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借賊(あらすじを読んでください)  作者: 甲斐谷 郡児
第二章:真実を求めて
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第四十一話:兆候

「な、なんだこの音は!?祈りの時間はまだのはず……奴め、何を!?」

ゾルグは自室で凄まじい轟音を聞き、仰天した。

「奴の事だ、おめおめと口は割るまいが……失敗はまずいぞ……」

「失礼」

気がつけばゾルグの傍には黒服の男。

「うわっ……毎度いきなり現れおって……なんだ?」

「なに、少し……お別れの挨拶をしようかと」

「なんだと?」

「あなたは……いや、貴様はよく役目を果たしてくれた。もう用済みだ」

黒服の男は態度を豹変させた。

「ま、待て、まだ女王の暗殺に失敗したわけでは……」

「勘違いするな、女王を暗殺しようがしまいが俺には関係ない」

「な……なんだと?女王を暗殺しろと言ったのはそもそもお前で……」

「祈りの間に入るのが女王だけだからな。我ながら回りくどい」

「言っている意味がまるで分からんぞ!」

「そもそもあの忌々しい封印を解くのが俺の目的……間抜けな人間があの剣を抜いてくれさえすればよかった」

「どういう……ことだ?」

「……そうだな、どうせお前はもう死ぬ。教えてやる」

黒服の男は感慨にふけるように目を閉じた。

「そもそもあの祈りの間は何のためにあると思う?」

「それは……ただの下らぬ風習ではないのか」

「違うなぁ、あの部屋には我らが主が封印されているのだ」

「主……?」

「そう……厄介な封印だ……封印を解く、という意思を持った者には決して解けない」

「お、お前は一体……」

「そう焦るな……俺は考えた。誰かにやらせるにしてもただ単に剣を抜け、と命令したら抜けなくなるからな。

 そこで、唯一あの部屋に入る女王を利用することを思いついた。

 だがあの女王、中々に厄介な小娘だ……そう簡単には使えないだろう。

 そこで俺は貴様に取り入った、というわけだ……

 お前に女王の暗殺を頼めば、権力に目のくらんだ貴様は必ず従うだろうと」

ゾルグはもはや顔面蒼白になっていた。

「人間ごときの下に出るのは……なかなかに苛立つものだ。何度殺してやろうと思ったことか。だが俺は耐えた。

 貴様が中々女王暗殺に踏み切らないのには実に頭を抱えたよ……

 だが、最終的にこうも上手く剣を抜いてくれるとはな。封印が血で穢れて弱まるくらいを期待していたが」

黒服の男は天井を見上げるような動きをした。

「俺の目的は果たされた。これで……もう貴様を殺してもいいって訳だ!」

黒服の男の右手が一瞬ぼやけ、いつのまにか赤黒い物を握っていた。

「ま、待て、……あ……え……?」

命乞いをしようとしたゾルグは胸に違和感を覚え、下を見た……そして、気付いてしまった。

「ふむ、すこし脂肪の多い心臓だな」

「あ……う……」

声にならない断末魔を上げ、ゾルグは倒れた。

「さて、我が主をお迎えに行くか……」

手に持った心臓を握りつぶしながら、黒服の男は呟いた。


「う……」

やっと目の前の白が薄まり、耳がやや聞こえるようになってきた鉄男。

「なんだったんだ……?今のは……」

「何事ですか!」

息を荒げて部屋に飛び込んできたのは、女王であった。

「なんてこと……」

そして、部屋の有様を見て愕然とした。

「まさか……そんな……」

床に落ちた折れた剣を拾い上げ、へたり込んだ。

鉄男は辺りを素早く見回した。暗殺者が……いない!

「あぶな……」

駆け寄ろうとした鉄男の頬を傷が掠める!

「!」

いや……いないのではない!『消えて』いるのだ!最初の時のように!

「何も……見えない……聞こえない……フフフ……アハハハハ……」

虚空から声!暗殺者の物だ!

