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第一章 ある男

 何の変哲もない車が数多くすれ違うビルに挟まれた大通りに、ある恐ろしい事態が起こった。

 空中の方で急に蒼い粉末の様なものが大爆発したのだ。視界を失った車の多くは互いにぶつかり合い、トラックも衝突した。


 車から出た人は、その爆発した様子を見て、異様に感じた。

「……人?」

 見えたのは、二つの影が何度も瞬間的に交わり合っているだけである。更に何度か爆撃が起こり、遂にビルをも破壊した。


「おい! 一体何が起こっている!?」


 一般人の多くが混乱の最中であり、その爆発は身の危険を感じるほどに凄まじかった。

 なぜ蒼いのか。

 どの人民も、その粉末の様なものを見るのは生まれて初めてだろう。

「おい! アレ!」

 指差した先は、地上にあるアスファルトに直撃した爆発である。やがて蒼い粉末は消え、そこにいたのは1人の男だった。息を切らして下をうつむいていた。


 誰も近寄れず、結局男は姿を消し、爆発は止まったがその事態はパニックのまま幕を閉じてしまった。




 誰も忘れられない、あの大事故。


  第一章 あの男





 ――何が正義で、何が悪なのか。そんなの俺には分からない。社会に役立っている人間が正義ならば、俺はきっと悪者なんだろう。

昔からはみ出された身だからよく分かる。孤立ってのはこういう事をいうんだろうなとよく分かったよ高校の頃。

そして今もなお、社会からはみ出された存在だ。しかしそんな俺でも救いがあった。

わずかな救いが。


 黄金美町という街には多数の不良グループが存在し、ヨソの街ではその街を不良の巣窟とも呼ぶくらいである。

 この街の不良グループといえば、メイルバールというチームは誰しもが知っていて、かなり野蛮な連中が溜まるチンピラ集団である。基本的に繁華街でブラブラ歩き、金がなければ恐喝や強盗など、非行な行動をする。


 そして、この街で最も渋いと呼ばれる黒ずくめのギャング、GSF集団。彼らは一般人には危害を加えないが、全員が全員、雑魚呼ばわりされないほどの猛者の群れである。彼らは仕事をしているが、とても良いとは言えない職ばかりである。

 主に地下街やコンテナで溜まる。


 この街にはビジネスが雇う不良グループもいて、それはドラストという、白いパーカーを纏う群れである。彼らは元々普通のサラリーマンで、元々権力者の命令でわざとだらしのない格好で街を歩いている。


 バラードというジャージ族はロールバーという酒場で溜まっており、不良高校の生徒も中には混じっている。メイルバールやGSF集団の傘下である。


 そして黄金美連合というチームは、様々なチームから抜けた仲間外れの連中が全て集まった特殊な集団である。リーダーは愛澤という男と表向きには記されているが、実際は美木という危険人物がチームをまとめている。


 半年前にこの街に事情があってやってきたただ一つの暴走族、レトロミアは深夜の大道路を毎週グルグルとコールを鳴らしながら走り回り、喧嘩を売る事は少ないが売られたら必ず買うという主義である。


