー!!」
休む間もなく突っ込んできた首を避けながら攻防を繰り返していると一人の男が突っ込んできた。こんな緊迫した状況で変なことをしてくるのは俺の知っている中で一人しかいない…砂煙が晴れて現れたその姿は…
「ジェバル!今どういう状況か分かっているのか!」
「え、神殿から脱走した【血の権力者】と戦闘しているんだろ?遅刻したけどその分動くから安心してくれ、その分動くから」
駄目だ、コイツ何言っているんだ。自信満々に言っているけど後ろを追うようにアウェルとシグマリを置いてきてる時点で何をしているのか…でも、守護者の試練を終えたシグマリ達と合流できたと確認できた。【血の権力者】が関係なく攻撃を仕掛けてきたのだがジェバルが動いた後斬り刻まれていた。