「こいつ!さっきので耳をやられたのか!?」

「ふふふ……何もかも消えた……俺の勝ちだ……俺が滅ぼした……アハは……」

轟音のショックでおかしくなっている!危険な状態だ!

「ふふ……!?なんだ?見える……何か見えるぞ……あっちか……」

声はふらふらと崩壊した壁の方へと向かった。

そして……

「……なんだあいつ……外に……?でもここは塔の頂上……」

鉄男は下を見下ろした。ぞっとしない高さだ。

「死んだ、のか?」

鉄男、そしてやや遅れてショックから醒めたリディア、グラントの三人はしばらく呆然としていた。

最初に気を取り戻したのは女王だ。

「あなたたち……ここであったことを詳しく聞かせて下さい……これは……由々しき事態です」

悲壮な声でそう言った。


「私の……暗殺……ですか」

女王は三人から話を聞いていた……牢屋の外から。

あの後、衛兵がなだれ込んできて三人を再び牢屋に入れたのだ。

「首謀者は……予想はついていますが、まさか……そこまで……」

女王は酷く狼狽した。無理も無いことだ。

「……あの」

グラントがおずおずと声をかける。

「あの部屋にあった古代文字と剣は……一体なんなんでしょうか」

「あれは……あなたたちに教える事はできません」

「何故です!」

「王家の秘密です、控えなさい」

「そんな……僕達はあれに巻き込まれたんですよ!?知る権利は……」

「お黙りなさい、あなたたちが暗殺者の一味で無いという証拠は無いのですよ?」

女王は毅然と言い放つ。

「あの部屋に入った時点で重罪です。たとえ、どんな理由があろうとです。そこで反省しなさい」

女王は踵を返して行ってしまった。


「また逆戻りか……しかも状況は更に悪くなったな」

鉄男は絶望した様子で言う。

「このまま死刑になっちゃうのかしら……」

「なんて理不尽な……歴史的な謎の一端が見えたというのに……」

三人は沈黙した。同じ脱獄方法は二度とは通じないだろう。

なんとかして女王に分かってもらうというのも不可能に近い。

「白波……どうしてるかな……」

鉄男が呟いた。



「やあ、おはよう」

宿屋から出てきた白波は、ジャックと出会った。

「もう昼過ぎだぜ」

ジャックは呆れたように言った。

「もう傷は大丈夫なの?」

「大丈夫なわけないが、まあ大丈夫だろう」

「どっちさ……」

白波は肩を竦めた。

「お前、これからどうするんだ?」

ジャックが尋ねる。

「これから……この大陸の王都に向かう。ちょっと用があってね」

「そうか……なら俺も行く」

「え?」

「俺もちょいと用があるんだ」

「……」

白波はジャックの目を見つめた。

「なんだよ?」

「いや、別に」

「……正直、そんな恐ろしい斧を野放しにしたくないからな。今は何も起きないようだが」

ジャックは横を向きながら言った。

「……」

白波は自分の背負った斧をちらと見やる。

「それとも、俺がついていくと何か都合が悪いか?」

ジャックは頭を掻きながら尋ねる。

「いや……そんなことはない……けど」

白波はやや悩む。この男には何か底知れぬ物を感じる。それは信用してよいものなのか……

「まあいいや、なんだかんだ言って心強いし」

「なんだかんだとはなんだよ」

「これからよろしくね」

「……おう」

(鉄男……リディア……無事でいるかな……?)

白波ははやる気持ちで王都への旅路についた。


かたや、西の都を包む暗雲と謎の封印。

かたや、魂を蝕む呪われし槍斧。

二手に分かれてしまった一行は、それぞれ違った闇を目の当たりにした。

だがそれはこの世界を取り巻く濃霧のたった一部でしか無いのだ。

抗い続けろ。それが特異な運命を背負った者の定めなのだから。


第二章 完


第三章に続く

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