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6-1:世界

「なあ、お嬢」

飛空船内でお嬢に声を掛ける。

「な……なに……?」

……虫の息だ。

「ど、どうしたんだ?」

「ごめん……乗り物に乗ると……すごく酔うんだよね……」

「そうか……」

随分と気の抜ける事だ。

だが油断してはならない

そう、こいつは……

「で……何の用?」

「いや、後でいい」


俺の、殺すべき相手だからだ。


第六章 ジャック編 神話


「あとどれくらいで中央の島につく?」

操舵士に尋ねる。

「あと7時間ほどです」

「そうか、分かった」

7時間もあれば組み立て終わるだろう。

『アンカー』の部品を取り出す。

「……」

お嬢が不思議そうにこちらを見ている。

「どうした?これが気になるか?」

「……」

頷いた。どうやら喋れないようだ。

「これはな……ま、これから必要になる物だ、すぐに分かるさ」

組み立てながら思考を整理する。

『命令』は……こいつを殺す事。至極単純な答えだ。

やろうと思えば……今でも。

だがまだ殺さない。俺にはこいつが必要だ。


ふと、下界を見下ろす。

見渡す限り、海だ。

海か……

「どうしたの……?そんな顔して」

声をかけられ、振り向く。お嬢だ。

「船酔いはもう大丈夫なのか?」

表情を隠し、問い返す。

「うん……少し動きが安定したからね」

とはいいつつ、まだすこしふらついている。

「そうか」

「下に何か見えるの?」

お嬢も下界を見渡した。

「いや、海があるだけだな」

「海を見て、なんであんな表情をしてたの?」

「あんなって……どんなだよ?」

「なんというか……悲しげな感じの顔だったよ」

「悲しげ……か」

案外、鋭いところもあるじゃないか。

「いや、俺の故郷は海の近くでな……少し懐かしさに浸ってたんだ」


何をするでもなく数時間が経過し、飛空船は中央の島に着いた。

「到着しました。ここが中央の島です」

操舵士に促され、飛空船を降りた。

「ほらお嬢、着いたぞ」

「……うん……」


「この島自体が、巨大な『時計』……考えもしなかったな」

お嬢が呟いた。

断崖に囲まれた盆地のようになっており、『時計』の盤面は決して外からは見えない。

「とにかく、中央まで行くぞ」

頭上を凄まじい勢いで小部品が通り過ぎて行く。

「こんな『時計』……どうやって作ったのかな」

お嬢が見上げながら呟く。

「さあな」

「自然に出来たようには……見えないよね」

「そうだな」

この場所は……俺にとって宿命の場所。それはこいつにとっても……

「ど、どうしたの?怖い顔して……」

「……いや、なんでもない」


中央部にたどり着いた。

「ここ……生き物とか住んでないのかな」

「住んでないだろうな、見る限り」

見渡す限り草も生えない殺風景な岩の塊だ。

「ますます誰が何のために作ったのか……分からないね」

「まあ、使えるもんはありがたく利用させてもらおうぜ」

俺は三つの部品の回転軸の部分を撫でた。

「でも、本当にこんな大きな物も巻き戻せるの?」

「ああ、多少疲れるだろうが……問題はそこじゃないんだ」

「問題?」

「単刀直入に言えば、『帰ってくる方法』だ」

「えーと……?」

「これまでみたいに少し時間を戻すだけならすぐに『ここ』に帰ってこれるが、、今回みたいに数百年単位で戻るとなると悠長に待ってたら寿命が来ちまう」

「ああ、なるほど……」

「寿命の問題が無かったとしても、まだ問題があるんだ」

「まだあるの?」

お嬢は不安げだ。

「ああ、この問題の方が深刻だが、数百年もの昔に、俺たちが歴史に無い事をやると修復不可能なほどに現在が変わってしまう可能性があるんだ」

「……よく、分からないけど……これまで時間を戻してやってきたこととは違うの?」

「ああ、この世界には『このままでいようとする力』が働くんだ。数時間ほど戻して、元の歴史とは違う事をして『ズレ』が生じてももその『力』で捻じ曲げられて結局元の世界に戻るんだ」

「うん」

「だがその『力』の適用されるのは『現在』のタイミングだ。故に捻じ曲げられずに『ズレ』は大きくなっていき、『現在』の時間に戻ってきたころには修復不可能なほどになってしまうんだ、分かるか?」

「うん……??」

お嬢が理解できないのも無理はない。

「うーん、そうだな、まず俺たちがいるこの世界があるだろ」

「うん」

「少し時間を戻して、元とは違う事をするとその時点で世界が変わるんだ、ここまで分かるか?」

「なんとなく……」

「本来なら分岐してできたその世界は、元の世界と平行して進んでいく。だがその世界が『現在』の時間まで進んだところで、『力』が働いて元の世界と合流するんだ」

「うん……?」

話を進めるほどにお嬢の首が少しずつ傾いていく。ちょっと面白い。

「だが、分岐した世界が戻る前に、さらに分岐を起こしてしまうことがあるんだ。どんどん元の世界から離れて行くようにな。それでも二段階くらいならまだ戻れる」

「うん」

「だが数百年も戻ってしまうと、分岐に分岐を繰り返し、元の世界からかなり遠い世界に来てしまう。そうすると、もはや『力』が働いても戻っては来れなくなる、そうなると困るわけだ」

「うん、なんとなく、分かった……かも?」

「まあ、なんとなく分かれば十分だ」

「で、どうするの?」

「そこでこいつを使う」

『アンカー』を取り出す。

「なに?その……なに?」

アンカーはなんとも形容しがたい形をした金属の塊だ。先端には針が付いている。

「これを『時計』に刺しておく」

「刺す?」

「そう、この針の部分を……」

実際に刺してみせる。

「こうやって刺す」

「刺さるんだ……」

「そんでもってこれを引き抜く」

部品を引き抜いた。

「これを持っておけば、世界は移り変わることは無い」

「へえ、すごいね」

「……たぶん」

「たぶん!?」

「仕方無いだろ、こんな長時間移動は初めてだ」

「で、でも、たぶんって……」

「戻りたいときはこの部品を元に戻せばいいんだ」

「本当に戻れるんだよね……?」

「不安か?」

「うん」

「そ、そうか」

毅然とした答えだ。そこまで即答する必要は無いと思う。

「でもこれ以外手は無い……どうしてもというならお前はここに残ってもいい」

「……いや、行くよ」

そうこなくては。俺にはこいつが必要だ……


決して、変な意味ではなく。


続く。

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