6-3:リーダー
「っと……大丈夫かお嬢、どっかに吹っ飛んでないか?」
「な、なんとかね……でもごめん、ちょっと、酔った……」
「またかよ?本当に弱いんだな……」
俺達はおそらく、過去に到達できたのだろう。
時計島の見た目は現在と全く変わらないが、どこか刺すような空気が俺達を迎えた。
「も、もう大丈夫、行こうか」
「そうだな」
「……そういえばさ」
「なんだ?」
「この島はさ、ルナーとソーラの戦いを終わらせた……いわば聖地みたいな場所な訳だよね」
「そうらしいな」
「現在ならまだ分かるけどさ、この時代でもここに誰もいないのはおかしくない?」
「……確かに。警備の一人も立っててもおかしくはない……が」
誰もいない。見渡すかぎり背の低い草の群れだ。
「これは……まずいな」
「えっ?なんで?」
「……分からないか?」
「……うん、ごめん、分からない」
「この島を出る手段が無い」
「……あ」
「こいつは……想定外だ」
「と、とりあえずあの縁の上まで上ってみよう!何かあるかもしれない!」
「何か……か」
女王の話によれば、『紫の髪の少女』が現れたのは『魔王』と西の大陸との戦争が始まった頃。
ということは……
「な……何これ……?」
「……やっぱりか」
縁に上った俺達の前に現れたのは、巨大な飛空船の群れだった。
「この時代は魔法が発見されて間も無いが、それでも現在よりは発達してるみたいだな」
「でもこれは……こんなに大量の船で何をするつもりなんだろう?」
「決まってるだろ、『魔王』の征伐だよ」
「……そういえばそうだったね……」
危険な時代に来てしまった。そのことを今更ながらに実感したようだ。
そんな話をしていると、船団の中の一つが群れを外れてこちらに向かってきた。
「こ、こっちに来るよ!?」
「丁度いい、ここを出られるかもな」
「なんでそんな余裕なの……?」
「お前達、こんなところで何をしてるんだ?てかどうやってこんなところに来た?」
飛空船から降りてきたのは、気だるげな雰囲気を漂わせた若い男だった。
「ええと……」
言葉に詰まるお嬢。
「移動魔法の実験に失敗したんだ」
助け舟を出す。ここで疑われては何も始まらない。
「移動魔法?ってことは研究部か?お前ら」
「まあ、そうだな」
適当に話を合わせるに限る。
「まったく……お前らここがどこだか分かってるか?中央島だぞ?東の大陸まであと半分もあるじゃねぇか……海に落ちなくて運が良かったな」
「いや面目無い……面目無いついでに研究部まで連れてってくれないか?その船で」
「あ?……しかたねぇな、ちょっと待ってろ」
男は西を向いてなにやら風車のような物を取り出した。
「あー……左翼側十五番船船長、ヤルトです……団長に繋いでくれますか……はい……」
その風車に向かって話すと、勢いよく回転を始めた。
「ね、ねえジャック……」
お嬢が困惑したように話しかけてくる。
「あれは風魔法の応用で遠隔会話を可能にしてるんだな、地上と違って遮蔽物が少ない飛空船団ならではの……」
「そうじゃなくてさ」
「ん?なんだ?」
「ジャック……この時代の言葉が分かるの?」
「……!」
しまった。こいつは魔法言語が分からないんだった……。俺も分からないはずなんだ。
「そ、そういえば、そうだな……この首飾りの影響かもな」
「……本当に?」
「本当に?ってどういう意味だよ……他に理由があるのか?」
「……いや、知らないけど……まあいいか、通訳はお願い」
こいつはたまに鋭い割に基本的に人をあまり深く疑わないから助かる。
……多少の罪悪感と不安感は、ある。
罪悪感?なんでこいつに罪悪感なんて抱く必要があるんだ……?俺もどうかしてるな……
「おい、お前ら、乗るならとっとと乗りな、許可が下りたから連れてってやる」
「助かるぜ」
「まったく、俺の船だけ戦争に乗り遅れちまうよ……」
「……なあ、勝てるのか?俺達は」
聞き込みも兼ねて話を合わせる。
「ああ?勝てるに決まってるだろ、魔法のおかげで俺達は無敵さ」
「そうか……でも敵も強いんだろ?」
「ああ、研究部によると奴らの力は魔法にすげえ似てるけど違う力で……って、お前も研究部じゃねえか」
……墓穴を掘ったか……?
「そういやそうだったな、ハハハ……」
「全く、本当にお前俺達の仲間なんだろうな……?」
「そ、そんな事はどうでもいいだろ、とっとと行こうぜ」
「なんか怪しいな……だいたいそっちの奴はどうした、さっきから一言も喋ってないが」
まずい状況だ。完全に疑われている。
「あー、そいつは……ちょっと心の傷で言葉がだな……」
「言葉も話せないのにどうやって研究部の面接を受けたっていうんだ?」
「そりゃ筆談に決まってるだろ」
そう答えると、男は意地の悪い笑いを浮かべた。
「……研究部に入るのに面接なんて無いぜ」
「……」
ハメられた。
「なあ、最近本当にツイてないって、本気でそう思うぜ」
「ジャック……?急にどうしたの?」
困惑極まったお嬢。
「おっと!それ以上許可なく口を動かすと直ちに殺す!お前達さては奴らの手先だな……?」
男は俺達に銃のような物を向けてきた。
「落ち着いてくれ、これは……」
「黙れ!お前達はリーダーに引き渡す!」
「……なるほど、さっきのはそういう会話だったのか」
「そうだ」
押し込められた船内倉庫で、先程の経緯を説明した。
「しかし困ったな……こんな調子で行ったらいつ『魔王』の封印方法が分かるか……」
「まあ、なんとかなるだろ……」
……こいつを利用するより一人で探したほうが早かったか……?
だが神話にもあるとおり魔王の封印にこいつが関わっているのは確かだ。今は……耐えるしかない。
数時間後。俺達は見覚えのある城の前にたどり着いた。
「この城は……現代の西の王城と同じ……?」
お嬢が驚いた様子で言った。
「そうだな……この頃からあったとは驚きだ」
「喋るなと言ったはずだが?」
男が直ちに注意してくる。……イヤミな野郎だ。
城の中心部。
「リーダー、中央島に怪しい奴らがいたので連れてきました」
男が声をかけたその人物はゆっくりと振り向いた。
「中央島……?なぜそんな所に」
怪訝な表情をしたその整った顔には見覚えがある……あれは確か……
「ねえ、あの人現代の西の女王にそっくりじゃない?」
お嬢が耳元で囁いた。
「そうだな……重要人物が思わぬ早さで見つかった、というべきか」
神話によれば魔王の封印に関わった西の賢者ことセリシアその人で間違い無いだろう。驚くほどに似ている。
「さあ?俺に聞かれても……じゃ、尋問はリーダーに任せますよ、俺は戦場に向かいます」
男は踵を返して退出しようとした。
「そうですか……気をつけて」
その言葉を受けて、男は扉の前で立ち止まり、背を向けたまま意を決したように言う。
「リーダー……この戦いが終わったら……」
「はい?」
「……いえ、なんでもないです」
そして決然とした足取りで部屋を出た。
「……?なんなのでしょう、似たような事を皆言いますね……これで11人目でしょうか」
リーダーは呟きながら扉を見つめた。
「さて、ようこそ私達の砦に。あなたたちが何者なのか……私は『知る』ことが出来る。どうか落ち着いて、そこを動かないでくださいね……!」
打って変わって殺気立った目で、リーダーはこちらを見つめるのだった。




