第四十四話:神話
「えっと……えっ!?」
白波は一瞬遅れて仰天した。
「何を驚かれているのですか!しっかりなさって下さい!」
「えっと……話が掴めないですけど」
「……まさか人違い?いや、そんな馬鹿な話が」
女王は困惑して後ろを向いて独り言を言った。
「えっと……なんで私の名前を?」
白波は助け舟を出すように言った。
「そう!あなたは白波様!そうでしょう!」
女王は勢い込んで振り向いた。
「そうだけど、なんで知ってるんですか?」
「神話に記されたその神聖な名を知らないはずがございましょうか!」
「神話!?そんなの聞いたこと無い……」
「それは……王家にのみ伝えられる神話でございますから」
女王はすこしクールダウンしながら言った。
「それに……私が出てくるってことですか」
「ええ!この世界を襲った巨悪を打ち払い、秩序を取り戻した英雄……それがあなたなのです!」
再びせわしなく部屋をうろうろしながら女王は語る。
「あの……悪いけど私、記憶が無いんです」
「ええ、記憶が……えっ!?」
女王は驚いて勢いよく振り返った。
「あの……この名前しか覚えてなくて……えっと……なんかごめんなさい」
「……ええ、そうでしょうとも!神話にある通りです!それを知っているということはやはりご本人なのですね!」
「えぇ……」
「なあ、その神話っていうの聞かせてくれないか」
先ほどまで難しい顔をしていたジャックが突然口を開いた。
「……誰です?あなたは」
「俺は……そいつの従者だ。だよな?」
「そいつとは何さそいつとは」
「いけませんよ、主人への口の聞きかたには気をつけなければ」
「……ああ、分かったよ、とりあえず神話を聞かせてくれ」
「ええと……」
女王は困ったように白波を見た。
「あ、この人は……本当に私の仲間だよ、たぶん」
「たぶんとは何だ」
「……分かりました。お聞かせしましょう……建国の神話を」
遥か昔……この世界を神と悪魔が奪い合った。
神は光の軍勢『ソーラ』を、悪魔は闇の軍勢『ルナー』を率いて一千と四十二もの戦いを繰り返した。
だが全て決着はつかず、多くのソーラとルナーが死んで行った。
そんな中、一組のソーラとルナーが愛し合った。決して許されざる禁忌であった。
神と悪魔はその二人を引き離し、見せしめに惨たらしく殺した。
二人は七日に渡って処刑に耐え、互いの名を叫び続けたという。
だが、二人も八日目についに事切れたのだ。
それを見たソーラ達とルナー達は自分達の争いがいかに愚かであるかを悟り、それぞれの主に牙を剥いた。
神と悪魔は耐え切れずに姿を隠し、その後ソーラとルナーは和解し、世界を二つに分けた。
東の大陸にはルナーが、西の大陸にはソーラが住むようになった。
中央の島には最初の『時計』が作られ、昼にはソーラの、夜にはルナーの力を強めた。
これにより互いに牽制する役割があったのだ。
「へぇー、あの時計にそんな意味が」
ジャックが感心したように言った。
「……で、私の話は?」
「まだ続きがあります」
女王は一息ついてから続きを語りだした。
その数百年後。ソーラと人間、ルナーと人間の混血が進み、世界は平和そのものだった。
だが、とある東の大陸の学者が失われたルナーの力を再現する方法を見つけてしまったのだ。
それは死んだルナーの魂を呼び出し、我が物とするものであった。
学者はそれを試した。だが、呼び出した魂は見せしめに殺されたルナーの物であった。
憎悪に狂ったその魂に侵食され、学者は凄まじい力とこの世の破壊衝動に包まれた。
人々は変わり果てた彼を『魔王』と呼んだ。
魔王は次々とルナーを作り出し、西の大陸に攻撃を仕掛けた。
もちろん西の大陸も黙ってはいなかった。西の大陸で新たに発見された『魔法』で対抗したのだ。
こうして再び世の中が争いに燃えるかと思われたその時!
光に包まれた紫髪の少女が中央の島より現れ、東の勇者雷と西の賢者セリシアを率いて魔王に立ち向かったのである。
長きに渡る戦いの末、白波と名乗ったその少女は西の大陸にて魔王の封印に成功する。
そして再び魔王が蘇ることを予言していずこともなく消えていった。
その時は自分も記憶を無くした状態で再び現れると誓って。
その後、賢者セリシアは西の大陸にて女王となり、魔王の封印を監視した。
勇者雷は東の大陸にて王となり、荒れ果てた大陸の復興に心を注いだ。
こうして現在の二つの王国が誕生したのである。
「……以上です」
「肝心の戦いの部分がずいぶんとざっくりしてんな」
「致し方ありません。彼らの動向は謎に包まれているのです」
「その少女っていうのが……私?そんな……だいたい建国って七百年も前じゃあ……」
「ええ……ですが、間違いなくあなたです!」
「なんでそんな自信が」
「女王のカンです」
「謎の説得力がある……」
「で?その魔王ってのが復活しちまったのか?」
ジャックが険しい目つきで尋ねた。
「……ええ。それも、つい昨日」
「昨日!?」
「何者かの策略によって、です。……あっ」
女王は何か思い出したような顔をした。
「どうしたんですか?」
「今からそれに関係あるであろう者達の尋問に向かうところだったのです」
「……それってどんな人達ですか?」
「ええと、東の大陸から来たという鎧の男と、白いドレスの少女と、痩せた男です」
「それって間違いなく……いや、でも……痩せた男?まあいいや、私も行っていいですか」
「?? はあ、かまいませんが」
「いや、まさか、ね……」
白波は一抹の不安を抱え、女王について行った。
続く