 この複数のチーム同士の抗争は時々あるが、基本的に毎日街をすれ違い、最近では時々チーム同士でのコンパを始めるくらい仲がよくなっている。

 しかし、この街で働くサラリーマンや、一般の高校生にとってはいい迷惑であることには変わりはない。




「おい慎! そうすねんなって!」

「んだよ、馴れ馴れしい。あのな、元々俺らはな、敵なんだよ敵! 分かってっか辺留!?」

「んな事気にすんなよ! 一応協定結んだ仲じゃねぇか?」

 メイルバールの総長、辺留晃べる あきらはGSF集団の与謝野慎よさの しんに合同コンパの失敗について励ましていた。

「たくよぉ、俺達も丸くなっちまったよなぁ。二十年ぐらい前まではド突き合った敵同士だったってのによぉ」

「いい歳こいてまだチームのアタマってのが情けねぇよ全く。だが俺は一応酒場のオーナーやってっからいいけど、お前はどうなんだよ?」

「俺か? 一応土方やってるぐれぇかな」

「そうか。はぁ……、あの子可愛かったのによぉ……」

「わざわざチンピラから助けるからだよ! 正義のヒーロー気取っても、所詮俺らはゴロツキだ」

「正義とかどうでもいいんだよ! 何で助けちゃいけねぇってんだ! 女も女だよ。俺への見る目がねぇ!」

「アホか。俺はまだしも、お前のその髪、鏡で一回見直してみろよ。あぁ怖い怖い。俺だって序盤は近寄る事もできなかったのによぉ!」


 慎の髪型は特殊で、茶髪のコーンロウで、半分はストレートのメッシュが入っている。片方はその髪で隠しており、普段はサングラスをかけている。格好は黒のレザージャケットで夏は黒いタンクトップを着ていて、ハタから見たら本当に怖いチンピラにしか見られない容姿である。しかも左の頬には二か所の切り傷がついていて、同じ不良でも彼に近寄る事は難しい。


 二人が繁華街をうろつく間、GSF集団やメイルバールの連中とすれ違うたんびに奴らは敬礼をする。辺留はにこやかに「おつかれー」と手を振るが、慎は堅苦しいのが嫌いなのか、あまり嬉しくない様子である。


 歩いている中、元メイルバールの1人だった黄金美連合の男を辺留が見かけ、声をかけた。

「よぉ、中村」

 中村という男は辺留の顔を見てもまた前を向いて歩いてしまった。

 それを辺留が愛想よく追い、彼の肩を掴むとその手を払った。

「しつけぇんだよ! もうアンタの舎弟でも何でもねぇ。テメェなんかどうせ街じゃ上のランクだからって調子乗ってるだろうけどなぁ、美木さんには勝てねぇんだよ所詮は!」

 あまりの態度に辺留は形相を変えた。

「何だよその態度は? お前俺の事舐めてんのかおい!?」

「殴るのか? 殴ってみろよコラ? テメェなんて今じゃこれっぽっちも怖かねぇんだよ! 美木さんが敵をとってくれるからよぉ? ほら殴れよ?」

 と、中村は自分の頬を辺留につきだして挑発した。


 辺留は逆にグッとこらえた。

「なぁ中村。もう一回、もう一回だけ俺のところ戻らねぇか? 確かにアイツらはお前の事納得してないと思う。けど、ちゃんと謝れば何とかなるはずだ。俺も一緒に謝るからよ」

「ふん、今更戻っても得なんかねぇんだよ。もう俺は連合のところの連中とはいい仲だしよ。もう一度言う、もうアンタらとは敵同士なんだよ。連合とメイルバールは協定結んでねぇだろ」

