第四話 魔法
「詳しくは知らないがエーテルというのは、世界から抽出された概念的な〈力〉、とかいうやつだろう。そんなものを用いて魔法を使うなど、健康なのに点滴を打つようなものじゃないか。なぜ食い物を咀嚼し飲み込もうとしないんだ。それからお前は私が無詠唱で魔法を使ったとき驚いていたな、ジェイ? つまり帝国の魔法使いは詠唱が当たり前ということだろう? 例えて言うなら、補助輪付きの自転車に乗り、さらに親に後ろから押してもらっているというわけだ」
現在ノヴィレグナで用いられている帝国式魔法は新しく、体系化されているがゆえに古式に比べれば異形の技術だ。古代帝国の技術の後継であるこの魔法は安定性を重視し、機械的な詠唱によって工業製品のように画一的に機能する。マナの代用品としてエーテルを使うために、マナ取り込みとそれを術式に合わせて変換する部分が省略され、極めて容易に扱うことができる。もちろん魔力の供給を肩代わりしてくれる塔や、エーテル貯蔵のための魔法具がなければ使うことはできない。
一方、現在王国で使われている冒険者の魔法は、デレク王が再征服に挑んだ折に、エルフの勇者から伝統的な流儀を学び実戦の中で作り上げた、乱暴かつ柔軟で強力なものだ。それに比べれば大仰な機関によるエーテルの供給と、あらかじめ固定された効果のための詠唱など、オルテンシアには面倒で余計なお膳立てにしか思えなかった。
「なるほど、どうやらオレが置かれた深刻な状況が分かって来たな。技術もなけりゃ先立つものもねえってわけだ。さて、どうしたもんかね」
「どうしたもんか、だと?」呆れたようにオルテンシアが言う。「お前は魔界じみた小道具を持っているだろうが。一縷の希望はそれだ。そうでなければ平原に放り出しているぞ」
彼女はジェイの腰にある魔法剣を指差した。「それはもうお前が使うしかないんだ、図らずもお前の魔力が起動キーとして登録されたからな」
「ちなみにそいつは、再設定とかってできるのかい?」
「専門の設備がある場所、例えば魔法ギルドとかに持っていけば可能だ。だが馬鹿高いから今は不可能だろうな」
具体額を聞いてジェイは呟く――箆棒だ。もちろん手放すつもりはない。
「まずはその剣を試してみるべきだ。お前が私の前の相棒みたいなカカシじゃないことを祈ろう、あのインプめ」
なるほど、どうやら前の相棒というのも帝国人で、ひどくオルテンシアの足を引っ張り、挙句平原に放り出されたのだろう。だから自分に対して風当たりが強かったわけだ。彼女ほどでないにしろ、他の冒険者も帝国人はカカシとの認識かもしんねえな、とジェイは思った。
「それじゃあ、訓練場みてえな場所はありますかい?」
「なら中庭を使うといいわ。防護壁が張ってあるから、土砂降りにぶっ放しても構わないわよ」グレイスは雑誌に目を落としたまま、大して興味もなさそうに言った。




