第12話 超越せし炎
都大会の一日目が終了し、ヤマト達は帰りにいつもの河川敷に寄った。
カジオはヤマトを褒めたたえた。
「ヤマト、すごかったよ! まさか、あのマルゴイまで倒しちゃうなんて」
「う、うん。僕も驚いてる」
ヤマトは戸惑いながら答えた。
実際は、あのファイトのことはあまり覚えていない。
何だか記憶が朧げだ。
「……でもあのファイト、ヤマトらしくなかったわ」
アムはポツンと呟いた。
全員がアムに目を向ける。
「そりゃ確かに少々荒っぽかったが、全国を勝ち抜くにはあれくらいの強引さは必要だぞ」
ゴン太郎はアムに反論した。
アムは口を尖らせる。
「私だってそれくらい分かってるわよ、でも」
「あの、喧嘩はよくないよ」
ヤマトは仲裁を計るが、アムに睨まれてビクッとする。
「私はヤマトの為に言ってるのよ!?」
「あの……その……」
「そんなカリカリするな。ヤマトが勝てて良かったじゃないか」
「やめなよ、ちょっとー」
ヤマトを挟んで言い合いになる。
カジオが止めようとするもどうにもならない。
「ちょっといいかしら?」
その時、誰かが四人に声を掛けた。
声は河川敷の上段から聞こえたので四人は上を見上げる。
「あ、貴方は!」
「アスカ・テロメアさん!?」
ゴン太郎は驚き、カジオは有名人を目の前にして興奮する。
アムは怪訝な表情を浮かべ、視線をアスカからヤマトに移す。
ヤマトは顔を曇らせてアスカから目を背けた。
「あ、あの、ぼぼぼ僕に何の用でございましょうか!」
カジオはガチゴチに震えながら手を差し出し、歯をキラッと輝かせた。
アスカはカジオの横を素通りし、ヤマトの前に立つ。
そして、微笑みながら話し掛けた。
「ブラスター・ウイングは気に入って貰えたかしら?」
「は、はい」
カジオはアスカの発言に驚いた。
「え、アスカ・テロメアさんから貰った機体なの!? というか、二人がどうして!?」
ヤマトはカジオの疑問には答えず、アスカから目を逸らす。
何だか嫌な予感がする。
始めて力を自覚した時のように、不思議な感覚を覚えながらもまるでアスカに侵食されるような気持ちになるのだ。
その時、アスカが小石を拾ってヤマトに投げた。
石はヤマトにぶつかる前に弾き飛んだ。
ブラスター・ウイングが石を蹴り飛ばし、ヤマトの肩に着地した。
その様子を見て、ゴン太郎は驚愕した。
「ど、どうやって操作したんだ?」
ヤマトは肩に乗ったブラスター・ウイングを見つめる。
するとブラスター・ウイングもヤマトを見つめ返した。
「………大分懐いたらしいわね」
アスカは安心したのか、軽く息を吐いた。
そして、ヤマトに話し掛ける。
「少し話したいことがあるんだけど」
「………何、ですか?」
ヤマトが用件を尋ね、アスカが答えようとした瞬間にアムが二人の間に割って入った。
「何かしら?」
アスカがアムに意図を尋ねる。
アムはアスカを指差して答えた。
「……貴女に会ってからよ。ヤマトの様子がおかしくなったのは」
「だから?」
アスカが髪を指で弄りながら尋ねると、アムは力強く断言した。
「ヤマトに関わらないでちょうだい! あの大会以来、ヤマトったらボーッとすること増えたんだから!」
アスカはアムの主張を聞くとGキューブに手を置いて体重を預けた。
「せっかくGキューブがあるんだもの。これで決めましょう?」
「………私が勝ったら、二度とヤマトに関わらないで」
「いいわ。そのかわり私が勝ったら………」
アスカはヤマトの頬をツンツン突っついた。
ヤマトはビクッとして頬を押さえる。
そして、フッと笑うとアムを横目で見る。
「今日この子借りるわね」
アスカの発言に全員が愕然とした。
アスカは皆の反応が面白いのかクスッと笑い、ヤマトの頭を撫でる。
ヤマトは顔を赤くし、されるがままになる。
アムはそんなヤマトを見てイライラを募らせる。
Gキューブの前に立ち、自分の機体を取り出す。
「相手になるわよ、なってやるわよ!」
アムはヤマトをチラッと見る。
「必ず、勝ってみせる」
「アム………」
ヤマトはアムを心配する。
そして、二人のファイトが始まった。
「イカロス!」
「マグナ・オーバーロード!」
二人のロボがフィールドに降り立った。
このGキューブは、近未来ジオラマ。
飛行機やリニアモーターカーなどの障害物が移動している難度の高いフィールドだ。
アムの機体のイカロスは、白いボディに桃色に輝く粒子の翼が生えた天使の様な機体だ。
対艦刀を模した大型の両手剣を構える。
アスカの機体のマグナ・オーバーロードは、燃えるような深紅のボディと肩や足にドラゴンの鱗を模したパーツが付いた機体だ。
その力強いオーラは女性型のか弱さを感じさせない。
ヤマトはマグナ・オーバーロードを見た瞬間に察知した。