 そう言って、中村は去ってしまった。

 元々仲間だったはずなのに、こうなってしまって悲しんでいた辺留に、慎が励ました。

「そう凹むなよ辺留。アイツはそう決心したんだから、根気よく見送ってやればいいんだよ。敵同士っつっても、いわばライバルってとこじゃねぇかどうせ」

「………それでいいのかよ。本当残念だ」

「今日はキャバでも行って元気出せ。俺が良い奴指名させてやっからよ」

「すまねぇな、慎」


 そうして2人はキャバクラへ行き、二時間の間満喫していた。知らぬ間にか辺留はさきほどのストレスを全て発散し、忘れ切っていた。


 深夜二時、慎は少々、辺留はベロンベロンに泥酔いして路上をフラフラと歩いている時のことだ。

 後ろから男の声がした。


「おい」

「ん?」

 二人が後ろを振り向くと、そこにはまた、二人の男がいた。


「何だぁ? お前ら」

 そう慎が睨むと、茶髪のボサボサ頭の男が睨んでいる慎に睨み返した。

「さっき中村から聞いたぜぇ? テメェ余計な事したらしいじゃねぇか」

「俺はGSFの方だ。もしかして辺留の事か?」

「どっちでもいいわ。あくまで敵同士なんだよ。それ忘れんな? 黄金美連合は誰の味方にもつかねぇって約束なんだよ」

「そうかよ。ご忠告どうも。辺留、行くぞ」

 せっせと酔っている彼の肩を貸して前へ進もうとしていると、もう1人の金髪のメッシュが入った坊主頭の男が慎たちを襲った。

「テメェ美木さんが言ってること分かってんのかコラァ!」

 罵倒したのは、連合の表向きリーダー、愛澤だ。


 慎に跳び蹴りすると、彼は巧妙に避け、ボシングスタイルの構えをした。


「ココで喧嘩ってか。しかもアタマ同士でよ」

「関係ねぇ。酔ってる奴に負けるほど落ちぶれてねぇんだよこっちは!」

 愛澤はムエタイの構えをした。


 周りにいた飲み会の帰りのサラリーマンや中年の男達、そしてパートの女性は悲鳴を上げてその場から逃げ去り、野次馬もゾロゾロと集まった。


「警察来ても知らねぇぞ」

 慎がそう言うと、愛澤の後ろにいる美木がニヤリと口元のしわを釣り上げた。


「警察が怖くて逃げるほど、俺らは落ちてねぇんだよゴミ」

「生憎、こう見えても黄金美町のトップは取ってんだよ」

「それがどうした? 複数でかかればそれは関係なくなるってことだよ」

 そう言うと同時に、美木の仲間が五、六人、慎と辺留を囲み始めた。全員武器を持っていて、しかも辺留はとても戦える状態ではない。


 最悪だ。状況はかなり最悪なところまで追い詰められていた。


 しかし土下座なんてする訳にはいかず、どうにもならなかった。もちろん囲まれているゆえに逃げる事も不可能。辺留を放っておくわけにはいかない。

 もうダメだと思った慎だったが、連中の1人が急に倒れ始めた。


「何だ!?」


 連中の後ろからは、1人の男が大きめのビンを持ち、不気味かつ激昂を意味する表情をしていた。



「オメエら逃げんじゃねぇよ」


 髪色は真っ黒。特に目に残る箇所は何一つなく、服装もごく一般のシャツに黒のズボンである。あえて言えば、首元にシルバーのネックレスをしているだけである。


 顔も別に特徴的でも何でもない。もちろん不良っぽさはこれと言ってないのだ。


「コイツしつけぇ! 何で自分の女に手出したからってここまですんだよ!?」

「うるせえ。それと俺の女じゃねぇよ。保護者代理人だよ」

「黙れよ! お前一人で俺ら片付けれるとでも思ってんのか!? 美木さんがいるんだぞ美木さんが!」

「あ? 美木?」

 その男と美木が目が合い、なぜか美木はオドオドとした態度になり、逃げようとしていた。

 すると男は彼の後頭部に持っていたビンを勢いよく投げつけ、直撃した。


 その光景を見ていた連中は更に激怒した。

「テメェ美木さんになんて事すんだ! ぶっ殺してや――」

 タンカを切る前に容赦なく男はその男にもう一つ持っていた武器、鉄パイプで頭をカチ割ってしまった。

