第四十話:解放
「おい!お前ら!止まれ!」
……城の衛兵に早速見咎められる。
「は、はい!」
鉄男は大人しく従う。無理に逃げれば却って危険だ。
「……見ない顔だな……もしや」
早速強行突破か……?三人は身構えた。
「ゾルグ様の雇った傭兵か?」
「え?あ、ああ。そうだ」
鉄男は咄嗟に話を合わせる。
「ということは『その時』が来たんだな。クク……俺ももうすぐ大臣になれるってワケだ」
「『その時』……?」
「決まってるだろ、女王の暗殺だよ。あの生意気な小娘を玉座から叩き落すのさ」
「あ、ああ。その話か」
「噂では囚人野郎はその役を断ったらしいぜ……お前たちはその代わりなんだろ?」
「そ、そのとおりだ。よく知ってるな」
「まあな!俺はゾルグ様一の忠臣……すなわち未来のNo.2となる男だからな!」
衛兵は鼻高々に言い放った。
「さあ!無駄話は終わりだ!とっとと準備をしてこい!今日を逃せばチャンスは無いぜ!」
「なんでだ?」
「……お前、聞いてないのか?今日は月に一度の祈りの日で、女王が護衛抜きでいるからだよ!」
「へ、へえ、そうなのか」
「そうなのかってお前……なんか頼り無いやつだな」
「面目無い」
「まあいいさ。とっとと行けよ。早くしないと女王が来て祈りの間の扉が閉じちまうぜ」
「おう」
衛兵は去っていった。
「どうやら女王は今日祈りの間とやらで祈りを捧げる日で、暗殺人はそこにあらかじめ潜む手はずらしいな」
「らしいな、じゃないわよ!あっさりと見つかっちゃって!今みたいなアホじゃなかったら牢屋に逆戻りよ!?」
「ま、まあまあ。結果的にいい情報が得られたじゃないですか」
「ただ……祈りの間ってどこだろうな」
「……それを探すしか無いわね、今度は見つからないように」
三人は再び行動を開始した。
「……というわけで、だ。お前には祈りの間に潜んでもらう」
「なるほど……暗殺にはうってつけの場というわけか」
ゾルグの部屋では、ゾルグと暗殺者の話し合いが行われていた。
「だが、俺なら別に護衛がついていても簡単に殺せるぞ」
紺色の服の暗殺者は自信ありげに言う。
「いや、あの部屋で殺さねばならん……しかも、伝えたとおりの方法でだ」
「何故だ?」
「お前が知る必要は無い」
「……お偉方の考える事は分からん」
暗殺者は肩をすくめた。
「まあ、行って来る」
そう言うと暗殺者の姿は足元から徐々に消えていった。
「ぞっとせん奴め。これでは我輩の命が狙われても気付かんな」
扉が開き、再度閉じてからゾルグは息を吐いた。
「ここが……祈りの間、か?」
しばらく後、鉄男達は神秘的な青い扉の前に立っていた。
「そうみたいですね」
グラントは扉に刻まれた西の大陸の古代文字を読む。
「これは魔法文字と呼ばれる物で、『聖なる祈り』という意味です」
「やっぱり、見覚えあるんだよなぁ……これ」
鉄男が呟く。
「え?でも鉄男さんは東の大陸出身なんですよね?西の大陸の人でも見た事無い人の方が多いですよ?」
「うーん……どこで見たのかなぁ……」
「それにしても、聖なる部屋のはずなのに見張りがいないのは変ですね……」
「普段は誰も入らないから必要無いのかもしれない」
そんな事を話しながら、三人は重い扉を開けた。
部屋に窓は無く、壁と床はくまなく黒に塗られ、白い文字が書かれていた。
そして、中央よりやや奥には剣が突きたてられている。
「ここが……祈りの間か」
やや息詰まるような感覚を覚え、鉄男が呟く。
「まだ誰も隠れてないみたいね」
リディアは部屋を見回した。
「これは……!!」
グラントが壁に書かれた文字を見て目を輝かせた。
「これも魔法文字ですよ!ここまで鮮明に残された物は珍しい……これは解読の必要がありますよ!」
「ほぉ、そんなにたいそうなモノなのか」
「はい!それはもう……えっ!?」
不意に掛けられた声は……鉄男の物でもリディアの物でも無い!
振り返るが二人とも怪訝な顔をしてこちらを見ている。
「お前達は何者だ?こんなところで何をしている?」
空中から声!
「どうみても女王では無いな……」
声がするあたりの空間が歪み、徐々に人型が現れる!
