鵜久森優里は許さない①
あなたのことが好き。
頭の中でそのフレーズが何度も繰り返された。
会長は間違いなくそう言った。ずっと昔から今まで僕のことが好きだったと。
信じられない出来事が起き、上手く言葉が見つからない。自然と口から出てきたのは、
「嘘、でしょ……」
という間抜けな言葉だった。こんな状況で嘘なんてつくはずもないのに。
でも三年という歳月をかけた勘違いの真実は、それほどまでにショッキングなものだった。ただただ衝撃的であり、上手く他の感情が出てこない。
「ずっと、ハルくんにとって私はお姉ちゃんだから、この気持ちは我慢しなきゃって思ってた」
会長がワンピースの裾を、震える手で握っているのが目に入った。
「でももうダメなの。ハルくんが好きっていう気持ちが抑えられないの」
そこまでずっと。
こんなに素敵な人が、僕みたいな勉強以外何の取り柄もない男を、こんなにも想ってくれていたなんて。
どうして、気付けなかったんだろう。
僕だってずっと会長のことが好きで好きで、一緒にいると本当に楽しくて、居心地がよくて。この先もずっと一緒なんだろうなって勝手に思っていた。
そう思っていた。
三年前までは。
じゃあ、今の僕は……。
心臓がバクバクと激しく拍動する中、どうしようという言葉が頭の中を覆いつくし、一向に思考が進まない。
「ハルくん。可愛くない、何の取り柄もない私だけど、ハルくんの……」
ピンポーンと、呼び鈴の鳴る音がした。
「……誰か来たみたい」
「そうみたいですね」
しかし会長は特に玄関に向かう気配もなく、先程と同じ位置に立ったままだ。下にはおじさんと緑さんがいらっしゃるから二階にいる僕たちが気にする必要はないのだろう。
「それでね、ハルくん」
「……はい」
ピンポーン、ピンポーン。
と、再び呼び鈴が鳴る音がした。今度は二回。どうやら玄関にはまだ誰も向かっていないらしい。
「食器洗いで水を使っていて聞こえないのかしら」
呼び鈴が鳴り続けているのを考えるとそうなのかもしれない。
会長は小さな溜め息を一つつき、
「仕方がないわ。ちょっと私が出てくるわね」
「でも……」
「大丈夫。すぐに戻ってくるわ。ハルくん、また後でね」
会長はこちらに向かって優しく微笑み、部屋を出て階段を下りていった。
また後でね、の言葉と共に向けられた笑顔に、僕は思わずドキッとした。
さっきまでの会長と、何かが違う。
上手く言えないけど、醸し出す雰囲気というか、暖かさというか、これまでとは違う何かが溢れている気がした。
心が揺れ動く。
三年前に諦めて捨てたと思っていた会長への想いは、捨てることが出来ずに心の奥底に残していたのかもしれない。
ふと時計を見ると九時になっていた。
そういえばこんな時間に来客って誰なんだろうか。おじさんの仕事関係の人とかか? いやでもお酒飲んでたしそれはないか。だとすると近所の人とか……。
気になったのでドアを開け、玄関の音に耳を傾けた。すると、
「こんばんはー♪ お久しぶりです、麗お姉ちゃん」
明るくて元気一杯な女の子の声が玄関から響いてきた。
ここに来るはずのない、良く知る人間の声に、一瞬寒気が走った。
……おい待て。この声は。
僕は部屋から出て階段を下り、玄関へと向かった。
いやいやないない。あいつがここに来るなんて不可能だ。有り得ない。そもそも僕は会長の家に行くことを誰にも伝えていないんだから。
僕が玄関までやってくると、僕に気が付いた会長がこちらを振り返り、
「あ、ハルくん……。お迎えに来てくれたみたい」
と、困惑気味に言った。
僕はそのお迎えに来てくれた相手に対して、
「優里。なんでお前がここにいる」
現れたのは妹の優里だった。




