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Adventurer J/隣国への転移  作者: 澁谷晴
第一章 寄波の魔剣士
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第六話 初級冒険者講義

 魔法剣のテストは終了したが、このままでは到底ジェイは現場での戦いに耐えられまい、ということで、講習所に通うよう薦められた。


 帝国人とカルドランドの住民では、体内の魔力器の大きさが違うとされている。この王国にはかつて高濃度のマナが魔界から流入し、今も流れ込み続けているため、それらに胎児のうちから晒されることが原因だ。それでも訓練によってマナを識別し体内に取り込み、活用する方法を学ぶことは、成人後でも十分可能だ。


 講習所は王国の国教であるローギル教会が運営していた。

 ジェイはそれほど熱心ではないものの、帝国人のほとんどがそうであるように太陽神ダガスの信奉者だ。しかし、ローギル教のほうはあらゆる身分、立場、宗教の人間に門戸を開いているそうだ。


 ギルドで一泊したあとジェイは教えられた場所へ向かった。

 南十番街の教会は、繁華街の外れ、古い宿屋の隣にあった。石造りでそれなりに古い建物だ。司祭は存外若く、三十代半ばといったところだ。やたらと伝統を重視し堅苦しいダガスの僧侶たちとは違い、むしろ冒険者の気風に近いように思えた。


「帝国からの偶発的ジャンプですかな。それは実に僥倖(カオティック)だ。かつてこの地も、偶発的災厄により完膚なきまでに叩きのめされた。しかし、我らが始祖たるアルバート師、あなたがたにはアル・クックの名のほうが通りがよろしいですかな、彼と勇者たち、そしてデレク大王、かの英雄たちは試練があったからこそ、歴史的偉業を成し遂げたのですな。未知の混沌こそが人を成長させるのです、それこそが冒険ですな」


 ジェヴォンズというその司祭はジェイを教室に案内する。そこでは数人の少年少女と、一人のドヴェルがいた。

 多くのドヴェルがそうであるように、彼も年齢がいまいちわからなかった。男性は髭、女性は髪をやたらと伸ばし、顔が隠れているせいだ。また、彼らが成人後、エルフや風生まれ(ウィンドボーン)と同じくほぼ老化しないためでもあった。それぞれ火神フィルク、地神キュブラ、風神エルムが石や木の枝や風から作り出した眷属であるため、と彼ら自身の神話は物語っている。これら不老種の古い考えの者は、たやすく老いる人間は神々の兵の中では雑兵に過ぎないとして、未だに軽視の対象だ。特に帝国ではその傾向は強かったが、少なくともこのドヴェルは気さくにジェイを歓迎した。


「いやいや、こりゃ良かったわい。子供たちの中にわしのようなおっさんが一人だけかと思ったら。もっともあんたもだいぶお若いが、よろしく頼むぞ帝国人の兄さんよ。わしはリト、フィルベルグから一山当てに来た風来坊よ」


「オレはジェイさ、こちらこそよろしくな。しかしリトさん、フィルベルグと言やあ、竜が飛んで山が火を噴くような場所だろう? オレのようなもんとは比べ物にならねえほどのタフガイじゃあないのかい、あんたも」


 実際リトの腕は丸太のように太い。当の本人はガハハと笑い、


「伝説に出てくるような山みたいな竜なんざ、生まれてこの方お目にかかったことがないわい。第五次災厄でさえ、わしが生まれる前のことじゃからな。せいぜいが大きめのトカゲってところじゃな。わしも棒きれ振り回すだけでここまで来たもんじゃから、王国の流儀にかけちゃ素人同然よ。この地はなにせ、冒険者の国じゃからな」


 講義開始の時間が来た。ジェヴォンズが入ってきて一同に挨拶する。

 初参加のジェイがまずは自己紹介をする。リトは前回からの参加で、他の生徒たちもまだ三~四回目といったところだ。ほとんどが地元の冒険者志願者で、最年少は十五歳の少年だった。帝国では冒険者になれるのは十八歳からだが、こちらでは十五歳から始められるそうだ。もちろん、実地に出ることなく学ぶのには年齢制限がないので、親や近所の冒険者から手習いを受け、もっと早期に力を付ける者も少なくはないらしい。


「はい、ではこれまでの復習もかねて、戦闘の基本を説明しましょうか。既に習っている皆さんにはいささか退屈でしょうが、重要な部分ですのでね」


 相当に簡略化したモデルではありますが、と前置きして彼は、冒険者と魔物が一対一で戦う場合について説明し始める。


「戦いを四つの場面に分類いたしましょう。まずは戦闘が始まる前の準備段階。そして、片方が相手を見つけて接近し攻撃をしかける段階。そしてお互いが相手を認識し、戦闘をする段階。そして戦闘が終わった後の段階。この四つですな。


 当然のことながら魔物と真っ向から戦う、これは愚作と言わざるを得ないでしょう。第三段階をできるだけ短期間、あるいは皆無とするのが理想ですな。


 そのためには相手が気づく前に、一撃でしとめる、それを可能とする準備を第一ならびに第二段階で施しておくことが何より重要といえるでしょう。まあ、授業などするまでもないことですがな。


 ではジェイ、君にひとつ質問をしましょうか。例えば成体のピーマン頭(ゴブリン)が四体、林の中に出現し、これを討伐せよとの依頼を受けたとしますな。君の魔力が暴風雨のごとくとして、いかなる手段を用いますかな?」


 ジェイは「毒を撒く」と直感的に言った。


「結構。もちろん使う毒は選ぶ必要がありますがな。風上から無臭のものを、相手の種類に応じて流す、これにつきますな。ピーマン頭どもだけに通じる毒を事前に備えておき、その場で流す、と。ない場合はきちんと事後に中和せねば懲罰ですな」


 ジェイは、その林じゅうに毒を流して一気に根絶させることはできないか、と尋ねたが、司祭はやんわりと否定する。対象のみに効く毒が豊富に使用できると仮定しての根絶は、魔物がもたらす被害を考えれば望ましく思われるが、魔物は一種類だけではないがゆえに、例えば天敵たる他種の増加などいろいろと弊害が出てくるし、いずれは再び魔界から出現するだろう、と。面倒だがその都度一定数だけを討伐するしかない。


 冒険者の戦いには終わりがない。繁華街の酒場の客が途絶えることがなく、明日もあさっても店を開けなければならないように。


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