第五話 逃げ水のライラ 2
ジェイによって穴を穿たれた後に、ライラが放った強烈な光の魔術を受けてサンドワームは絶命した。
彼女に、吸血鬼であるナーリに対して思うところはないかと尋ねると、正式に居住許可が出ているので手出しすることはないと述べた。アシュワンドの祓魔師や、グランクローシェの聖騎士のように吸血鬼を狩るのが別に仕事ではない。もちろんナーリが何らかの違法行為に手を染めて仲間に手を出したらその限りではない、とライラは言った。
ソルフォールと帝国が大昔に結んだ協定により、かの地の騎士を定期的にノヴィレグナへ派兵することになっている。強力な血騎士たちは数々の武勲を挙げ、多くの英雄的な演劇や物語の主題となった。そのため今日の帝国内では吸血鬼を忌避する感情はあまりない。ナーリが万人に好かれるような行動をとっているかどうかとは別だが。
「思ったんだけどさ、魔剣党はだいぶ個人主義って感じなんじゃねえのか? あんたとナーリやヴァンスはあまり、行動を共にするような感じじゃねえよな」
怪物の死体に刃を入れながら、ライラは質問に対して頷く。
「そうなんですわ。わたくしが使うのはスゥレの神聖術、光の力。ナーリとの相性は言うまでもありませんし、ヴァンスの霧雨も吹き飛ばしてしまいますので、あんまり一緒には戦わないですね。基本的に個人で動くんですわ、我々は。今でこそジェイを成長させるために手助けをしているけれど」
「成長か、オレっつうか、オレに宿ってる力だろ?」
「魔剣党の成長すなわちジェイの成長ですわ。……よし、魔石が取れました」
ライラはそれを背嚢にしまった。そしてジェイに向き直り言う。
「ジェイ、これまで倒した敵の希少部位や魔石はナーリが確保してます。これはクランの共同資金ですけど、ジェイの借金を返すために使いましょう。それで帝国へ戻るための旅費も稼げるはずですわ。決めるのはあなたです、ここから出たあとどうするかを」
「……できることなら、国には帰りてえさ。その前に考えがある。フランに〈寄波〉を受け渡すってことさ」
ライラはいぶかしむ表情になった。「彼女は既に〈影呑み〉と〈糸無き傀儡〉という二つの力を得ています。これ以上のお膳立ては必要ですか? 何よりあなたが魔剣党の人間ではいられなくなりますわ」
「そうなった場合どうなるんだい、あんたたちは消滅するってか?」
「いいえ。しかし、あなたとは別の道を歩むことになりますわ。例えばこの迷宮で魔剣のひとつでも見つかれば話は別ですけど」
「またアヴァが在り処を教えてくれたりはしねえか」
「そうだったら良いですけれど。ああ、帰ってあなたの計画を話したら、またオルテンシアにぐちぐち言われますわ」
「もう慣れたさ」
二人は武器を納め、先に進んだ。ライラはある一点で手がかりのマナが途切れていることに気づいた。その付近のどこかに、次なる試練への入り口があるはずだ、と考えたが周囲には砂しかない。
ジェイが冗談交じりに、穴でも掘ってみるかい、と口走ったとたんに砂に亀裂が走った。
サンドワームの口よりも大きな地割れが広がって、二人は砂とともにその中に吸い込まれていった。