「俺のポリシー。仕事の前に余計な殺しはしない。……今なら見逃してやる」
現れた紺色の服の男は超然と言い放った。
「仕事っていうのは……女王の暗殺、か?」
鉄男が尋ねる。
「答える必要は無い……去るのか?死ぬか?お前達は選べばいい」
「残念だが、俺達は女王を救うためにここにいる」
「……なぜだ?」
「何故って……」
「お前達に女王の何が分かる?俺には分からんが……殺されるのにはそれなりの理由がある。経験測だが」
「だからって……見殺しにしろっていうのか?」
「……ではどうする?俺を殺すか?」
「……それは……」
「俺だってだれかの命を救うために殺しをするのかもしれない……お前にそれを裁く権利は無い」
「でも!」
「殺さずに俺を止めようなんてことは考えるなよ、死なない限り確実に殺す……俺のポリシーだ」
「じゃあそのポリシーを曲げてもらうしかないわね」
いつの間にかリディアが暗殺者に急接近!その目を覗き込む……が!
「えっ!?」
「なんだ、俺の顔がそんなに珍しいか」
フードの奥の顔には目が……ない!いや、それどころか!口以外の顔のパーツは無い!
「仕事柄、顔を隠したがる依頼人が多くてな……こっちから目を潰せば信用してもらえるだろ」
暗殺者は口をゆがめて笑う。
「鼻は邪魔だから取った。血生臭くて敵わないんでな、穴も塞いだんだ」
リディアは息を呑んだ。……狂っている!
「口は一応商売道具の一つだからな、これだけは残してあるんだ……あと耳もだ」
鉄男も身じろぎした。
「そこの……男、身長は……175センチ3ミリ。少し動いたな。目が無くたって見える」
「なん……だと……!?」
「目が無いから隙だらけだとか、間抜けな事を考えるなよ、俺は耳で見る」
しばらくの静寂。誰も動かない……いや、動けない。少しでも動けば、この得体の知れない男に殺される。
「さあ、去るのか?それとも殺されるか?俺はどっちでもいい」
鉄男は考える。
この男……フードで隠れてはいるが相当の痩躯。力比べに持ち込めば……勝てるか。
「勝てるかも、と考えているな」
不意に至近距離から声!
「なっ……!?」
鉄男の目の前には不気味な顔!
「微妙な表情筋の動きで考えてることだって分かる……試してみるか?」
暗殺者は拳を構えた。
鉄男はなるべく表情に出ないよう考える。
無理だ。この動いたことに気付かないほどの早さでは……勝てない。
「悟ったか」
……読まれている!
「なら去れ……そろそろ仕事の時間だ」
「くっ……」
「……!?待てッ!一人……足りんぞ!」
暗殺者は急に声を荒げた。
「呼吸音が二つしかない!あと一人はどこだ!この俺に気付かれず動くなど不可能だ!」
鉄男は辺りを見回し、その元凶を見つけた。
リディアが半透明状態でゆっくり動いている。
リディアには実体が無い。触れることはできるが、それは魂の接触によるものである。ゆえに、本人の許可というものが重要となるのだ。
実体が無いので、当然ながら呼吸の必要は無く、筋肉の収縮音も無い。
つまりは、声を出さなければ暗殺者からは『消えた』ことになる。
リディアは暗殺者の背後に移動し終えた。
そして光弾を溜め始めた!
「後ろかぁッ!」
その音に暗殺者が反応した時には……もう遅い。
「えいっ!」
振り返りざまに顔面に光弾を食らい、暗殺者は吹っ飛んだ。
だが……まだ立ち上がろうとしている!
鉄男は反射的に動き、追い討ちをかける!
「調子に……乗るな!」
だが暗殺者の立ち直りが早い!
「ぐぇ……」
恐ろしい正拳を食らって鉄男は吹っ飛ぶ!
「鉄男ッ!」
「……フン、死なない、か……やはり武器無しではな……」
暗殺者はゆっくりと床に突き刺さる剣の方向へと歩いた。
「これでトドメをさしてやろう」
そして剣を抜こうとする……その時!
「油断したなッ!」
「えっ……」
またも背後で攻撃準備をしていたリディアに、今度は先に攻撃をしかける!
「不自然な空気の淀み……集中していれば読めない物でもない!」
光弾を溜めている状態のリディアは無防備だ!暗殺者の蹴りを食らって吹き飛ぶ!
「そん……な……」
「うおおおおおおお!!!」
暗殺者は雄叫びと共に剣を引き抜いた……!
その時!
「な、なんだこれはッ!?」
グラントがうろたえた。
壁の白文字が……蠢きだした!
文字は形を崩して繋がり一つの輪となり、そして抜き放たれた剣へと収束していく!
轟音!突如として鳴り響いた轟音と共に、天に掲げられた剣は光を放ち……天井を吹き飛ばし巨大な光の柱を作った……!
続く




