第四十二話:異変
西の大陸、とある街道……二人の旅人が王都を目指して歩いていた。
一人は旅行用多機能マントを着た小柄な女。背には異様な雰囲気の巨大な槍と盾を背負っている。
もう一人は白いロングコートを着た長身の男。白い髪と合わせて、その姿はどこか現実離れしている。
「気をつけろよ、このへんは性質の悪い盗賊団の縄張りだ」
長身の男……ジャックは辺りを鋭く見渡しながら言う。
「まあ昼間からこんな道の真ん中には出てこないでしょ」
小柄な女、白波が返す。
「いや、ここ最近になっていつでも襲いかかってくるようになったんだ……なぜかは知らねぇが」
「盗賊、ね……」
「なんだ?」
「いや、前にも盗賊団と戦ったことがあって……」
「……東の大陸で、か?」
「うん」
「そうか……東の大陸でも盗賊どもがうるさいのか……それは……大変だな」
ジャックはなにか考えるように空を見た。
「グルルルル……」
その時、背後から恐ろしげな唸り声!
「なん……ぐおッ!?」
振り向くと同時にジャックの鳩尾に黒い影が飛び込む!
「げほッ……なん……だ?狼か!?」
「いや……違う。これは……」
『それ』と対峙した白波は言葉を失った。
「グ……」
血走った目を見開き、開いた口からは涎を垂らすそれは紛れも無く……
「人間……?」
「そんな馬鹿なって感じだが……確かに人間だな」
白波とジャックは一歩引く。
「グおおおおおおお!!」
黒い襤褸布を纏った野生の獣のような風貌の男は吼え猛った。
「来るぞ!迎え撃つしかない!」
「うん!」
ジャックは片腕で短剣を逆手に持ち、右半身を前に出して構える!
白波は左手に大槍を、右手に大盾を構え、守りの体勢に入った!
「オアアアあアアああアアアア!!!」
男は理性の欠片すらも感じられない狂気そのものの声を上げ、襲いかかってきた!
狙いは……ジャック!
ジャックは迎え撃つように走り、すれ違いざまに短剣で一閃!血が流星の如く紅く尾を引く!
「おおおオオおオオおお!!」
痛みを感じないかの如くまたもジャックに突撃!直線的な動きだ!
「こいつは生半な事では追い払えないか……」
ジャックは後ろの左足を更に後ろに引いて構える!
「お返しだぜ!」
そのまま勢いを乗せて痛烈な蹴り!男の鳩尾に突き刺さる!
「ガふっ……!」
血を吐き、斜めに吹き飛ぶ。
「これでしばらく起き上がれないだろ、とっとと行くぞお嬢!」
「……」
返事が無い。
「お嬢……!?」
白波はいつのまにか地に伏せていた。右腕からは出血!
「どうしたお嬢!」
白波は気絶し、言葉を返さない。
「な、なんだとォ……!?」
「グルルルル……」
背後から唸り声!男が立ち上がっている!?
「グわオオおおオオオオ!!」
再びジャックに飛び掛る!
「くそッ……!」
避けてしまえば白波に攻撃が当たってしまう!打ち払うか……!間に合わない!
「ままよ!」
片腕でガード体勢を取り、受け止める!男は腕に噛み付いた!
「くそッ!こいつ……離れろ!」
腕をむちゃくちゃに振り回し、振りほどく。
「もう腕はこれ一本しかねぇんだぞ!」
ジャックは素早く白波の方を確認しながら叫ぶ。協力者は……見当たらない。
「お前……いつの間にお嬢に攻撃したんだ……?」
「ぐアウッ!」
再度の突撃!
「話を……聞けよッ!」
側面から痛烈な裏拳を叩き込み、吹っ飛ばす。
「ガああアアアああ!」
吹っ飛ばされた先ですぐに起き上がる!
「なんて打たれ強さだ……まさか!」
ジャックは先ほど切りつけた男の右腕に注目した!血は……出ていない!
「こいつ……『歪みの力』……ダメージをお嬢に……?まさかだろ!」
だがジャックは己の感覚でも『歪みの力』の気配を感じ取っていた……
「『歪みの力』……こんなところでも見るとは……やはり何か起こってるのか」
ジャックは独り言を言った。こうして自らを落ち着かせるのだ。
「グオオおお!!」
「うるせぇ!ちょっと黙れ!」
ジャックは更に飛び掛ってきた男を打ち払う……訳にもいかない!白波が危険だ!
「くそッ!」
ジャックは白波から離れるようにして避ける!
「『受け流す』力……といったところか……」
ジャックは分析を始める。
「受けた衝撃を別の相手に受け流す……単純ながら厄介な力だ」
流れるような動きで相手の攻撃を避け続ける。
「弱点は一対一と……それに」
ジャックは避けると同時に男の首を捕まえた。
「締め技は受け流せない……だろう?」
「ぐ……が……」
「暴れるなよ、片腕で締めるのも大変なんだぜ」
男はしばらく必死にもがいていたが、しばらくして意識が途絶えた。
「ふぅ……全く、気付かなきゃお嬢を俺の手で殺すところだった……」
白波を覗き込みながらそう言い、ジャックは昨晩の自分を思い出し、自嘲的に笑った。
「俺は何を言ってるんだろうなぁ……腕にこんな怪我してまで……どうかしてるぜ」
ジャックは白波を担ぎ上げた。槍盾にはつとめて触れないようにした。
「しかし……こいつのこの狂気……歪みの力……もう時間が無いかも知れねぇな」
そして独り言を呟きながら再び王都への道を歩き始めた。
続く




