「……あの……さ。いい加減どこに行くのか教えてくれねぇ?」
村人たちを全員弔った後、三人はこれから万樹をどうしたら止められるかを考えた。まず先回りをするのは不可能だ。だとすれば、ほかの大陸にある幻光石をひとつでも多く見つけて、彼女の目的を達成させなくさせる。大陸にひとつある幻光石を取ればその大陸は均衡を維持できなくなるが、一時的だけだと思って目を閉じるしかないだろう。彼女の目的がはっきりしない今、それを止めるぐらいしかできない。
「あといくつ幻光石残ってんだ?」
「万樹さんの持つ幻光石がいくつあるのか分からない限り知りようがありませんね」
月の問いにシンキは困った顔で答える。じゃあ仕方ないと諦めかける月にすかさずリヴァイアが口を開いた。
「二つだよ。ロースレントと今ここにいる村のと二つだ。万樹が呼び出されたとしたら月と同じぐらいの時期のはず。そう考えればまだ二つしか手にしていないはずだよ」
「ならあと五つですか。では残るのは、パストリーク、ディリアーナ、レベリウス、ホルスト・エイ・カバレウス、ミゼライヴですね」
「アーバレウスに近い大陸は……レベリウス。そんなに大きくない大陸……というか唯一独立した島国なんだけど。森が多くて自然豊かな島だよ」
月に分かるように説明するリヴァイア。さすが見聞の旅をしていただけあって二人とも誰よりも詳しい。昔のようにシンキと一緒にいたら不安だったろうが、今回は最初からリヴァイアに会えて幸運だ。方向音痴のシンキよりもリヴァイアのほうが安心できる。昔は彼のせいでどれだけの無駄な時間を使ってしまったか。思い出しただけで腹が立ってくる。
「じゃあ、そこに行こう。もしかしたら万樹も行ってるかもしれないしな」
月はリヴァイアの提案にすぐに乗った。どうせまた船旅なのだ、どこに行っても同じだろう。三人は村から離れ始める。不意にリヴァイアは立ち止まり、誰もいない村に目を向けた。ゆっくりと目を細め、村の惨劇を思い出す。まるでかまいたちのような鋭利なもので切り裂かれたような死体。それはどこか引っかかる部分があった。普通の人間では短時間であそこまでできない。魔導師か……人間離れした者の仕業としか考えられない。リヴァイアは心の奥底でまさかね……と呟き、急かす月たちのもとへと走り出した。
レベリウス大陸に行くには、再びロゼウスに向かわなくてはならないのだが、昨日のようにじろじろと見られるのは好ましくないと、三人とも口で言わないが同じ気持ちだ。誰が言うでもなく三人はロゼウスとは逆方向へと足を進めている。まあ、月の場合は一人で何もできないので、二人についていくしかないが……。だが、シンキもどうやらリヴァイアについて行っているかんじだ。
「……あの……さ。いい加減どこに行くのか教えてくれねぇ?」
さすがに不安になってきた月がずっと思っていたことを口にした。すると立ち止まった二人は後方を歩いていた月を見る。
「どこに行くんですか?」
シンキもリヴァイアを見てのほほんと尋ねた。
「地図を見てね?ここの辺りに村があるみたいなんだ。ロゼウスと違って立派な船じゃないけど、もしかしたら船に乗って行けると思うんだよね」
リヴァイアは地図を出して二人に見せる。今いる場所と目的の場所を道の通りに辿りながら、地図に小さく書かれている村までいくとピタッ指を止めた。目を凝らさないと見えないぐらいの小ささだ。よく見つけることができたものだと月とシンキは彼女の視力の良さと的確さに感心した。シンキには絶対に無理な芸当だろう。地図としっかりと頭の中に入れても、正しく目的地に行けなくては、その知識も無意味になってしまう。彼は、町の名とその状況、町と町の距離と方向性などを知ってはいても、そこまで案内できないのが難だ。改めて月はリヴァイアに会えたことを感謝した。
「けど、村で使うような船ではレベリウスまでかなり時間がかかりますよ?」
「僕を誰だと思ってるのさ、リヴァイア・ルホードだよ?普通の船に術をかけるぐらい簡単だよ」
シンキの問いに半ば心外だとばかりに口を尖らせてリヴァイアは言った。龍族だということを省いても彼女は術に長けている。船に何かしらの術をかけることなど本人の言うとおりに造作もないことだ。八年前にシンキがやってのけた空を飛ぶような術や、異世界へと人を飛ばす術などもリヴァイアならやってのけそうだ。リヴァイアの言葉に二人もさすがに質問する気にはなれなくて、彼女の意見に同意する形で再び足を進めることとなった。
それから数日後、やっと見つけた村で村人を説得するのに時間がかかり、船を貸してもらえるまで三人はずっと気を張り詰めていた。ようやく気が緩むことができたのは村から出て数十分後だった。木製の船は、リヴァイアの術でどんな波でも傷つかないように周りを防壁で包み、風に乗れない時や場所が分からない時は彼女が現在地を確かめ、術で風を起こす。時折シンキがリヴァイアを補助するように動くが、幻光石を見ることぐらいしか能力がない月は、大人しく黙って二人の邪魔にならないようにするしかなかった。二人が疲れた時は自然に流れるままに船を放置する。そして二、三日の船旅の後に、ようやく目的地レベリウス大陸に足をつけた。三人を迎えたのは広大な自然。緑の匂いがふわりと鼻につく。空は雲ひとつない快晴。弁当のひとつやふたつ持ってピクニックをしたくなるような天気と自然だ。大きく伸びをして、目の前にそびえる森を見つめる。島国とはまるで我が国のような大陸だと心の中で呟きつつ月は、静かに幻光石の気配を辿った。そしてゆっくりとかすかに感じる幻光石のもとへと三人は歩き出すのだった。