第十一話:帰還
「困ったことになった……」
森の中を何やら引きずりながらうろうろしている旅人が一人。白波である。
帰ろうとして目印の木を探すも、一向に見当たらないのである。
「あの色の違う木もこの人の能力だったのかな…」
そういって引きずっている物―――気絶しているジャドを見やる。
「そろそろ日も暮れてきたし、早く森から出ないと」
その頃。
「村長!あいつまだ帰ってないんですか!?」
アジ村村長宅にて、苛立たしげに言うのは鉄男である。
「ぬぅ…確かに遅いな…よもや敗れてしまったわけでもあるまい」
村長も心配したような表情だ。
「だいたい村長が無責任に押し付けたりするから…!」
「そんな事を言ってくれるな鉄男よ…今はただ必ず帰ってくると信じるのだ」
「相手はあの盗賊野郎の本拠地なんですよ!?殺されてたっておかしくは…」
鉄男は浮かんだその不吉な考えを打ち消すように首を振った。
「くそッ!こうなったら俺も行く!村長!防具とか借りていきますよ!」
そういって鉄男は村長宅の倉庫に向かう。
「ちょ、ちょっと待たんか鉄男!」
村長の制止も聞かず、鉄男は飛び出して行った。
アジ村の歴史は長く、村長を務めるのも代々続いてきた家系である。
それゆえ、この倉庫にはかなり古い時代の物まで転がっている。
「何か役立つ物は…これなんか使えそうだな」
そういって鉄男が引っ張り出したのは、蒼い宝石の嵌った腕輪であった。
「他になんか……!?」
それを腕に嵌め、他の物を探そうとした途端、腕輪の宝石が突如光り始めた。
「うおっ…なんだこれ!?」
その輝きはだんだんと増していき、鉄男は耐えかねて目を瞑る。
「なんだったんだ一体…」
光が静まり、目を開けた鉄男の前にはなんと…
「あれ?ここは…?」
鎖に繋がれた大男を引きずった旅人…白波が現れたのだった。
時は少しさかのぼる。
森をさまよっていた白波は、見覚えのある場所へ出てきた。
「ここは…確か」
「オイ貴様!見ない顔……あっ!?貴様は!?」
木の上よりかかる雷鳴めいた声。木の上には…案の定、小柄な男!
「あれ、君…抜け出せたんだね」
白波は驚いたように言う。
「抜け出せたんだね、じゃねぇ!貴様のせいで俺がどれだけ苦労したことか…」
「そりゃ丸っきり逆恨みじゃないか…それより、どうやって抜け出したんだい?」
「うるせぇ!ゴチャゴチャ言うな!今度こそ貴様を倒す!」
そういって男は辺りのツタのうち一本を引っ張った。
「!!」
白波は足に痛みを覚えた。トラバサミだ!
「これで貴様がいかに素早くとも避けることはできまい!俺の勝ちだ!ハッハハハハハハハ!」
笑いながら木から飛び降りる小男!
「くっ、抜けない……」
もがく白波に対し、小男は鉤手甲を構える!
「死ねェ!!」
その時!白波の腕にはまった腕輪の赤い宝石が光を放つ!
「!?」
そして白波は忽然と消失!勢い余った小男は…
「何故こうなるんだあああああああ!」
またも口を開けたままの落とし穴へと呑まれていったのだった。
話は村長宅倉庫へと戻る。
「お前…いつのまにここに!?」
「わからないよ…私にも」
突然の出来事に混乱する白波と鉄男。
「さっきまで森で迷ってたんだ」
説明を始める白波。
「そしたら突然、この腕輪が…」
「光りだしたのか」
「そう、一体何が起こったのか…」
「俺もここでこの腕輪を見つけて…」
不意に、鉄男が白波の引きずる男に気がつく。
「おい、そいつはもしかして…」
「そう、なんとか…やっつけたよ」
「そうか…とりあえず、村長の家まで行こう」
倉庫を後にし、村長の家まで向かう二人であった。
「ふーむ、不思議な事もあったもんだなぁ」
事情を聞いた村長が感心したように言う。
「ほんとですよ、なんなんですかこの腕輪」
「わしにも分からん…そもそも赤い方の腕輪しか存在すら知らんかったわ」
「いい加減な管理だなぁ全く…」
鉄男は呆れたように言う。
「まあとりあえず、この腕輪は二つでセットであり、
別々の者がつけると一方の元に他方を呼び寄せる力がある、ということだろう」
「どういう仕組みなんですかね」
「わしにもさっぱりだ…」
「それより、この人はどうすれば?」
白波が未だ気絶しているジャドを示して尋ねる。
「そうだな、今夜はわしが預かるとしよう。それより疲れておるだろう、ゆっくり休んでくれ」
「分かりました、ではまた明日」
白波と鉄男は村長宅を後にした。
「しかしなあ」
帰り道、鉄男が声をかける。
「なんだい」
白波も返す。
「お前、ずいぶんと変な奴だよな…」
「なんだい急に、失礼な」
「あぁいや、そういう意味じゃあない…普通、ただ立ち寄った村のためだけにこんな面倒事は引き受けないだろ」
「……何でだろうね、自分でもよくわからない…」
「何だそりゃあ、気まぐれってことか?」
「いや、何というか、困ってる人を見ると助けなきゃいけない気がするんだ、何でだろうね」
「俺に聞くなよ…そうだな、お前の失った記憶と何か関係があるのかも…な」
それを聞いて白波は驚いたような顔をした。
「…その考えは無かったな」
「まあ、ただのお人よしってだけかも知れんが、な」
鉄男は笑いながら、そう言った。
続く




