第三十二話:遭遇と捜索
ここは西の大陸の王城……
「此度の囚人の事ですが……マズイ事になりましたぞ」
「マズイ事?」
ある一室にて、身分の高そうな服装をした男と、黒い服の男が話している。
「大陸間船で人殺しとの事ですが……その殺された女というのが……少々厄介で」
「厄介……何故だ?」
「……これをご覧下さい」
「これは……!? 東の大陸の王家の使者の証では無いか!?」
「そう……女が身に着けておりました……」
使者を殺す……その行為の意味は一つ。宣戦布告である。
「……使者を殺してしまったとなれば……いや、だが」
身分の高そうな男は髭を撫でながら考えるふうを見せた。
「これは丁度いい機会ではないか?いずれは……我が国の属国となるべき国だ」
「しかし……それでは一方的な侵略ですぞ、古王の誓いをお忘れですか」
「よく考えろ……東の大陸から来た船の上で殺人が起きたのだぞ?犯人も向こうの者ではないか」
「それは……確かに」
「だろう?ゆえに……? いやまて」
男は急に話すのをやめた。そして……
「ここにいたのですね、ゾルグ」
扉を開けて入ってきたのは、高貴な身なりの女性である。
「これは女王陛下、何か御用で」
「何か御用で、ではありません」
まだ若い女王だが、その低く落ち着いた声によって年にそぐわない威厳がある。
「東の国の使者が殺された、というのに御用が無いとでも思って?」
「えっ……な、何故それを」
ゾルグと呼ばれた男は面食らったような表情をした。
「……ゾルグ……また私を置いて勝手に話を進めようとしていたのでしょう」
「い、いえ、決してそんなことは」
「いいですか、私はもう子供じゃないのです。もうあなたが一人でやる必要は無いのです」
「はぁ……」
「とにかく、この件は私が東の国王と話し合うべき事です、あなたは控えなさい」
「しかし」
「……」
「か、かしこまりました……」
女王は話し終え、決然と踵を返し、部屋を出て行った。
「……チッ、生意気な小娘が……おい!」
「はっ」
どこに隠れていたのか、先ほどまで姿の見えなかった黒服の男が再び現れた。
「予定が変わった」
「では、女王に任せるので」
「いや、我輩にいい考えがあるのだ……」
ゾルグは声をひそめる。
「女王を……殺す」
それを聞いた黒服は、静かに微笑んだ。
その地下では。
「そういえばお前、幽霊なんだよな?」
牢獄内で鉄男がリディアに話しかける。
「そういえばって何よ……それがどうかしたの?」
「だったらさ、壁抜けとか……できないのか?」
「できるわよ」
「だったらここから抜け出して鍵を持ってくるとか……できないか?」
「やろうと思ったんだけどね……ここの壁だと」
リディアは壁に向かって歩き、そして……壁に額をぶつけた。
「うぅ、やっぱり無理みたいね……痛い……」
「なんで無理なんだ?材質の問題か?」
「分からないけど……なんとなくそういう物理的な原因じゃない気がするわ、なんとなくだけど」
「なんだそりゃ……」
鉄男は頭を掻いた。
「まあとりあえず、早くここを抜け出さないとな……」
「あの……さっきから抜け出すとかしきりに言ってますけど……」
二人と同じ牢に入っていた囚人が、鉄男に声をかける。
「あなたたちはここを抜け出したいんですか?」
「あー……気にしないでくれ」
鉄男は周りの囚人も巻き込むわけにはいかないと思い、そう答えた。
「ありますよ、脱出方法……」
「何だって?」
「脱出方法がある、と言ったんですよ。一人じゃあ心もと無いけど、三人もいれば……えっ!?」
リディアの方を見たその男は驚いた様子をした。
「あ、あの……もしや……リディア、さん……では……?」
「えっ?えーと……」
「やっぱりリディアさんですよね!?僕です、グラントですよ、覚えてますか!」
「えっと……もしかしてお父さまの研究所の人?」
「そうです!王立魔法研究所副所長のグラントです!生きてたんですね、リディアさん!」
「生きてるというか生きてないというか……」
「大変だったんですよ、所長がいなくなって……しかも家ごと!何があったんです?」
「それは……私にもわからないわ」
「……どういうことです?」
「いろいろあって……話すと長くなるんだけど」
リディアはグラントと名乗ったその男にこれまでの事を話しはじめた。
「何か変わった事?そうだな……」
一方の白波は、船員達が体を鍛える訓練所で聞き込みをしていた。
船が出ていない時の船員達は、昼間はいつもここに来て体を鍛えている。
「うーん、あっ、そういえば」
棒の両端に水のはいった樽を吊り下げた物を肩に担いで重量挙げをしながら、船員は何か思い出したような顔をした。
「何かありましたか?」
「ああ、あれは……ふー、しかしあっついな、今日はバカに暑いぜ……」
暑がりながらも、船員は重量挙げをやめない。
「えーと、そうそう、変わった事だな?あんた、今回の航海で客として乗ってたよな?」
「はい、その時に少し気になったことがあって……」
「ああ、あの殺人事件のことか?嫌な事件だったな……ああ暑い」
船員の顔はもはや真っ赤になっている。
「あの、すこし休憩したら……」
「いいや、いつもはこの倍はやらないと休憩はしねぇからな……で、その事件のあった日のことだ」
「はい」
「死体を発見したやつがしきりに不思議がってたよ、凶器だろう槍は見つかったのに死体に傷が見当たらない、って」
「……?それは……不思議ですね……」
「で、本当に変なのがその次の日から……で……ふぅ、暑いぜ……なんかさっきより暑くないか?ここ……」
「はい……えっ!!?」
次の瞬間、白波は我が目を疑った。
船員の体が、燃え上がった!
「暑い……暑いぜ……どうなって……ん……だ…!?なんだこれッ!?俺の体が……燃え……ぐあああああ!!?」
船員もしばらくして自らの異変に気付き……その直後、大炎上を起こした!
「なっ、なにがッ!?」
白波は呆然とした。
「たすけ、て、くれ……」
もはや火達磨となった船員が白波へと手を伸ばす……が、その手は燃え尽き、短くなっていく……!
「ああ、あああああああ!!!?あ……」
船員は苦痛の呻きを上げていたが……次第にそれすらも叶わなくなった。顔が燃え尽きたのだ。
「えっ、あっ、なんで……?」
上半身がすべて燃え尽きた残骸を前に、もはやまともな言葉すら出ない白波。
「おおおああああ……!!」
「いやだ!死にたくない……!」
気がつけば周りからも呻き声が。
「えっ……なに…これ……?」
今や訓練所は火の海と化していた。次々に燃え上がる船員達……まさに地獄絵図の様相である。
「そうだ……逃げないと……」
呆然とするあまり棒立ちになっていた自分に気付き、急いで逃げ道を探す白波。
だが無情にも炎は全ての逃げ道を断っている!
「くっ、どうすれば……」
白波の視界は徐々に暗く染まっていった……
続く




