第十五話:屋敷
「近くでみるとより不気味…だな」
聳え立つ黒い屋敷を前にして鉄男が呟く。
ここ数年は放置されていたかのような様相である。
だが、建物が朽ち果てるほどの年月は経っていない。5、6年といったところか。
「様子を見てくるって言っても…具体的に何をすればいいんだろ」
首をかしげる白波。
「さあな、何か危険な動物でも住みついてるのかもな」
「そうかもね……それとも、お化け…とか?」
不意に声の調子を落とす白波。
「お、おいやめろよ…」
「冗談だよ、とりあえず辺りを一周してみようか」
その時。いきなり激しい雨が降り始めた。
「ん、降ってきたね…」
「そうだな……」
「とりあえず屋敷に入ろうか、寂れてるようだけど雨露はしのげるはず」
「えっ…それはちょっと…」
尻込みする鉄男。
「?入らないのかい?」
「い、いや、そういうわけにもいかないがしかし、しかしだな」
「???」
白波の頭には疑問符が浮かぶ。
「ほら、さっき言った通り…」
「あ、なるほど、お化けが怖いんだ」
「そう、危険な動物が……っておい!」
白波はクスクス笑った。
「違うの?」
「ち、違うに決まってるだろ!そんな、お化けなんて俺は…」
「へぇ、じゃあその肩に置かれてる白い手は何かな?」
「!!?!?!」
異様に焦って振り向く鉄男。
「冗談だよ、お化けなんているわけ無いでしょ、さあ行くよ」
そういってさっさと屋敷の中に入っていく白波。
「あっ、この…待てよ!」
鉄男も急いで後を追い、少しためらってから屋敷に足を踏み入れた。
「うへぇ、こりゃまた…酷いな」
足を踏み入れた白波と鉄男を迎えたのは、埃の積もった広いエントランスだった。
「しばらく誰も足を踏み入れてないみたいだね」
状況を観察しつつ、白波が言う。
「さて、どうすんだ?」
「とりあえず、隅々まで調べてみようか」
「お、おう…」
「大丈夫だよ、お化けなんていないから」
「だから、俺はそんな…」
ガタッ
「ひッ!?」
いきなり衝撃音がして、鉄男は跳び上がった。
白波も少し驚いた顔をしたが、すぐに笑い出した。
「なんだ、ただ鎧が倒れただけじゃないか」
「なななななんだよ、おどかすなよ全く!」
よくみれば、飾られた鎧の中にはすでに倒れている物もいくつかあった。それが今偶然増えただけだろう。
「ねぇ、やっぱり君怖がって…」
「無い!断じてそんな事は!」
「そう?ならいいけど」
扉は左右に二つ、正面には大階段がある。
大階段の踊り場には巨大な額縁があったが、飾られていたであろう絵はボロボロになっていた。
とりあえず二人は右の大部屋に行ってみる事にした。
「ここは…子供部屋、かな?」
白波がそう考える通り、その部屋には古びた縫いぐるみなどが散らばっていた。
中心には天蓋付きのベッド。
「こう、なんというか…平和な雰囲気なのが逆に薄気味悪いぜ」
鉄男は怯えたようすで辺りを窺っている。
「ふむ…」
白波は何か無いかと辺りを見回す。だが、外では雨が降っているので、いかんせん視界が悪い。
「ちょっと借りるよ」
そう白波は呟いた。白波のポケットの中で何かがもぞりと動いた。
「なんか言ったか?」
鉄男が聞きとがめる。
「いや、別に」
白波は適当に答えつつ、強化された暗視能力で辺りを見回そうとした。
その時。
『また来たのね…今度こそ…逃がさないわよ…!』
「「!?」」
不意に聞きなれぬ声!二人は素早く辺りを見回すが、声の主は見えない!
その時!大きな熊の縫いぐるみがなんと不意に立ち上がった!
縫いぐるみゆえ声を発さず、無表情に、それでいて素早く襲い掛かる…白波に!
「なっ……!?」
白波はかわそうとしたが間に合わない!そのまま縫いぐるみは白波を抱え…
「はっ!?」
その数分後、鉄男は気絶から目が覚めた。
どうやら倒れたタンスの下敷きになっていたようだ。
「白波!?どこだ!?」
辺りを急いで探すが、白波は見当たらない。
「確か…熊の…縫いぐるみが…?」
鉄男はそんなことをうわごとのように呟いた。
熊の縫いぐるみが白波を連れて行った?そんなことあるわけないじゃないか…
記憶がはっきりしない。
そのまま部屋を探し続ける。タンスの中からランプを見つけた。
「なんだこりゃ…中に妙な透明な石が…?」
手に持った瞬間、その石はまばゆく光り始めた。
「へぇ、便利なもんだね…仕組みはさっぱりだが」
そのランプを持ち、更に部屋を探す。
いくらさがしても白波はいない。
あと人が入れそうな場所…ベッドがある。
そういえばベッドに人一人潜っているくらいの膨らみがある。きっと白波は寝ているのだろう。
そう考えてベッドの布団をめくった鉄男が目にした物は、白骨死体だった。
「なんだ、ただの白骨死体か、ハハハ、ハハ……」
鉄男は、再度気を失った。
続く




