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江末ふみは馴染めない⑩

 江末が心から部に依頼に来てから五日目の日、特訓を終えた江末はついに隣の席のユリちゃんに自分から話しかける決意をした。


「……みんな今日までありがとう。我はここで練習したことを明日の本番でしっかり出し切ってくる」


 ※言っていることはなんだかアスリートっぽいですが、この人は明日隣の席の子に話しかける話をしています。


「ふみちゃん!絶対大丈夫だよ。頑張ってきてね」


「江末さん。あなたの努力はきっと実を結ぶわ。自信を持って」


「まあ大丈夫だろ。いつも綾辻と話すときくらいの感覚でいってこいよ」


「……うん。合点承知のすけ」


 だからなんで江戸っ子なんだお前は。


 まあそんなわけで僕たち三人それぞれの言葉で「頑張ってこいよ」と江末を送り出し、心から部の最初の仕事はこれにて終了となった。


 本当は当日のサポートを綾辻から「ふみちゃん、私も一緒に行こうか?」と打診したが、江末は首を横に振り「……ありがとう。でも平気。一人で頑張りたい」と断った。


 「一人で頑張りたい」……か。


 確かにこればっかりは僕たちがついていってもどうにもならない。仮に当日はサポートのおかげで上手くいったとしても、その次の日以降も僕たちが来るわけにはいかないからだ。

 僕たちが出来るのはあくまでも当日までの手伝い。本番はやはり江末本人の力でなんとかするしかない。

 僕たちがやれることはすべてやった。だから後は江末に任せて、吉報を部室で待つより他にない。


 頑張れ。江末。



 そんで次の日の午前八時。場所は江末のクラスの1年B組の前の廊下。

 僕は開けっ放しになっている教室の後ろのドアにはりつき、教室内の様子を伺っている。

 うん。結局来ちゃった。

 だって気になるじゃん。

 人と話すのが苦手な江末が五日間頑張りに頑張ってやっと迎えた当日だよ?心配だし応援したいし色んな感情が入り乱れてもう大変。


 さてと、江末の様子はどうだ?

 僕は開いているドアから顔だけ出して中を覗き込んだ。

 ゆっくりと教室を見回すと、中央辺りの席に一人だけ金髪の背が低い女の子が綺麗な姿勢でちょこんと座っているのが見えた。

 さすがナチュラル金髪。見つけやすい。


 で、隣の席の女の子はと……。

 僕が江末の友達であるユリちゃんを探そうとしていると、突然覗き込んでいる僕の頭の下に、ニュッと二つの頭が現れた。


「どこどこ? ふみちゃんどこ?」


「江末さんは金髪だから落ち着いて探せばすぐに見つかるわ」


 現れた二つの頭の主は言わずもがな心から部の二人だった。 


「……全員来てるし」


 二人もいてもたってもいられなくて来ちゃったのか。

 二人が僕と同じ気持ちであったことを嬉しく思いつつも、少し気恥ずかしく僕は冷静な口調で言った。


「だってだって気になるじゃん!ね、八千草先輩」


「わ、私は江末さんを信用しているから来ないつもりだったのよ? でも偶然前を通りがかったら二人が既にいるんだもの。これで素通りしたら私だけ薄情者みたいじゃない」


「まあなんでもいいですけどあんまり騒がないようにしましょうね。江末にも迷惑がかかりますし」


 全く二人とも……。いいやつじゃないか!畜生!


「あ!ハルくん!隣の席の子が来たよ」


「な、何!? どれ? どれ?」


 綾辻に言われて江末の方に視線を戻すと、すらっと背の高い眼鏡をかけた女の子が江末の隣の席に鞄を置いた。

 派手さがなく色白で、制服もきちんとした着方をしている。そしてチャラチャラしていないあのシルバーのフレームの眼鏡。

 真面目な子だ!きっとユリちゃんは真面目でいい子に違いない!何せ江末の無視に四月からこの八月までずっと耐えてきた子だ。いい子に決まっている。


 いいぞ江末。風はお前に吹いている。


「あ、江末さん。おはよー」


 ユリちゃんとおぼしき女の子が江末に話しかけた。優しい口調の自然な挨拶だ。

 そして江末は、


「……あ、えっ……と……」


 部室ではあれだけ上手くいっていた朝の挨拶が中々出てこない。

 ここだ。ここだぞ江末。ここを踏ん張って言ってしまえば後はすんなり言葉が出てくるはずだ。願いが叶うまであと一歩だ。


「ふみちゃーんっ!頑張れぇーっ!!」


「江末さん!あなたなら出来るわ!あれだけ練習したんだから!」


 綾辻と会長は隠れているのも忘れて声を出して応援している。


「ちょっ……二人とも僕たち一応隠れているんだからもうちょっと静かに」


 僕が二人の口を塞ごうとしたとき、


「……お、おはよう」


 それは確かに江末の声だった。


「え……? 江末さん?」


 挨拶を返された相手のユリちゃんも驚きを隠せない様子だ。


「……えっと、その、今までちゃんと挨拶を返せなくてごめんなさい……。我は人とお話しするのが苦手で」


 その後の言葉は淀みなかった。多少緊張している様子はあるが、普段部室で話しているときと大きな差は感じられない。


「ぜ、全然平気だよ!それよりありがとう。嬉しいな、ちゃんと江末さんと朝の挨拶が出来て」


 相手のユリちゃんも心から嬉しそうだ。


「……こ、これからはちゃんと返事をするから」


「うん!よろしくね!」


 やった。


 あの口下手な江末が。


 江末がやったぞ……!!


「だらっしゃあああああああああい!!良くたったぞ江末えええええええええ!!」


 僕の雄叫びにB組の生徒の視線が集まった。

 ただ単に驚いているものだったり、変人を見るようなものだったり様々だが、そんなことはどうでもよかった。


 だって江末が大きなことをやり遂げたんだ。


 これが叫ばずにいられるか。


「ちょっ……ハルくんうるさい!私たちがいるのバレちゃうでしょ!」


「鵜久森くん。みんな見ているわ」


 当然江末も僕たちに気がついてこちらを向いた。

 江末と目が合った瞬間に様々な感情が込み上げてくる。

 

 おい、やったな江末。お前すげえよ。たった五日でさ。この間までは宇宙の話しか出来なかったのにな。自分の気持ちをちゃんと言えたな。なあ今どんな気分だ? 僕はお前のサポートが出来て本当によかったよ。


 江末は僕以外の二人とも順に目線を合わした後、自慢するように胸を張り、どや顔で親指を立てた。


 僕たち三人も江末と同じポーズで返し、勇気を出して願いを叶えた可愛い宇宙人を祝福した。

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