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Adventurer J/隣国への転移  作者: 澁谷晴
第七章 泥棒エルフの手記
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第七話 盗賊たちの恐ろしき最期

 密林での追跡は容易ではない。わたしは千里眼のおかげでまだましだが、ターゲットがよほど焦っているのでない限り、当然、自分の痕跡を消しながら逃走するからだ。

 〈鴉〉たちは感染魔術の一種を用いているようだった。これは、足跡や痕跡を自分の一部とみなし、自己を対象とした魔術の範囲を拡大するすべだ。わたしが奪われた影もその対象となりうる。優れた魔術師を相手にする場合、影は地に横たわる剥き出しの半身と見なさなくてはならない。


 わたしと並んで追跡を行う刺客は、どうやらエルフらしかった。この人物もまた己の痕跡を消しながら、影のように森を進んでいく。

 彼女もわたしと同じく、追跡に適したなんらかの異能を備えているのだろうか。奪われた宝石にあらかじめ、追尾の術をかけていたのだろうか。盗賊たちもそれに備えて隠蔽を行っているだろうから、彼女はそれを上回る魔術の実力を持っているというのか。


 わたしは進みながら、追跡者の使っている魔術に気づいた。どうやらこの人物は、盗賊たちが逃げた方角のかなり広範囲に〈探知網〉とでも言うべき魔術を展開しているのだ。探知網の中に存在しているのなら、どれほど姿や臭いを消したところで把握できる。仮に相手の力量が上回ったとて、それ以外をすべて察知できるのだから、空白の箇所に対象がいると把握できる理屈だ。もちろん、途方もない魔力が必要になるのは言うまでもない。


 この人物にはわたしの隠蔽は有効なのだろうか。わたしは名前の欠落があるがゆえに、世界が察知できない。しかし呪いは確固としてわたしとともにあるがゆえに、それに焦点を合わせられれば把握されてしまう。だが、ひとまずはこのエルフが、わたしを気にかける様子はなかった。まずは様子見ということだろうか。


 太陽はすでに沈みかけ、ジャングルを夕闇が包み込んでいる。

 盗賊たちはある箇所に留まっているようだ。あの地点が根城なのだろう。


 わたしとエルフの刺客はその場所へ到達した。結界で封鎖された洞窟だ。盗賊たちにはありふれた隠れ家だ。昔、ファロの平原に大規模な野盗の基地である城砦が聳えたち、しかし誰もそれに長年気づかなかった、という話を聞いたことがある。最後は偶然そこを見つけ出した冒険者に襲撃され、首魁は遁走を余儀なくされたらしい。


 エルフはまだ歳若い女性だった。彼女は結界をこじ開けたり解除するのではなく、その中に溶け込むように侵入した。探知されることなく潜り込んだ彼女に続いて、わたしも〈闇浸し〉を纏って中へ入った。


 内部では盗賊たちが戦利品を前に話し合っている。どうやら潮時だと判断し、これまでの稼ぎを持ってどこかへ逃亡しようとしているようだ。頭らしき獣人の男がフィルベルグ行きを提案したところで、エルフの刺客は恐ろしい呪文を発動させたのだ。


 水底の民(ベンシック)の大男が突然、隣にいた仲間に銃を放ち、同時に風生まれの女が魔力の刃を前にいた男へ放った。そのどちらも神速ではあったが、攻撃を受けたほうも致命傷は避けることができた。獣人の男が魔法を使おうとしたとき、彼の右目に刺客の放った魔弾が食い込んでいた――最小の魔力がこめられたそれはしかし、彼の頭を深く抉った。


 盗賊たちは殺し合いを始めた。抵抗する者もいたが、大部分がなすすべもなく刺客の術に落ちていた。通常の魔術と違い、肉体の複数の箇所に同時に同じ術がかかるのだ。〈探知網〉と同じく洞窟の内部を支配下に置いた魔力で満たし、そこを狂気の色で埋めている。


 エルフの刺客は、魔力量が多いのに加え、マナ取り込みの技量が極めて高いのだ。魔力器官に手を加えられているらしい。この技術は完全にはエンバーヴェイルが手にしてはいないものの一つだ。


 盗賊たちは間もなく全員が死んだ――と思いきや、右目を潰された獣人は生きていた。銃弾が目に食い込んだ瞬間、脳が完全に破壊される前に首を後ろに倒し、致命傷を避けたらしい。


 彼は戦闘時常にそうなのか、あるいは理性をつかさどる部分が破壊されたからか、涎を垂れ流し右目からは血を噴き出しながら、獣のように吠えたけり、雨あられと闖入者へ魔術を放った。彼女は洞窟の天井付近にまで跳躍し、黒く濁った霧を放った。


 わたしは退かざるを得なかった。盗賊たちが用いた毒より危険な、極めておぞましいものだったから――呪術だ。その場のマナそのものを汚す術。頭目はそれを魔力器に取り込んでしまい、体内からぐずぐずに崩れ落ちた。そして周囲の盗賊たちの死体も。戦いを終えた刺客は呟く、


「我は天罰、汝は罪びと、我が刃は贖いなり」


 それは数多くのエンバーヴェイル人を打ち滅ぼした暗殺団、報復のためのみに動くギルド〈復仇者達〉の符丁だった。


 外に出て、エルフの女は誰に言うでもなく口にした――我らは敵対者を許しはしない、と。これは彼らのスローガンであり、わたしに対してのメッセージであろう。今回は静観を決め込んでいたために、敵とは見なされなかったようだ。


 わたしはレナーデへ帰還し、ガラールに洞窟の位置を伝えた――内部は呪術で汚染され、宝石の山もしばらく手をつけようがないということも。

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