第四十三話:警備
「お、目が覚めたか」
目を開けた白波が初めに見たものはジャックの顔だった。
「ここは……?」
「王都だ。お前が気絶してる間についちまったぜ」
「気絶?」
「覚えちゃいないか。まあいいさ。俺が気絶させたようなもんだしな」
「??」
「そんなことよりだな……少し、まずい事になってる」
「え?」
首を傾げる白波の背後から不意に声が上がる。
「いたぞ!!ここだ!もう一人も目を覚ましてるぞ!」
「逃げるぞ!走れるか?」
「え?ええええ?」
白波は訳も分からぬまま走り出した。
時間はやや遡る。
「こいつ……体は小さいくせに……重い……」
気絶した白波を担いだジャックは、前方に王都の白い壁を見ながら毒づいた。
「だがやっとついたぜ……もう日が暮れちまう、とっとと宿でも取ってお嬢を降ろして一息つくか」
だが王都の象徴である巨大で華美な門に近づいたジャックを迎えたのは、冷たく行く手を遮る鉄扉だった。
「……どういうことだ?『眠らない門』はどうしたんだ?」
西の大陸の王都の門は、その荘厳な装飾だけでなく、常に開いていることで有名である。
真夜中だろうと悪意ある侵入者を完璧に防いでみせる強力な警備兵団の象徴でもあり、「眠らない門」と呼ばれている。
だが、それが閉まっている。
「おい、これはどうしたんだ?」
門の脇の警備兵詰め所に声をかける。
「どうしたもこうしたも……いや、お前には関係の無い事だ。朝にでもくるんだな」
警備兵は眠そうな目をこすり、ぞんざいにジャックを追い払った。
「冗談じゃないぜ、こっちは疲れてるんだ、せめて理由くらい聞かなきゃ納得できないぜ」
「疲れてるだとォ!?俺だって疲れてるさ!こんな、せまい所でずっと起きてなきゃいけない俺の気持ちは分かるまい!」
警備兵はヒステリックに喚いた。相当気が立っている。
「落ち着けよ、だからその理由を教えてくれとだな」
「うるさいうるさい!これ以上騒ぐと逮捕するぞ!」
「なんだよ……分かったよ」
ジャックはいったんその場を離れた。
「くそ、野宿なんてごめんだぜ……どうするか」
ジャックは暫し考えた。
「もうちょっと早くついてりゃあ……あ、そうか」
そして、何か思いついたように城壁の周りを歩き始めた。
「こんだけの大都市ならはずれにもあるはずだぜ……」
そして、「それ」を見つけた。
「あったあった、便利なもんだぜ」
ジャックは「それ」……古代の構造物、時計を撫でながら言った。
「ちょっと小さいが、まあいけるだろ」
ジャックは時計に向かい合って力を込めた。
ジャックは得意げに開いた門に向かって歩いていた。
「便利なもんだな、この『力』も」
だが。
「今日の入城時間は終了した!旅人よ立ち去るがよい!」
ちょうどジャックの前にいた旅人が門に入った時に警備兵長がやってきて言い放った。
「おいおいおい……これはさすがに……」
「立ち去れ!お前のようなものを許していれば際限が無いだろう!」
「それはそうだが!さすがにこれは酷いだろ!」
「同情はしてやる。だが通すわけにはいかん」
「頭の硬い奴だな!偉そうにしやがって!」
ジャックは疲労からイラついていた。
「いいから通せ!」
ジャックは素早く兵長の脇を通り抜けた。
「あっこら!待て!奴を追え!追うんだ!」
こうして、脱兎のごとく逃げるジャックと警備兵団の追跡劇が始まったのだった。
「というわけだ、分かったか!」
ジャックは走りながら白波に説明を終えた。
「分かった……けど」
「なんだ」
「どうして門の閉まるのが早まってるのかな?」
「知るか!とにかく走れ!」
だが、前方からも警備兵!
「しまった、挟み撃ちだ!」
「ははは、我々のほうが地形に詳しかったようだな!」
立ち止まった白波達を追いついた警備兵が笑った。
「くっ……」
「ここは大人しくしよう……」
白波達は両手を上げて害意の無い事を示した。
「ここで大人しくしてろ!明日には出してやる」
地下牢に白波たちを放り込みながら警備兵長が言った。
「……まあ明日に出れるならいいか」
白波は楽観的だ。
「くそ……こんなの横暴だろ」
「でもさ」
「なんだ?」
「どうしてもっと時間を戻さなかったの?」
「ああ……戻せる時間は時計の大きさによるんだ。ちいさい時計だったからな……」
「へぇ……」
しばらく、会話はなく時間が過ぎた。
その静寂を割ったのは、白波でもジャックでもなく……
「……まさか……本当に……」
扉を開けて入ってきたその人物は、白波の姿を見て驚愕に目を見開いた。
「再び……来てくださると……信じていました!白波様!」
「えっと……君は……?」
「私はセリシア十三世……あなたの救った初代セリシアが末裔……この国の現在の女王です」
若き女王は感動に声をわななかせた。
続く




