ルパートさんの動向と意外な話
それからしばらく経って、私の体がようやく動くようになった頃。
「ルパートの消息が分かりました」「どこ!」
「食いつき早いですね」「だからどこなの!」
「どうやら、カルディアに向かっているようです」
「カルディア?なんでまたそんな方向に」
「それは私にも分かりません。ただ、貴女のご両親とは一緒ではないようですね。一人で行動しているようです」
「ルパートさんの目的は何だと思います?」
「今の所は全く見当が付きません」
「どうして、ここに戻ってこないのでしょうか」
「彼が、どの程度の情報を得ているか次第だと思います。ここに王子がいることを知っているなら、こちらに戻ってきてもおかしくないのですが」
「王子様がこの国にいるのは皆が知っているのでしょう?」
「ええ」
「では、ルパートさんも知っている可能性は高いですよね?」
「まさか王子がスタンレー領、それも貴女の傍にいるとは思っていないのではないでしょうか。仮にも将軍ですから、本来は王都にいる筈の方です」
「では、ルパートさんも一度は王都に向かって」
「行き違いの可能性もあるかもしれません」
なんという間の悪さ。
あの王子が、王都にさえいれば。
「んむ?どうした二人とも難しい顔をして」
「とっとと帰れええ!!」
ぱしん!
「おわっ!なんだ何だいきなり!」
ちっ、まだ鈍ってるか。もう一度鍛え直さないと。
「王子が非常に間の悪い方とは存じてますが、ここまでだとむしろ感嘆しかありませんね」
「今回は私は何もしてないぞ!よく知らんがいきなり帰れとはあんまりだろう」
「いや、一応彼女の筋は通ってるんですけどね。本当に、そろそろ王都に戻って頂けませんか。王子」
「私が、一人で?」
「あなたが、一人で、です」
他に誰を連れて行くと言うんだろう。デリックさんは私の監視役と交渉役を兼ねているから、私から離れられないんですけど。
「え、いや。それは」
「色々お察しはしますが、そろそろ司令官不在の状況は拙いと思いますよ。本国からも連絡が来ている筈ですし、王や王子を迎え入れる手筈も整えなければいけない頃ではないでしょうか」
「一応、本国からの連絡はここで受け取っているが」
「ここまで書簡を運ぶ兵の身にもなって下さい。仮にも国に係わる重要文書ですよ。盥回しにしてどうしますか」
「あー。いや。その……」
なんか、王都に戻る話になるとこの王子は煮え切らないな。
「仕事をほったらかしにして遊び惚けているなんて、将軍のすることではありませんよね」
「いやそうなんですが。グレイスさん、毎度同じ話で恐縮なのですが、もっと、こう、柔らかい言い方で」
「それじゃ伝わらないからはっきり言ってやらないと駄目ですよこの人。馬鹿なんだから」
「……馬鹿」
あ。王子が落ち込んだ。でも子供じゃないんだし、そろそろちゃんとした方が良い。ルパートさんだって、王子が王都にいたら会えたかもしれないんだし。
とぼとぼと去って行く王子。まあ少しはいい薬になるだろう。
「なんですかねえ。グレイスさんが本当の『悪女』に見えてきましたよ」
なんでそうなる。
「まあ王子のことは横に置いて、もう一度最初から話を整理しましょう。そもそもの始まりはデルマンドの襲撃です。ここで貴女とご両親、ルパートは分かれて行動することになった訳です」
「そういえば、今、あの男はどうしてるんです?」
「行方を晦ましました」
「は?」
「銀行の実権を失ってからは屋敷から一歩も出ず引き籠っていたようですが、様子を伺っていた監視役の目を掻い潜って抜け出したようです」
「それ、ものすごく拙くないですか」
「一応、行方は追っているのですが、どうしても他に比べると優先度が落ちてしまって」
「いやいやいや。こと私に関してはものすごく大事なことですよ!どう考えたって狙いは私でしょう?」
「そう思いますが、どうにも上の警戒心が鈍くて。女手で打ち倒され、実権も失ったような男にできることなどたかが知れていると侮っているようです。私達で周囲の警戒は厳にしていますが、今の所は屋敷から出ないようにお願いします」