恐らくブラスター・ウイングと同じ、三傑作の一つなのだろう。
ブラスター・ウイングと同じオーラを感じる。
「行くわよ!」
アムの掛け声と共にイカロスが発進した。
透き通るような鮮やかな翼を羽ばたかせ、マグナ・オーバーロードに向かって直進する。
マグナ・オーバーロードは両手剣を何回かかわすと、後ろへクルクル回りながら飛んでビルの屋上へ着地する。
背中にあるクナイのように短いビームサーベルを取り出し、両手で逆手に持つ。
ビルから飛び降りて、イカロスに襲い掛かる。両手から繰り出される素早い斬撃のラッシュに耐え切れず、イカロスは吹き飛ぶ。
ダッシュで追いつくと、跳び回し蹴りで更にダメージを与える。
「……スピードは高いのね」
アムはアスカの戦闘を分析し、攻撃に移る。
両手剣を振り回し、マグナ・オーバーロードは両手クナイでガードをする。
両手クナイのビーム部分でガードを続けるが、やがて防ぎきれずにバランスを崩す。
その隙を逃さず、イカロスはマグナ・オーバーロードを切り裂いた。
その一撃は強力で、ボディに傷が入り物凄い勢いで吹き飛んで行く。
アスカはアムの実力に驚いた。
「………意外と強いわね。力任せに見えるけど、攻撃のタイミングも狙いどころも考えてる」
「なんたって、アムはあのキリュウさんの妹だからね!」
「だから何でお前が威張るんだ」
ゴン太郎は相変わらずのカジオに呆れた。そして、隣にいるヤマトを見る。
ヤマトは不安そうにファイトを見守っていた。
「…貴女の実力は認めるわ」
マグナ・オーバーロードは両手クナイを背中に戻す。
イカロスがその隙に両手剣を構えて突っ込む。
「だから何!?」
アムはアスカにきつく問いただす。
アスカは答えた。
「手加減は失礼に値するわね」
突然、イカロスは銃弾の嵐を受けた。
アムはマグナ・オーバーロードを見る。
マグナ・オーバーロードの左手に片手銃が握られていた。
左足にある龍のようなパーツはマグナ・オーバーロードの武器だったのだ。
「装飾に見せ掛けた、武装!?」
「じゃあ、そろそろ始めましょうか」
マグナ・オーバーロードは右足のパーツを取り外した。
それは片手で持てる大型の銃だった。
イカロスに向けて発射する。
イカロスは必死に銃弾を回避する。
地面や障害物の車に当たる度に激しい爆発が起こる。
右手の大型銃は相当な高威力のようだ。
何とか爆発を跳びよけた瞬間、また大量の銃弾を浴びる。
今度は左手の銃だ。
「く、小型と大型の銃。使い分けに無駄が無い!」
アムはアスカの確実な操作に驚く。
相手が世界クラスなのは分かっていたが、ここまでとは……
「最初からこうなるのは分かってた………さあ、貴女の目に焼き付けなさい」
アスカの言葉にアムは唇を噛み締める。このまま負けるわけには………
「そう、ここからが………銀河の始まり!」
アスカの瞳が虹色に輝き、あの力を発動したことをヤマトだけが感じた。
「駄目だ……もう、アムは勝てない」
「いきなり何言ってるんだよ! まだこれからじゃないか!?」
カジオはヤマトに反対するが、ヤマトにはもう見えていた。
このファイトの結末が。
ヤマトの脳裏にある光景が映った。
イカロスが赤いレーザーに胸を貫かれる様子だった。
「フフッ」
アスカは薄ら笑いすると、PCDを操作する。
マグナ・オーバーロードは空中を飛びながらイカロスを翻弄しながら飛び回る。
「くっ、まだまだこれからよ!」
イカロスはマグナ・オーバーロードに切り掛かる。
マグナ・オーバーロードは迫り来る刃をサッとかわし、イカロスを蹴っ飛ばす。
銃を仕舞うと今度は背中のクナイを片方だけ取り出す。
すると、先程とは異なりビームが長く伸びビームサーベルのようになる。
「あの武器はクナイじゃないのか!?」
「多分、一本の時はビームサーベルになるんだ。だからクナイと使い分け出来ると思う」
ゴン太郎の疑問にヤマトが答える。
「小型銃と大型銃。そして両手クナイとビームサーベル……遠距離と近距離、両方の戦況に対してパワーか小回りかを使い分けれるんだ」
「いつどんな戦況でも、最適な攻撃が出来るということか」
ゴン太郎は納得するとGキューブに視線を戻す。
マグナ・オーバーロードはイカロスに接近するとビームサーベルを振るった。
イカロスは両手剣を盾にしてなんとかしのぐ。
しかし、バランスの崩れる瞬間が分かっているかのようにタイミングを合わせてキックを当てていく。
「っ、どうして!?」
アムはアスカの攻めをかわそうとする。
しかし、マグナ・オーバーロードはイカロスの動きを分かっているかのように確実にビームサーベルで切り付ける。
そして、ビームサーベルがイカロスの右肩に食い込む。
「隙あり!」
