迷宮の厳しさ
シルフィードは魔剣の説明を終えると帰っていった。
というわけで、雰囲気の変わった……というか元に戻ったアンナとカノンは、リーゼが避難させた二人の元にやってきた。
すると、座り込んでいた男が立ち上がって頭を下げてきた。
「ありがとう。君たちのおかげで助かった」
隣にいる女性も座り込んだままだが頭を下げている。
「あ、ありがとうございました」
女性が立ち上がらなのは単に疲れきっていて立てないだけみたいだな。
「あ、はい…えっと…無事でよかったです」
「あぁ、本当に助かったよ。予想外の魔物に見つかってしまってね」
「はい。あんな蛇、この迷宮にはいないはずなんですけど」
なるほど。
やっぱり普通はいない魔物か……。
「やっぱり普通はいないんですね」
「そうだ。この迷宮は氷属性の魔物を中心に、水属性と風属性が少々、属性を持たない魔物が稀に出てくるだけのはずなのだ。だから、Dランクの冒険者でも対策を練っておけば比較的安全に潜れる迷宮なのだよ」
そういいながら男は腰に下げていた剣を見せてくれた。
「剣?」
『いや……鑑定の分類では魔道具になるな』
剣ではある。
しかし、その柄の部分が魔道具になっていて、全体としては魔道具と判定されている。
「魔道具?」
「おや?気が付いたかい?これは剣に熱を持たせる魔道具を組み込んであるんだよ。だから、この迷宮の氷属性の魔物とは相性がいいんだよ」
そういう事か。
確かに、相性がいいのなら難易度は大分下がる。
だからDランク以上の魔物がメインとなる迷宮でも、Dランクで挑めるというわけだ。
しかし……。
「でも、何であんな魔物が?」
カノンの言う通り、何故あんな魔物がいたのか、それが不明だ。
その言葉を聞いた二人は神妙な顔つきになる。
「うむ、確証があるわけではないが……恐らく、テイマーによって持ち込まれた魔物ではないかと推測している」
「持ち込まれた……魔物?」
「あぁ、テイマーがこの迷宮に挑むときは、氷属性の魔物と戦える火属性の魔物を連れていくことが多いのだ。勿論、火属性の魔物を連れて行くのは問題ない。寧ろ、効率を考えるなら正解だろう。しかし、迷宮の中で契約が切れてしまった場合は問題になるがね」
なるほど……。
確かに契約が切れた後というのなら、従魔になっていないのも納得がいく。
とはいえ……。
「でも、何で契約が?」
「それは、そのテイマーがいなくなったから……じゃないかな?」
カノンの疑問に、リーゼが答えた。
そして、その答えを肯定する様に二人が頷く。
「あぁ、そうだ。迷宮内でテイマーが死ねば、従魔は迷宮に解き放たれる。最も、テイマーが死ぬという状況で従魔が無事という事も中々ないだろうがね」
男の言葉にカノンが息をのむ。
あの魔物が闊歩していたという事は、最近、この近くで冒険者が死んだのだろう。
確実に、外よりも死が身近に感じられるな……。
迷宮、油断したら痛い目を見そうだな。




