第九話 魔剣党
「戦いはまだ始まったばかりじゃねえのかい?」
「力を示せと言っただけで、戦えとは言っていないだろう? わたしが求めていた跳躍の力はしかと見た。まだ先は長いが、〈寄波〉の力をものにしたということさ。これよりジェイ、君を正式に党員と承認しよう!」
差し出した党首の手をジェイは握った。拍手が聞こえ、振り返るとこれまでにデプシーカで見えた党員がすべて揃っていた。
「そしてこれはわたしからの贈り物だ。使い方は分かっているとは思うが」
ダイオニシアスが差し出したものを見てジェイは目を見開いた。それは、やや小ぶりではあるものの、〈寄波〉によく似た剣だった。
「マスター、こいつはいったい?」
「我が魔剣が作り出した、君の剣の複製さ。君の相棒に贈与しこの地を離れるのもよし、あるいは予備として使うなり、二刀流って手もあるね。決定権は君にある」
こいつはとんでもねえな、とジェイは思った。まさか、誰かが持っている魔剣の複製を、いくらでも作れるっていうのか? いや、さすがに無制限ってわけはねえんだろうが……
「それはさておき、ひとまずは脱出しよう。この地は近く、封印されるに違いない。じきに第六勇者は災厄を放逐するのだろうが、その残党がこの地を支配したらまずいことになりかねないからね。それこそ〈混沌聖典〉のようなやつらが立ち入ったりしたらことだ。帰ってギルド長に報告して、報酬をいただくとしようじゃないか」
ジェイは頷き、党首と仲間たちに続いて歩き始めた。
そうして魔剣党ならびに冒険者ジェイは、デプシーカでの探索を終え、フェルネストへ帰還する。
時を同じくして、王都近郊にて、勇者が第六次災厄の根源を封じたとの一報が入った。
各地に残る残党と〈守人〉たちは未だ戦っているが、いずれ収束に向かうのだろう。
デプシーカで倒した魔物たちの報酬を獲得し、ジェイはどうにか借金の返済を終えた。
そして彼はフランに、あることを告げた――
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帝都アウレア。
エーテルの蒸気が立ち込めるこの大都市に、ある集団がやって来た。
全員が魔剣を所持している冒険者の一団。彼らが本部を帝都へ置き、活動を開始したのだ。
帝国には似合わない実力者ぞろいであり、しばしばどこで手にしたかも不明な、強力な魔物の素材を売りさばく。
彼らは一部の冒険者には疎ましがられたが、しばらく後、第六次災厄の残党が帝都を大規模に襲撃した〈アウレア外郭戦〉では大いに活躍し、帝都に彼ら〈魔剣党〉あり、とその名を轟かせた。
そしてもうひとつの集団が、時を同じくして訪れた。
彼らは気鋭の劇団だった。烏の仮面をした騎士役をはじめとした奇妙な衣装の役者たち。その中には黒子役の、妙なマスクをした少女もいたという。
帝都の夜に、悪漢を打ち倒す義賊の噂が流れたのはこの直後だった。
神出鬼没の怪人たちの目撃情報はたえず、くだんの劇団と何らかの関わりがあると囁かれたが、真相は闇の中だ。
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第六次災厄の放逐は予想されていたとおり、完全な平和の達成ではなかった。
数多くの個人・集団・国家が、野放図な力を獲得し、世界は知らず知らずのうちに混沌へ向かっていった。
それはあるいは、混沌の神ローギルの目論見であったのかもしれない。
〈災厄の守人〉たちはその後一世紀近く戦い続けることとなる。〈守人〉の獲得者は最後まで明らかにはならなかったが、守人たちは戦いの果てに「再び災厄が現われるまで我らは見張りを続ける」と告げどこかへ消えた。
第六勇者ルキノ・レオーネの素性は不明のままだった。巨躯で寡黙な青年で、その聖剣を振るえばすべての邪悪は滅んだ、とのありきたりな英雄譚のみが残された。彼はこれまでの勇者たちのように君主として国を築くでもなく、巨額の富を得るでもなく、どこぞへと消えた。ただ、時折〈守人〉に加勢したり、災厄より生まれた力を振りかざす輩を成敗したりといった目撃談は残されている。
アウレア外郭戦において被害が少なかったのも、彼が密かに参戦していたからだと言われているが定かではない。
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冒険者ジェイことジェームズ・ジョンソンはその後ダイオニシアスの名を継承し、生涯冒険をやめることはなかった。
第三章 完
雨が降りしきる通りに、一人の来訪者があった。
まるで幽霊のように、雨煙の中をふらつき、漂っている。
廃墟の軒先に滑り込んで、来訪者は荷物を検める。濡れた指先は一枚のカードを掴む。それは冒険者としての証だった。
それには虫食いのようにいくつもの穴が開き、名前は最初の一文字しか読むことができない。
〈ジェイ〉――それが、来訪者の名前だった。
第四章へ続く