「こ……コイツ誰だよ……。こんなどこにでも見る様な奴、バラードにもいねぇよな…?」

「知らなくていいよ別に。逆に言えば、オメエらこんなモブキャラみてぇな人間にやられるってことだからよ」

「とか言って本当はヨソモノとかだろ!?」

「俺はこの街から一歩も出たことがねぇんだよ」

 すると慎が男の前に来て、連中に振り向いた。

「黄金美連合の奴ら、コイツの顔は確かに見たことねぇかもしれない。だが、止めておいた方がいい。コイツはお前らのアタマを一度叩き潰した野郎だからな」

「えっ……だから美木さん逃げようとしてたのかよ…」

「与謝野佳志って名前覚えてるかお前ら?」

 その名前を聞いた途端、連中の姿勢が変わった。


「まさかあの…」

「そうだ。あの不良の狩人、長柄や黄金美の英雄、神谷瑠音、そして渋谷の凶漢、賀島有我と同等、いやそれ以上の人間だ」

「あの影の薄い佳志グループってとこの、アタマってまさかコイツのことだったのか!?」

 皆の衆は信じられない顔で男の顔を見た。


「さぁ、逃げるなら今だ。命が惜しけりゃこの凶悪犯罪者から消え失せろ!」

 そう罵声を放った慎に、黄金美連合の舎弟たちは叫びながら逃げて行った。


 彼らが見えなくなったところで、慎が男に前を向けた。

「久しぶりだな、佳志」

 ニッコリとその佳志という男に挨拶すると、彼は不愛想に目を逸らし、会釈だけした。

「それより佳志グループって何だよ。俺は聞いてねぇぞ」

「んなもん気にすんなって。それよりお前もほら、キャバ行かね? 奢ってやるからよ!」

「興味ねぇよ。アイツとラーメン食った方がよっぽどいいよ」

「亜里沙の事かぁ? お前本当あの女の子の事好きだよなぁ! どこがいいの? 性格? 顔? スタイル?」

「別にどこも。アイツのラーメン食いたいだけだよ」

「んな事言っちゃってよぉ、本当は愛してるんじゃないのぉ? だってさっきだって亜里沙って子が連合に手出されたから危うく殺そうとしてたんだろ?」

「しつけぇな。もうその話はいいだろ。それより、そこで倒れてる奴大丈夫かよ」

「あっ……」

 泥酔いしている辺留を置いて行くところだった。改めて慎は彼を担いた。

「ま、いつかどっか食いにいこうぜ。俺はこの巨漢家まで送ってから帰るからよ、お前も帰り道絡まれたからって殺すなよ!」

 そう言って慎は佳志から立ち去った。



 黄金美町では数少ない一匹狼の端くれ、与謝野佳志。彼の名前を知らない人間は一般人を含めてまずいない。

 彼は不良やヤンキー、族の1人でもなく、ヤクザでもない。見た目はどこにでもいる若者だが、性格もどこにでもいる男の様とは限らない。




    ★




 ある日の夜、先日やられそうになった黄金美連合の連中が、レトロミアの溜り場にへ行った。

 複数の改造されたバイクの横で座っていたのは特攻服を着た連中で、典型的な族だった。

 彼らはレトロミアの総長、立浪英治に話をした。


「立浪さん、野暮遅くすんません」

「何だ? お前ら連合の奴らじゃねぇか」

「今回は喧嘩しに来たわけじゃありません」

「分かってるわ。わざわざ頭下げて喧嘩する奴がどこにいんだよ。で、何だ?」

「実はですね、美木さんがやられましてですね」

「美木? 誰だよ。そこの右腕か?」

「いや、連合のアタマは愛澤さんじゃなくて美木さんという人なんです。裏ヘッドというべきで、その人でも背を向けるくらいの奴に先日一発でやられてしまいまして……」

「ほう、只者じゃないって事か」

「まぁ…そうですね」

「んで、ソイツは何ていう奴だ?」

「与謝野……佳志という奴です」

「与謝野…? 誰だソイツ?」

「し、知らないんですか!? あの長柄や賀島とツルんでる最高級の危険人物ですよ!?」

「へぇー。んな奴聞いたこともねぇし見たこともねぇな。長柄って奴は聞いたことあるが、確かそいつはルネよりも容赦ないって噂だったな」

