4-2:退魔
「お前の……森?」
「そうだ!この森は代々あたしの一族が守ってきた!」
「な、なるほど……じゃあ、出口を教えてくれないか?」
「……見たところ、あんたは本当に流れ着いただけみたいだし、いいよ」
案外素直で助かる。
「さっきは失礼したね、うちのが」
「うちの……ああ、さっきの猛獣か」
「ああ、なんだか最近気が立ってるみたいでね……」
女はゆっくりと辺りを見回しながら歩いた。
「そういえば、お前は名前はなんて言うんだ?」
「……答える必要、ある?」
「いや、別に答えたくなきゃいいんだけど」
「じゃあ答えない」
「……」
警戒されているのか、それともただ単に冷たくされているだけなのか……?
「さ、さっき言ってた宗教団体ってなんなんだ?」
無言は辛いので一生懸命話をしようとする。
「ああ、最近何を思ったかこの森によく入ってくる奴らがいるんだ」
「宗教勧誘をしにか?」
「さあ?奴らは宗教じゃ無いとか言ってるけど……まあ、あんたには関係の無いこと」
明確に突っぱねられてしまった。
「さ、ここをまっすぐ歩いて、森を抜けてまっすぐ行けば村につくはず」
「村があるのか?」
「……いくら隔絶されて長いといってもそれくらいの文明はあるよ」
ムッとしたように返された。
「い、いやそういう意味じゃなくて……」
「まあ気にしないよ、どうせあたしは行った事も無い所だし」
「行ったことが無い?」
「あたしはこの森を出ることは許されてないから」
「どういう意味だ?」
「……答える必要は無いよ、さ、行きなよ」
こうまで拒絶されると流石に傷つく。
「ありがとうな、じゃあ、元気で」
とりあえずお礼を言って道を歩き始めた。
「えっ?ああ……うん、じゃ」
戸惑ったような返事が返ってきた。
道半ばで振り返ると、もうそこに女の姿は無かった。
変な奴だった。
まあとりあえず、ここは目指していた『国領外』なのだろう。どうにかしてこの剣の手掛かりを探さなければ。
俺は折れた剣を握り締めた。
……何かがおかしい。
歩けど歩けど森から抜けることができない。
「おかしいな、すぐに抜けられるみたいな言い方だったが……」
とにかく腹が減った。とっとと村とやらにたどり着きたいところだが……
「グルルル……」
腹の虫が鳴き始めた。思えばどれだけ海を彷徨ってたのかも分からないんだよな……
「グルルルルル……!」
それにしても我ながらうるさい腹の虫だ。
「ガアアアッ!」
……ガアアアッ?なんだ今の音……は……?まさか!
「たあっ!」
振り向きざまに剣を抜いて襲撃者を打ち払った。
「ググググ……!」
「やっぱりお前かよ……!」
さっきの猛獣だ。
「お前!しつこいぞ!成敗してやる!」
腹が減ってるのもあって無性に腹が立ってきた。
「来い!」
俺は剣を構えた。……先の無い剣を。
「えっ!?」
辺りを見回すと、さっきの衝撃で折れ飛んだ刃先が転がっているのが見えた。
「嘘だろおい……!こんな馬鹿な話が!あるかよ!」
俺の中の何かがキレた。剣を投げ捨てる。
「だから言っただろ?そんなおもちゃ、役に立たないって」
「!?」
後ろから聞き覚えのある声。
「また会ったね、遭難者」
皮肉めいた口ぶりだ。
「まさかお前!騙したのか!?」
「ああそうさ、悪いね……そいつは大食いなんだ」
なんてこった……今度こそ、終わりだ……
俺は絶望に襲われてしゃがみこんだ。
「グゴアアアア!!!」
猛獣が俺に飛び掛った!……はずだった。
「キャッ……な、何をする!やめ……ろ…!」
背後から恐ろしい声が聞こえる。
俺は弾かれたように立ち上がった。
あの女が猛獣に襲われている……!?
俺の中を凄まじい速さで思考が巡った。
助けるか?助けないか?考えるまでも無く、答えは一つだった。
「う、うおりゃあああああ!!」
唯一の手持ちの武器らしい武器……折れたる封印の剣を思いっきり猛獣に叩きつけた。
「ギャオアアアアア!!!」
恐ろしい叫びを上げ、猛獣は悶え苦しんだ。
「な、なんだ……?」
傷口から黒紫色の煙がもうもうと立ち昇った。
煙は空に消え、猛獣は足を引きずり、森の奥へと消えていった。
「これは一体……」
俺は剣と猛獣の後姿とを交互に見つめた。
何がなんだか分からないが、とにかく助かったらしい。
女は……気絶している。
「やれやれ……」
仕方ない、目覚めるまで待つか……
「はっ!?こ、ここは……?」
「よお、また会ったな、森の主」
「えっ!?」
女は飛び上がらんばかりに仰天した。
「なっ、なんであんたが!」
「色々と言いたい事はあるが、とにかくゆっくり出来るところと……あと食べ物をくれないか」
「まさか、あたしを助けたのか!」
「ああそうだよ」
「どうして!」
「あんま叫ぶとまた倒れるぞ」
「なっ……馬鹿にするな!質問に答えろ!」
「うるさいな、見殺しにされたかったのか?」
「くっ……その……なんというか、その……」
女はしどろもどろになった。
「細かい事は後でいいよ、とりあえず……」
我慢の限界だ、俺は膝をついた。
「何か食うもの……くれ……」
「えっ……ああ、うん……分かった」
女は安堵したような、気の抜けたような言い方の返事をした。
続く。




