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八千草麗は作戦を変える⑦

***


 映画が見終わり、私とハルくんは映画館の下の階にある喫茶店でお茶をすることにした。


 チェーン店の喫茶店に入り、ハルくんがアイスコーヒーを、私がアイスティーを頼み、窓際の席に向かい合って座っている。


 ハルくんとのデート(勝手に私がそう思っているだけだけど)も時間的に後半に入ってきた。駅で待ち合わせをして、二人で並んで歩いて、隣で映画を観て、二人で喫茶店に入って……。


 最っ高の展開だわ。


 朝寝坊をしてしまって諸々の計画が頓挫したときは、自分自身を懲罰房にぶち込みたい気持ちだった。でも、そのおかげでうっかり転んだ拍子にハルくんに抱きついちゃったし、ハルくんはちゃんとララちゃんって呼んでくれるし、二人で一つのポップコーンを食べながら映画を観れたし、もう最っっっ高!


 も、もしかしたら今日のうちに手とか繋げたり……だ、ダメよ麗! まだ付き合っているわけじゃないんだから! それはさすがに破廉恥だわ! で、でも破廉恥とはいってもギリギリ許容範囲の破廉恥で、有りか無しかでいったらギリギリ有りの破廉恥なわけで……。


「セーフライン上の破廉恥だわ。あとは勇気だけ……」


「? ララちゃん。どうかしました?」


 はっとして前を向くと、ハルくんが不思議そうな顔でこちらをみていた。

 しまった。ハルくんのことを考えると自分の世界にはいりこんでしまうのはいつもの悪い癖だ。しかも今は本人が目の前にいるのに。


「え? 私?」


「なんかセーフラインがなんとか言ってましたけど」


「な、なんでもないわ! それにしてもすごい映画だったわね」


 私は無理矢理話題を変える。まさか無意識のうちに声に出していたとは。


「あの映画の製作会社、江末が良くやっているアプリを作ってる会社でしたよ」


 ハルくんはげんなりした顔で溜め息をついた。


「あの宇宙人診断とか趣味診断の?」


 たしか「株式会社悪ふざけ」だったかしら。今日の映画は放送事故じゃないかと思うような内容だったけど、あの会社が作ったというのなら少し納得ができる。


「そうです。まさか映画制作にまで手を出しているとは思いませんでしたけど」


「しかも4(フォー)だったわね」


 あのふざけた映画に三作分も前の話があるなんて。信じられない気持ちと同時に、1から3で大門が何をやらかすのか気になっている自分もいる。


「1から3もちょっと気になりますけど、何か借りたら負けな気もしますよね」


 ハルくんも気になっていたみたい。借りたら負けというのも確かによくわかるわ。


「そうね。でもやっぱりちょっと観てみたいわ」


「じゃあ帰りに駅前のTSUTAYAにでも寄りますか」


「うふふ。いいわね。一緒に行きましょ」


 私とハルくんはそんな他愛もない話を二時間近く続けた。映画の話から始まって、部活の話、勉強の話、昔の話……。何を話していてもとっても楽しくて、胸がぽかぽかしてきて、ハルくんが私にとって運命の人なんだなって再確認する。


 この時間がずっと続けばいいのにな。 


 ハルくんと一緒にいるこの時間が本当に幸せ。もっともっと一緒にいたい。でもこれ以上は贅沢なのかな……。でもでも映画館以外にも水族館にも行きたいし、遊園地にも……。


 ハルくん。私じゃダメなのかな。


 好きって気持ちは伝えたけれど、彼女にして欲しいなんて今はとても……。


***


 帰り道。私とハルくんは駅から私の家の方へと二人で歩いている。ハルくんが送っていきますと言ってくれたので、お言葉に甘えているところだ。 


 涼しい風の吹く夕方。二人とも無言のまま、静かな住宅街を歩く。


 こうやって、何も話さずに隣を歩いているだけでもいいな。


 ハルくんは今、何を考えているんだろう。隣にいる私のこと、考えてくれているのかな。


「今日は本当に楽しかったですね。映画の内容はひどかったですけど」


 ハルくんは正面を見たまま言った。


「……ほ、本当?」


 ハルくん突然の発言に、じわじわと嬉しさが込み上げてくる。


「いや、嘘ついてどうするんですか」


 そうよね。ハルくんは気を使ったり、お世辞を言ったりは絶対にしないもんね。


「そっか。よかった……」


 嬉しいな。幸せだな。


 どんどん温かい気持ちが込み上げてきて、胸の中がいっぱいになる。


 やっぱり私は、もう一つ先に行きたい。


 もう私はハルくんのお姉ちゃんなんかじゃない。ハルくんにとって一番の存在に、ぜったいぜったいなるんだから。


 私は意を決して、自分の右手をハルくんの左手に重ねた。


 そしてそのまま、精一杯優しく、包むようにハルくんの手を握った。


 ハルくんがビックリした顔で私の方を見る。


「……いやかしら」


 私は恐る恐る聞いた。


「い……いや、な! そ、別に……」


 ハルくんは顔を赤くして狼狽えた。何が起きているのか思考が追いついていないみたい。


 急に手を繋ぐなんてやっぱり破廉恥だったかな。


 でも、これはセーフライン上の破廉恥だもん。有りか無しかで言えば、大大大有りの破廉恥だもん。

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