「確かに半年前は今の与謝野佳志並みの危険度はあって警戒されていましたが、今は酒場のオーナーやってて丸くなっています」

「そうか。んで、俺を倒すほどに強いルネとの関わりは、その与謝野って奴にはあるのか? 言っておくが関わりがあるなら止めておけよ。俺は一応ルネに負けてんだからよ」

「いや、話によると何の関わりもないようです。もしかしたら顔も合わせた事ないかもしれません」

「よし、ならその野郎は俺らに任せておけ」

「ありがとうございます! 報酬はこちらで用意しときますんで、安心してください」

「おうよ、じゃあまたな」


 連中は立浪に深く頭を下げ、立ち去った。



「与謝野佳志か……。お前ら何か知ってるか? 顔の特徴とか、普段どんな格好してるとか」

 立浪が自分の舎弟にそう聞くと、その1人が首を左右に振った。

「名前は確かに耳に挟んだ覚えはありますが、顔はあまり……」

「まぁ、長柄と賀島は見たことあるからそこらへん潰してからでいいか」


 そして彼らは一斉にエンジンをかけ、立浪に続いて皆の衆は高いコール音をブンブンと鳴らしながら突撃した。

 しばらくすると、パトカーのサイレン音と共に聞こえる様になるのが、この黄金美町の習慣である。



   ★



 数週間ぶりに佳志はある酒場へ行った。


 ナガラバーというところである。人気のない路地にある扉を開けば下を下りることができる階段があり、それを下ると更に扉がある。

 そこを開くことで初めて店へ入る事ができる。


 しかし入ると、そこは数々の椅子や机が倒れ、店員が立つところを覗くと、髪の長い黒髪の男が倒れ込んでいた。

「おい、大丈夫か?」

「だ……誰だ……」

「俺だよ」

「け……佳志か…。お前を探してた奴らが来たぞ……」

「探してた奴?」

「半年前に…レトロミアって暴走族来ただろ? そいつらだよ……」

「ふーん」


 倒れている男の名前は、長柄である。ちなみに客側のカウンターの横で倒れている短髪の男は賀島有我である。

「クソが。久しぶりの再会がこんなんだと情けねぇな」

「オメエは黙ってろ。怪我は?」

「不幸中の幸いってとこだな、かすり傷で済んだよ何とか」

「そうか。じゃあ行くぞ」

「はっ……?」

「シバき返しに行くって言ってんだよ。お前ら立てよ」

「待て! そもそも俺らはアイツらの溜り場なんて……」

 そう言うと、出入口の扉から誰かがやってきた。


「よぉ、与謝野。先日は俺が酔ってる時に世話になったな」

「辺留かよ」

 佳志がそう返すと、賀島が死にもの狂いで立ち上がり、辺留の前に出た。

「テメェ……何の用だよ……! 喧嘩ならまた後にしてくれねぇかなぁ!?」

「んな用事じゃねぇよ。大体、そんな身体の奴に喧嘩売るほどメイルバールは落ちぶれてねぇんだよ」

「じゃあ何だよ…」

「たくよ、せっかくレトロミアの溜り場教えてやろうって思ったのによ」

 すると佳志が辺留の胸ぐらを掴んだ。

「どこだよ…?」

「まぁまぁ、そう焦んな。俺が丁度今外で車用意したからよ、ちょっと遠いからそれで行くぞ」

 倒れている長柄も頭を押さえながら立ち上がり、その四人で外へ出た。


 少し大きめのパールホワイトの車で、タイヤの真ん中は真っ赤に染まっている。運転席には辺留が乗り、助手席には佳志、後ろには長柄と賀島が座った。


 しばらくすると、GSF集団の溜り場とは正反対のコンテナへ近づいた。


 そこには多数のレトロミアの連中とバイクが置いてあった。立浪もいた。


 その群れに佳志は指差して辺留に指示した。

「あれ、全員轢いてよ」

「オーケー!」

 そのあからさまなやり取りに賀島が突っ込んだ。

「ちょっ……轢いたらシャレになんねぇぞ!? お前ら分かってんのか!?」

「辺留! いいから進め!」

 賀島の警告を堂々と無視し、辺留は思い切りアクセルを踏んだ。

「殺すつもりかよ!? 落ち着け! ちょっ……止まれって!」

