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盗賊団の正体

気が付くと俺はカノンの中に戻っていた。


カノンはワイバーンがいた方角をじっと見つめている。


『カノン?』


「っ!ハク!?」


いきなり声を掛けられたことに驚いたのか少し狼狽えたような返事を返すカノン。


しかし、いつも通り俺が中に居ることが分かると安堵したようなため息を吐いた。


「よかった……、なんだか少し落ち着かなかったから……」


そう言って苦笑いするカノン。


『正直言って俺もだ。自分の体を動かしてるとどうも違和感があってな……』


別に人の記憶があるからとかそう言う理由ではない。


カノンの中にいるのが当たり前になっていたというだけだ。


「倒したの?」


『あぁ、倒して収納に入れてある』


俺がそういうとカノンは軽く頷いて歩き出した。


向かうのは領主軍と盗賊が戦っている崖の方向だ。


「竜装は使えないよね?」


確認するようなカノンの言い方に、思わず苦笑してしまう。


『あぁ、魔力を殆ど使い切ったからな。すまんが道中は頼む』


「うん…………ぁ!」


一旦は頷いたカノンだったが、何かを思い出したような声を上げた。


「ハク、もう一度召喚できないかな?」


『無茶言うな……召喚術を使うくらいなら竜装使ってるよ……ってか何する気だ?』


何となく嫌な予感がして俺が尋ねると、カノンは気まずそうに顔をそむける。


「…………別に…」


相変わらず嘘が下手な事で……。


「…………モフモフ…」


かなり小さな声だがはっきりと聞こえてしまった。


だから俺の体は鱗で覆われてるからモフモフとは程遠いっての……。


『……今のは聞かなかったことにしていいか?』


「…………ダメ?」


可愛くいっても駄目だからな?


というか、そもそもモフモフじゃないっての……。


カノンはそのまま重い足取りで歩いて行った。





…………罪悪感が半端ないが……多少は我慢するべきなのだろうか?


























その後一時間ほど歩いて、ロイドたちの姿が見えてきた。


アイリスの姿が見当たらないが、崖の下の方から気配を感じるので盗賊相手に暴れまわっていたのだろう。


「……戻りました」


「おお!カノンちゃん……どした?」


意気消沈したカノンを見てロイドが思わず尋ねる。


リーゼもこんな様子のカノンが珍しいのかカノンの顔をまじまじと見ている。


「ハクが……」


「!!ハクに何かあったのか!?」


カノンのセリフに最悪の事態を想像したのかロイドの顔色が変わる。


「モフモフはダメって……」


「…は?」


しかしそれも、続けてカノンの口から出た言葉で一気に力が抜けたように首を傾げた。


うん、いきなり何のことか分からない話をされればそういう反応になるのも仕方ないよな……。


「ハクさん?」


リーゼが困ったように言う。


俺に説明しろと?


『あぁ……召喚術で実体化した俺をモフりたいんだと……』


「…………」


俺の簡単な説明にリーゼは納得したように頷いて、何を想像したのかわくわくしたような顔をこちらに向けた。


『いや、だから俺の全身は鱗だからな?モフモフはないからな?』


「あ、そういえばそうだよね」


納得したような顔をするリーゼ。


確か召喚術の練習はアイリスだけがいる状態で行っていたのでリーゼはいなかったはずだ。


多分俺の姿も知らないのではないだろうか?


そもそもこの世界で俺の姿を見たことあるのってカノンとアイリスだけなんだよな……。


転生してすぐにカノンの中に封印されたし……。


というか、俺自身俺の姿をはっきりと見たことはなかった気がする。


この世界、一応鏡は存在するのだが俺が転生したのはよく分からない洞窟の中。


そんな場所に鏡があるわけもない。


首が長いので首を曲げれば体がどうなっているのかは分かるのだが、全身の姿を見ることはできない。


なので細かなところがどうなっているのかは俺自身よく分かっていなかったりする。


さて、なんでこんなどうでもいい話を長々としていたかというと……。


「……………………」


カノンから悲しそうな感情が流れ込んでくるからだ。


なんだろう?


罪悪感が半端ない。


『……あ~、アイリスから合格が出たら……たまにならいいぞ……』


うん。


もう俺が折れるしかない。


じゃないと俺の心が罪悪感で潰されてしまう。


それを聞いたカノンの顔が一気に明るくなる。


「約束だよ!絶対だよ!」


『お、おぉ…』


カノンってこんなぐいぐい来る子だったっけ?


そしてリーゼ、何でわくわくした表情でこっち見てんだ?


「カノンさん!頑張って!」


「はい!」


もしかして俺は罪悪感に負けてとんでもない約束をしてしまったのではないだろうか?


いや、もう何も考えまい……。


どうせ考えるだけ無駄だ……。






















それからしばらくして、洞窟の中から盗賊と思わしき姿をした男たちがロープで縛られて続々と連行されてきた。


どうやら向こうも無事に終わったらしい。


『結局この盗賊団は何だったんだ?』


よくよく考えてみれば、盗賊団としては不自然な規模、そして不自然な戦力。


だからこそここまで大掛かりな討伐隊が組まれたわけなのだが、盗賊共を捕縛してその謎は解けたのだろうか?


「あぁ、それについては最初の方に捕えた盗賊が口を割ったみたいだぞ?」


俺の呟きを聞いたロイドが説明してくれた。


この盗賊団、元々はムードラの町で違法奴隷を売りさばいていた裏組織の末端機関だったらしい。


盗賊として旅人を捕え、それを奴隷として売りさばく。


そんな連中があちこちに散らばっていて、それをまとめ上げていたのがこの盗賊団のボスだったらしい。


そのボスは裏社会でも名のある実力者で、そいつが亜竜を従魔にしていたようだ。


そしてそいつは危険察知能力も高かったらしく、ムードラがアイリスに指名依頼を出したとの情報を受け取るとすぐに散らばっていた部下を集め逃げだした。


予定ではほとぼりが冷めるまでここに潜み、その後別の町で再び商売を始めるつもりだったらしい。


しかし、一部の者が離反し盗賊家業を始めた。


その一部の者というのがカノン達が戦った盗賊だったようだ。


ロイドが知っていた情報はここまでだが、これで何となくすっきりした。


あの土竜は恐らく離反した盗賊の口封じが目的だったのだろう。


もし町まで連行されて拷問でもされれば自分たちまでまきこまれる。


そう考えて土竜を送り込んだ。


ついでに襲われている被害者も殺せば盗賊に襲われた不運な商隊が今度は亜竜に襲われた。


それだけで終わっただろう。


しかし、襲ったのがカノン達だったため土竜は倒され、鑑定で従魔であることがばれたため大規模な討伐隊が派遣された……と……。


うん。


なんとも不運な話である……。


しかも切り札だったであろうワイバーンも倒され、恐らく本人もアイリスと言うレセアールの最大戦力と戦う羽目になった。


盗賊相手に同情はしないが……、ここまで来ると少しだけ気の毒に思えてしまうな……。


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