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八千草麗は貫き通す⑦

「こんやくしゃ……?」


「ああ。会長は結婚する相手がもう決まっているんだ。僕なんかに気があるはずがない」


 あれは三年前の話だ。


 僕が中学校一年生の時の夏、ちょうど三年前の今ごろだったかな。

 何故か僕は会長の家に来ていて、食事をした後に会長の部屋で二人で遊んでいた。


 その時に会長は急に僕に言った。


「わ、私、結婚する相手がもう決まっているの!」


 衝撃的な発言だった。


 あまりの衝撃に、僕は「なんで?」とか「どんな人?」とかズカズカ聞きまくった。

 そんな僕の無神経さに会長は顔を真っ赤にして「自分で考えなさい!ハルくんのばか!」って怒っていたっけ。あの後は全然話を聞いてくれなくて大変だったな。


 その後も僕は「なんで中学生なのにもう結婚する相手を決めるんだろう」なんて呑気に思ってたけど、当時中二の女子だった会長にとっては非常に深刻な問題だっただろう。


 会長の家は弁護士の一族で、家柄も地元ではかなり有名な名士。まあ簡単に言うと金持ちだ。住んでいる家も「家」と言うよりは「屋敷」と呼ぶ方が相応しい大豪邸で、土地とか山とかもたくさん持っているらしい(うちの母談)。

 そんな家柄だからこそ家庭の都合で早くから結婚相手を決めなくてはいけない、なんてこともあるのだろう。


 中一の時は何とも思っていなかったけど、中二になってから僕は事の重大さに気が付いた。


 しまった。ららちゃん(僕は中一と中二の期間だけ会長をそう呼んでいた)が僕の側からいなくなる。

 あれに気が付いた時は寂しい気持ちになったなあ。


 気が付いた時には会長と話す機会もかなり減っていて、遠い存在になってしまっていた。

 きっと婚約者との予定が増えて、(おとうと)の相手をする時間が無くなったのだろう。


「ふぇー。こんやくしゃ……?」


 綾辻は毒気が抜かれたようで静かになってしまった。どうやら「婚約者」という言葉がかなり衝撃的だったらしい。


「ほんと? 八千草先輩」


「…………まあ結婚する相手はもう決めているわね」


 会長は何故か頬をピクピクとひきつらせて綾辻に答えた。どうしたんだろう。婚約者の話は言ったらまずかっただろうか。


 僕が考えている間に綾辻は一転表情を明るくして、


「なぁーんだ! よかったぁー♪」


 どうやらやっと僕と会長の関係を信じてくれたらしい。良かったは良かったけど時間かかりすぎだろ……。


「……綾辻。会長に何か言った方がいいんじゃないか?」


「はぅっ! そ、そうだね。えっと……八千草先輩、ごめんなさい。わたし、何も知らずにひどいことばかり言っちゃって……」


 綾辻は会長に向かって申し訳なさそうにぺこりと頭を下げた。


「いいのよ全然。全く構わないわ」


 そして会長はムッとした表情で僕の顔を見つめ、


「悪いのは全部鵜久森くんよ」


「え!? なんで急に僕?」


 さっきはテンション高めに抱きついてきたのに急にこの不機嫌っぷり。


 どうしてだ?どこで不機嫌になったんだ?婚約者がいるって綾辻に言ったのがまずかったのだろうか。


「自分で考えなさい!鵜久森くんのばか!」


 会長は腕を組んでぷいっとそっぽを向いた。


 あーあ。怒らせちゃった。こうなっちゃうとららちゃんは……。


 と、自分で思っていて気が付いた。


 あ。


 これはららちゃんの反応だ。


 今、僕の中で才色兼備の生徒会長と思っていた女性が、幼馴染のららちゃんに戻った。


 会長と僕は昔からの幼馴染だ。二人の間に昔からたくさんの楽しい思い出があることは知っている。

 でも僕は昔の思い出がモヤっとしていて、はっきりとは思い出せないでいた。

 だからずっと幼馴染のららちゃんと今目の前にいる会長が、僕の中で完全には繋がっていなかった。


 でも、今の怒った顔を見た瞬間。何故か急に昔の記憶の一部がフラッシュバックしたかのように鮮明になり、今目の前にいる会長とつながった。


 中学校二年生の時以来、僕は「ららちゃんには婚約者ができて別の世界の人になってしまった」と勝手に思っていた。

 高校に入るとららちゃんは全校から人気を集める生徒会長になっており、また遠くに行ってしまったんだなと感じていた。

 

 でも、今目の前にいる怒った女性はやっぱりららちゃんだった。三年前の、まだ仲良しだった頃のららちゃんの怒った顔だ。


 怒ってそっぽを向くと何故か顎がしゃくれる癖もそのままだ。見れば見るほど笑いが込み上げてくる。


「ぷっ……くく……」


 やっぱり今日もしゃくれているな。あの日も怒らせた後ずーっとしゃくれたまんまだったな。

 せっかくあの日はららちゃんの……。ああ、そうだ。そう言えばあの日も七月六日だった。だからお家にお邪魔してたんだったな。


「ちょっと!鵜久森くん!? 私がこんなに怒っているのにどうして笑っているかしら!」


 そっぽを向いていた会長は僕が笑い出したことに気が付いてこちらに向き直った。


「くくっ……。いや、ごめんなさい。そんなことよりね」


 そうだ。笑っている場合じゃない。これだけは早く伝えなくちゃ。


「そんなことよりじゃないわ。私の話をちゃんと聞きなさい…………」


「誕生日おめでとう。ららちゃん」


「どええええええぇぇぇぇぇ!? どうして急に!?」


「いや、何か急に思い出したんですよ」


 僕は会長が綾辻とちゃんと仲良くできるかばかりを気にしていたけど、またららちゃんと一緒に何かできるというだけでちょっと嬉しいなと思った。

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