「辺留、そのままぶっ飛ばせ!」

 その真っ白な車は、人と自動二輪車を何のためらいもなく轢いて突破した。


 人はフロントガラスにぶつかってヒビが生え、ボンネットも凹み、右のライトは割れてしまった。

 数々の人間を轢き、その車を幸い避けることのできた残りの連中がその車を襲った。


「出ろやコラァ! どういうつもりだテメェ!」

 賀島と長柄は言わんこっちゃないと言った顔で下をうつむいてしまった。


 一方車の扉にゼロ距離のレトロミアの連中に、佳志は思い切り扉を蹴り開け、一人をその扉で突き飛ばした。

 腰からは短めの鉄パイプを取り出し、特攻服を着た奴らを大振りに蹴散らし続けた。


 一方立浪は、ボンネットに跳び上がり、日々が生えているフロントガラスを力づくで剥がし、ガラスごと地面に投げた。

 運転席で座っている辺留の胸ぐらを掴んで何度か殴り続けたが、長柄が助手席に置いてある残りの鉄パイプを取り、立浪の足元を横に振り、こけさせることに成功した。

 賀島もその様子に呆れ、扉から出た。

 その限りなく多い群れを賀島はキックボクシングのスタイルで戦い、長柄は己の喧嘩慣れで実践した。

 長柄は連中の1人の頭を掴んで倉庫に頭を何度かぶつけ、最後には地面に突き出してストンピングという始末をした。


 佳志は複数の頭を鉄パイプで叩き続けて、遂にはねじ曲がってしまった。それを一度投げ捨て、捨てられていたフロントガラスを持ち上げ、連中の頭を目がけて叩きつけ、奴らはその場で失神した。


 立浪は背を向けている佳志に向かって角材を振り下ろしたが、佳志はその角材を片手で受け取ってしまった。


「それは俺の専売特許なんだよ」


 その角材を佳志は強引に奪い取り、立浪の右のこめかみへと棒を振り、それは見事に直撃し、彼は倒れてしまった。


「何だお前は……」

「俺の連れが随分とお世話になったらしいじゃん。シバき返しにきただけだよ」

「お、男なら拳で語れよ!」

「黙れ。ツッパリ気取ってんじゃねぇぞ。たかが暴走族が、俺の仲間に手出して調子乗ってんじゃねぇよ」

「お前、どこのチームだ!? 大体お前らどこの……」

 すると辺留が倒れている立浪に中腰になって言った。

「佳志グループって奴らだよ。俺はもちろんメイルバールだけどな」

「佳志……グループ? 何だその中学生が考えたようなチーム名は!?」

「残念ながらコイツら、お前より年上だぞ」

「んなことは分かってんだよ! そんな年上の人間が何でそんなヘンテコなチーム名で、しかも何かそこの黒髪頭のモブキャラみてぇな奴だけ武器しか使わねぇんだよ!? 男なら拳で――」

 御託を並べていると、佳志も中腰になって倒れている立浪を落ちてるゴミを見下すかのような目で見降ろした。

「悪者だからだよ。俺はオメエみたいな族でもなければメイルバールみたいなヤンキーでもない。ましてやヤクザなんて俺の獲物だよ。もちろん警察な訳がねぇけどな」

「じゃあ……どういうご身分だってんだ……」

「どんなご身分でもねぇよ。俺は弱いから武器使ってるだけで、深い理由はないよ」

 すると長柄がそう言う佳志に近づいた。

「警察からは筋金入りのチンピラって呼ばれて集中マークされてるけどな」

「バカ、余計な事言うな。ほら行くぞ」

 そう言って四人はそのボロボロの車へ戻った。


 さきほどやられた連中が次から次へと立ち上がり、再び襲いかかろうとするところを車はバックして猛スピードで逃げて行った。



 最終的に全員から逃げる事に成功することができたが、車はボロボロ、警察からは色々怪しまれ、長柄と賀島は軽傷に更に傷を負わせてしまった。



 しばらくゆっくり車を走らせていると、路上から一人の女性がこちらに手を振っていた。



 ――彼女は佳志に向かって手を振っていた。


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