第七話 呪縛者
「アシュワンドの呪縛者、なんでこんなところにいるのかしらねぇ」
最初の災厄に対抗するため、英雄たちは数々の危険で非人道的な術を生み出した。カルドランド王国が築かれてのち、それらは負の遺産として封印されたが、暗がりで禁術に手を染める者はいつの世もいた。
しかし、公然と禁術を戦いに用いた勢力がその後もいくつか存在した。ひとつは南方半島にある傭兵の国、エンバーヴェイル。エルフたちと戦うために、敵の力を含めてあらゆる技を用いた恐るべき戦士たち。
そして、災厄により湧き出た汚らわしいアンデッドと戦った灰杖の僧侶たち。
彼らは周囲のマナを自ら変質させる〈呪術〉を初めとした禁術を躊躇なく用い、ときには敵ごとその地域を滅ぼした。
アシュワンドの技術によって生まれた呪術的改造人間は何種類か存在するが、目の前の少年は心臓に呪いを埋め込まれ、不死者すら呪い殺す〈黒き手の呪縛者〉のひとりだった。もちろん現在でも、アシュワンドの国境をそうやすやすと越えられはしないはずだが――
「追い出されたんだよ、弱すぎるからって。さっきの鳥を殺すのにあんだけ時間かかっちゃ、アシュワンドじゃすぐ死んでゾンビになっちゃうだけだからさ」
少年はベネディクトと名乗った。しかしジェイたちからすれば呪いのかかった短剣を投げて一発で屠るのはとうてい弱すぎるとは思えない。
「それで帝都に来たってわけ? 無責任に放り出すほうもひどいけど、ならあなたも王国で冒険者やってればいいんじゃないのかしら」
「やだよ、カルドランドは危ないし、こんな格好してるってんでわざわざ難しい依頼を回してくるし。帝国はまあ、俺をみんな毛嫌いするけど、迷宮に潜ってれば静かなもんだしさ、俺程度の実力でも落ち着けるよ」
「またまた、おたくはご謙遜を。アタシみてぇな凡人にゃ嫉妬の対象だわさ」
同行者のエルフがからかうように言った。よく見ると彼女は普通のエルフよりも耳が短く小柄だ。
どうやら、古代帝国の時代にラエルから連れてこられたエルフの末裔、シティエルフのようだ。
「おたくらが〈薄明〉が通信で言ってた囚人の方々? なんともひでぇ目に合ったじゃないかい。いきなり迷宮に放り込まれるわ、化け物鳥が襲来するわ、挙句の果てにこの〈呪われ〉が出現と」
「レナーデ、俺を魔物みたいに言うなよ、確かにちょっと呪われちゃいるけど」
少年がエルフをそう呼んだのに、ダリルが反応する。
「あんたはレナーデっつうのかい、姉さん?」
「そうなのよ、完全に名前負けさ。あの英雄と違ってアタシにゃ勇者もついてねぇし、〈慧眼〉もねぇときてる」
「そんなのを持ってる人はそうそういないだろう。それより早く降りようじゃないか」ベネディクトが急かした。「下層に大勢向かってるんだろ、ミルドレッドに〈風生まれ〉の料理人、あとあの屍術士も」
「ああ、あのうっとうしい野郎かい、大屍術士ジークの弟子とかほざいてた。もう死んでるんじゃないのかね。ま、結局のところはアノーリンが大事なもんは掻っ攫っていくに決まってるさ」
「なんだって、〈閑古鳥〉がここにいるのかい? じゃあマジで急いだほうがいいなお二人さん」ダリルがそう言うとレナーデは大きく頷いて、
「その通りさ、じゃあ慌しくて悪いけどここらで失礼するよ、アシュウの気まぐれ次第じゃまた会えるかもな、それじゃ」
二人が降りていったあと、ジェイはダリルへアノーリンという人物について尋ねる。
「迷宮潜りだよ、もとはカルドランドにいたはずだけど、帝国に迷宮が開き始めてからはこっちに移ったのさ。やつは隠し通路とか秘密の宝とかを探すのがずば抜けて上手くてな、肝心なものはみんなあいつが持っていっちまうんだ。迷宮公社の封鎖計画に対してはさぞ面白くない思いをしてるだろうぜ」
「そんな人がいるんですか」
「だがアノーリンなんぞ目じゃねえさ。ジェイ、さっきの姉さんで思い出したが、レナーデっつう人物を知ってるだろ? もちろんさっきの彼女のことじゃない、デレク大王の仲間だった、盗賊にしてのちのダガーピーク領主の方さ。イザベルはよくご存知だろうけどな」
レナーデは商人エドムンド・クロムウェルの次に、ノヴィレグナ皇子の身分を隠して仲間を集めていたデレクと出会った。盗賊の神ハルミナの加護を受け、まさに神がかり的な力をいくつも発揮した。無数の矢も魔術も、彼女に当たることは決してなかったと言われている。
「レナーデの秘密はその目にあったそうだ。そいつは相手の力や周囲に潜む危険、ときには未来すらも見せたという魔眼だ。ジェイ、あんたに備わっているのはまさにそれなんじゃねえのかい」