チャンスとばかりにイカロスがマグナ・オーバーロードの腕を掴み、動きを封じて両手剣を片手で持って切り裂こうとする。
その瞬間、イカロスの頭に銃口が突き付けられる。
「はい、いらっしゃい」
アスカは余裕の表情で呟き、大型銃を零距離で喰らい勢いよく吹き飛んでいく。
ビームに押され続け、ビルに頭から突っ込む。
ヨロヨロと立ち上がると、再度マグナ・オーバーロードに特攻する。
「倒す、絶対に!」
アムの意気込みを、アスカは一蹴する。
「危ないわよ?」
「え?」
次の瞬間、横からいきなり現れた軽自動車にイカロスが跳ね飛ばされた。
イカロスはゴロゴロと地面を転がる。
それでも、イカロスはまた起き上がった。
「諦めない……スターブースト!」
《スターブースト》
イカロスの体が赤紫色に輝き、力を増大させる。
そして、素早くマグナ・オーバーロードに接近する。
「速く、強くなっても変わらないわ」
アスカは余裕の表情を崩さず操作する。
今までとは比べものにならない程のスピードになっているはずなのに、今までと同じようにいともたやすくかわされてしまう。
イカロスの横振りを跳んでかわし、そのまま蹴っ飛ばす。
イカロスは体勢を整え、剣を構える。
「なら、これで勝負を決める!必殺アクション!」
スペリオルアクション《ロストエンジェル》
イカロスの剣と翼が激しく輝き、周りの砂を巻き上げる。
そして、光を纏いながら突き刺すように剣を向けて突っ込む。
マグナ・オーバーロードはビームサーベルを元に戻すと大型銃を取り出した。
照準をイカロスに合わせるとエネルギーをチャージする。
銃口にバチバチとエネルギーが溜まっていく。
「行けえええぇぇぇ!」
アムは勝利への祈りを込めて叫ぶ。
イカロスはマグナ・オーバーロードとの距離を詰める。
マグナ・オーバーロードは照準を合わせてジッと構える。
そして、トリガーを引いた。
赤いビームが直進し、イカロスのオーラに直撃した。
イカロスの速度は全く落ちなかったが、軌道が僅かに逸れてマグナ・オーバーロードの頭上スレスレを通り過ぎた。
「そんな……」
アムは必殺技が外れたことに愕然とする。
まさか、最後の切り札でさえ通用しないとは……
「じゃあ、そろそろ終わりにしましょうか」
アスカはPCDを操作し、自身の瞳を虹色に輝かせる。
ヤマトも同調して瞳を虹色に輝かせる。
「くっ、終わらせるもんですか!」
アムの操作で、イカロスは地面に剣を叩き付けてぶち壊した。
周囲に煙がバッと広がり、モクモクと立ちのぼる。
「これで視界を塞いだはず………!?」
アムは一先ず安心したが、アスカの行動に目を疑った。
マグナ・オーバーロードからはもちろん、アスカからも煙で全く見えないはずなのに、マグナ・オーバーロードは銃を構えている。
「必殺アクション」
スペリオルアクション《シューティングサンセット》
大型銃の銃口に今までとは比較にならない程の赤いエネルギーが集まり、フィールドがゴゴゴと音を立てて揺れる。
「当てる気か!?」
「何も見えないのに!?」
ゴン太郎とカジオはマグナ・オーバーロードを見て驚く。
ヤマトは目を押さえながら呟いた。
「………当たる」
ヤマトはこの攻撃の結末を予知していた。
最初に見た光景に酷似している。
「くっ!」
アムはイカロスを退かせ、ビルの後ろに隠れた。
マグナ・オーバーロードからは見えないはずだが、銃口はしっかりとその方面に向けられていた。
「終わりよ」
トリガーが引かれ、赤い閃光が大きな音を立てながら突き進み、加速していく。
「まずい、あっ!」
アムは思わず声をあげた。
イカロスはビルを昇っていたのだが、ビルの窓枠が一部崩れて落下してしまった。
戦闘の影響で所々が脆くなっていたようだ。
ビームはビルの六階を貫通し、そのタイミングで落ちてきたイカロスに直撃して突き進んでいく。
Gキューブの外枠のバリアにぶつかり、右腕と腹を失って墜落していく。
地面にぶつかると、全身から光が弾けてダウンフェイズを迎えた。
「……………」
アムはその場にうなだれた。
敗北のショックが大きすぎたのだ。
カジオとゴン太郎はアムを心配して駆け寄った。
ヤマトも歩こうとしたのだが、目が重くて立っていられなくなる。
倒れそうになったヤマトをアスカが抱き留め、そのまま抱え上げた。
そして、アムに告げた。
「約束通り借りていくわね………心配しなくても悪いことにはしないから」
そう言うとヤマトを抱いたままどこかへと去って行った。
残されたカジオ達にはどうしたらいいかさっぱり分からなかった。
アムには去っていく二人の、夕日に伸びた影を見ることしか出来なかった。
今回イカロスが翼を羽ばたかせてとか言ってますが、空を飛んだりはしていません。
あしからず。