結局、そこは改善されないままか。それにしてもまた厄介ごとが増えてるなあ。執念深そうな感じだったし、行方が掴めるまでは迂闊に出歩かないようにしておこう。
「結局、あの襲撃ってあなたの筋書きにあったんですか?」
「いえ。あれは完全にデルマンドの暴走です。ですから、襲撃者達もほとんどが雇われた身でエルラントの関係者は含まれてません、というかデルマンドが意図的に排除したようです」
「では、あれ自体は茶番ではなかった?」
「まああの時は仕掛人のようなふりをしましたが、内心では大汗掻いてましたよ。ローレリア侵攻の直前で、私達の目もそちらに向いていましたから、まさかその隙を突いて貴女を襲うとは思ってもいませんでした。余程ルパートに傷を負わされたことが屈辱だったのでしょう。慌てて私兵を連れて駆け付けましたが、かなり危うい状況であったことは確かです。こちらにも兵がいましたし、彼らと私に面識があって、金で解決できたのであれ以上の大事にはなりませんでしたが」
「怪我人は?」
「ルパートとクリフが相手でしたから怪我人は多く出ましたが、幸い、死人はいません」
「ルパートさんが無事だというのは先程の話で見当が付きますが、クリフさんは?」
「彼も無事です。今はルパートを追っています」
え。まさか。
「クリフは、私達の側の人間です。心当たりはなくもないでしょう?」
「……そうですか。目的は、ルパートさんの監視ですか?」
「監視というより、彼の動向を掴んでおきたかっただけで、他意はありません」
「それを監視って言うんですよ」
「クリフには彼の動きを伝えるよう命じてありますが、ルパートの行動を制したり、邪魔をしないよう、本人の好きにさせろと言い含めてあります」
「なんでそこまで拘るんです。ルパートさんは国を捨てたんですから彼が何をしようがどうでも良いじゃありませんか。叛意がないことも確認してるんでしょう?」
「まあそれが翻らないという確証はありませんので。ですが、目的はどちらかというと王子に動向を伝えるためですよ。王子は思いの外、ルパートの行方を気にしていましたから」
「どんだけお兄さん好きなんですか」
「今となっては唯一と言っていい肉親ですからねえ」
「王がいるじゃありませんか」
「王子は王を嫌っていますから。それもおおよそはお判りでしょう?」
「まあ。王家の方々が碌な人間でないというのは聞いて分かりました。ローレリアとそっくりです」
「……その話は別の機会に。先程も言った通り、クリフはルパートの足取りを追ってカルディアへ向かっています。貴女のご両親の行方も掴めると良いのですが」
「前も言いましたが、見つからない方が私にとっては都合が良いです」
クリフさんもエルラントの人間だったのか。私との、あの距離の取り方はそれが理由だとしたら頷ける。ということは、あの時エルラントの内情を知らなかったのは、私と両親、ルパートさんだけになる。本当に何も知らなかった私と両親はともかく、ルパートさんは当時どこまで知っていたんだろう。確か、当時は協力者がいたと聞いていたけれど、それもエルラントの関係者だろうか。
「貴女の処遇について、状況が変わり始めているんです」
「私の、処遇?」
「こちらに移って頂く際にお話しましたでしょう。『全ての責任を取って頂く』と」
そうだ。結局、私がここでこうしているのは借金を盾にそう脅されていたから。でも。
「もう、借金自体に意味はないのでは」
「そうですね。今、貴女を押し留める明確な枷はご両親とルパートの件くらいです。それも、その両方について私達が身柄を押さえていない以上、貴女へ提示できるカードはありません」
「では、あなた方がここに留まる理由はなくなったのでは?」
「それでも、貴女の価値が下がった訳ではありませんから。まあ、ここまでくればもうお話しても差し支えないので打ち明けますが、そもそも私達は貴女にお願いする側で、主導権は本来、貴女にあるのですよ」
は。
はあ?




