第十六話:探索
次に鉄男が目を覚ましたのはそれから五分ほどの後である。
視界に映る白骨死体をなるべく見ないようにして、鉄男はその部屋を出た。
白波を探さなければ。
鉄男は入って左の部屋へ向かった。
「ここは…厨房か?」
かなり広いその部屋には、古びた調理台が横たわっていた。
調味料がきちんと整理され並んでいる。もっとも、およそ使えそうなものは無かったが。
「荒らされたようすは無いな…危険な動物がいる、ってわけじゃないみたいだな…」
となれば、やはり…?
いや、そんなはずは無い。無いのだ。鉄男は頭に浮かぶ考えを否定し、頭を振る。
「ゆ、幽霊なんて、いるわけ…」
そう自分に言い聞かせ、不思議なランプをかざし、探索を開始する。
調理台の収納部を開ける。綺麗に研がれた包丁の刃がズラリと並んでいる。
それを見て鉄男は唸る。
かなり丁寧に使い込まれているのが見て取れる。きっとすばらしい料理人が使っていたのだろう。
と、不意に、そのうちの一本が飛び出した!
「うおっ!?」
とっさに仰け反ってかわす鉄男。
「な、な、なんだこれ!?」
鉄男は怯えながらも、身を守るため剣を構える!
しかし、包丁は鉄男の方に向かう様子は見せず、調理台の上で静止している。
「一体どうなって…ルッ!?」
突然、背中に衝撃が走り、鉄男は膝を突く。
その頭の上を飛び越えていったのは、まな板である。
そのまな板も、調理台の上で静止。
「ってて…なんだってんdグッ!?」
しばらく痛みに動けない鉄男の足元の床が跳ね上がった!
その下は床下収納となっており、そこからも何かが…飛び出しては来なかった。
しばらくすると床は元に戻り、包丁は何も無いまな板の上でくるくる回り始めた。
「あぁクソ!踏んだり蹴ったりだぜ全く!なんなんだこの屋敷は!?」
不気味な調理道具たちは敵意を見せる様子も無いので、鉄男は落ち着きを取り戻した。
「無人で料理をしている…?一体どんな仕組みなんだ…?」
『また野菜がねぇなぁ、料理が作れないじゃないか…』
不意に超自然的な声が響く。
「!?」
まさか本当に幽霊が?ここで働いていた料理人の成れの果てなのだろうか?
そういう考えに至り、鉄男は再び恐ろしくなった。
『まあいい、肉…も無かったか…ん?なんだ、ちょうどいい肉が、あるじゃねぇか…』
「ハハ、ははは、べ、便利な道具だなぁ、ははは…」
鉄男は自分に言い聞かせるように訳の分からぬことを言い、そして一目散にその部屋から逃げ出した。
一刻も早くこの屋敷から逃げ出したい。そう思う鉄男だが、白波を置いて行くわけにはいかない。
「そうだ、これがあるじゃないか!」
そういって鉄男が取り出したのは、村長宅に眠っていた一対の腕輪の片割れ。
「これを腕に着ければ…!」
……何も起こらない。
「何でだ!?おかしいだろ!?こんな…こんなのって…!」
恐怖に冷静さを欠いた鉄男が吼える。
その時、外で雷鳴が轟いた!
「!?うわあああああああ!!!?!?」
恐慌状態に落ちいった鉄男は、音と反対方向…屋敷の奥、階上へとまろぶように駆け上がった。
「ハァ、ハァ…うぅ、なんだってんだよ…ほんとに…」
鉄男は半分泣きそうになりながら辺りを見回す。
やたらに走り回ったせいで出口すら分からなくなった。
手に持つランプの明かりも消えかけている。
目に映るものすべてが恐ろしい。
鉄男は座り込んだ。
なんでこんな所に来てしまったんだ…?
そう、あいつ、白波が…こんな怪しい頼みを引き受けなければ…
いや、勝手についてきたのは俺…?なんでついて行こうと思ったんだっけ?
そもそも白波自体も怪しいってのに…
あんなちんちくりんなくせに、記憶喪失で一人で旅してて、それに馬鹿みたいにお人よし、と来た…
だから、俺はそんなあいつが心配で…?
そうだ。
あいつも、心細いに決まってるもんな…
勝手についてきた俺が、こんなところで震えててどうするんだ?
立ち上がらなきゃ…白波を…探し出すんだ!
鉄男は立ち上がった。その目は、先ほどまでの怯えた目では無い。
決然たる、光を秘めた目だった。
「待ってろよ白波…!すぐに行く!」
鉄男は再び輝き始めたランプの明かりを頼りに、走り出した。
続く




