第三十三話:禁忌
「なるほど……」
一通りをリディアから聞いたグラントは信じ難いといった顔をした。
「では所長を探すために旅をしてるんですね」
「そうよ」
「しかし幽霊ですか……おかしいな……」
「なんで?」
リディアが怪訝といった様子で聞き返す。
「いえ、研究所で幽霊について調査したことがあるんですが、本来幽霊というものは生前の姿を保てないものなんです」
「魔法研究所なのに幽霊について調べるの?」
「ええ、幽霊とはつまり魂の残滓、そして魂と魔法とは密接な関係にあると言われているんですよ」
グラントは熱が入ったように話を続ける。
「そもそも魔法とは自然の力を借り、増幅させる物なのです。自然は地、水、火、風、それに光、闇の六つの要素により構成され、それらの要素を繋ぎとめ、命とするのが魂です。ゆえに魂を深く自然と同調させることにより、未だ命として形を成さず漂う要素を引き寄せ、増幅させることが可能となります。あ、ちなみに我々人間の命を構成している要素は地、水、火、風のみで、光を要素として持つものは有翼族、闇を要素として持つものは魔族と呼ばれるのは各地に残る伝説の通りですが、ゆえに……おっと、これは話が逸れましたね、先程も言った通り、幽霊とは魂の残滓、正しく言えば要素を繋ぎとめる力を失った魂であり、命のあった頃の姿を留めることは不可能であるはずなのです」
「……?悪いが俺にはさっぱり……」
急に饒舌に話し始めたグラントに、鉄男は目を白黒させた。
「じゃあ……私にはその『繋ぎとめる力』が残ってる……ってことかしら?」
リディアが問う。
「ええ、生前の姿を保つにはそれしか……ですがそれでは命を落とすはずが無いのですが……つまり一度要素を手放した魂が再び要素を繋ぎとめる力を……?しかしそんな事が可能なのか……それが可能であればまさに永遠の……!? 永遠の命!?それでは所長は……!!いやしかし!そんなことは!実の娘に……」
何かに気付いたグラントが激しく動揺しはじめた。
「ど、どうしたのグラントさん!」
「い、いえ、なんでも無いです」
「そうは見えないわね」
「気にしないで下さい、私のくだらない妄想なので……」
「……お父さまに関わる事なんでしょう?」
「……」
「お願い、教えてよ、お父さまに関わる情報が少しでも必要なの」
リディアはグラントの目を見て言った。
「うぐっ……!?なん……ですか……これ……体が……?」
「教えてよ、ねぇ」
その目は赤く輝いていた。
「おいリディア、あまり無茶を……」
「鉄男は黙って」
リディアは振り返りもせず言い放つ。
「わ、分かりました、分かりましたから……!この金縛りを解いてください……」
「……」
リディアは黙って能力を解いた。
「ふぅ、なんなんですか一体……」
「……ごめんなさい、でも私は知りたいの」
「……所長が研究所に来なくなった前の日の事です……」
グラントは語り始めた。
『暫く……ここには来ない』
うつむいてグラントにそう告げるのは、大柄な男……リディアの父、ザロイである。
『どうしてですか?体の調子でも悪いのですか』
グラントは訝るように聞く。
『……お前は信用に足る男だから話そう……だが、決して他に話してはならん』
『な、なんですか、そんな切羽詰ったような……』
『それだけ重要なことだ……』
ザロイは辺りを見回した。
『私は……禁忌を発見してしまった。これは……世に伝えてはならんのだ』
『……一体何を……?』
『永遠の命……とでもいうべきか』
『!? そんな魔法が……?』
『正しくは魔法では無いが……いや、説明はよそう』
『……所長は、永遠の命が欲しいのですか?』
『いや、そんな物はいらない……だが、いわば研究者の性というものだ……分かってくれるな』
『……いや、しかし……それは危険すぎるのでは?あまりにも……人を越えている』
『……それも承知だ……だが、私はやらねばならない……私の中の存在が私に囁くのだ』
ザロイは半ばうわ言のように言っている。
『所長……少し、お休みになったらどうですか?きっと疲れているのですよ……』
『……そうだな……この声も最近になって聞こえるようになってきた……少し、休ませてもらうよ……』
『ええ、娘さん達ともしばらく会っていないのでしょう?たまにはゆっくりして下さいよ』
『グラント』
『はい?』
『この研究所を……頼んだぞ』
「その次の日から……所長は来なくなり……そして突然行方不明になったのです……」
グラントは話し終えた。
「つまり……どういう事なんだ?」
鉄男が訳の分からないといった様子で尋ねる。
「それの結果が……この体……ってこと?」
「ええ、きっと……永遠の命……それは死後の魂を変質させ、『繋ぎとめる力』を復活させる方法なのでは」
「そんな……でも、なんで私に……」
「わかりません……ですが、魂の変質を所長が自分でも試したとすれば……闇の要素を繋ぎとめるように変質させてしまい、魔族と化した……これで筋は通ります」
「ああもう、全然分からないわ……お父さま……」
リディアは頭を抱えてしまった。
「……」
グラントも悲痛な面持ちで黙り込んだ。
しばらく後。
「お前たちか?東から来た人殺しは」
牢の外から声をかけたのは……
「お前たち、ここを出たいだろう?取引しようではないか……」
続く




