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第二章 与謝野の行動

The man is dangerous character.


Be careful of handling enough.


He can`t stop.

女は佳志に向かって手を振っていた。それに気付いた辺留はブレーキを踏み、窓を開けて女に声をかけた。

「おたく、どちらさん?」

「佳志の、保護者代理人です」

 女はしかめっ面で佳志を睨んでいた。それに気付いた佳志はお節介と言わんばかりにそっぽを向いた。

 外国人の様な綺麗な金髪で肩にかかる程度のショートヘアをした女の名前は亜里沙と言う。彼女は猫の様なまん丸い瞳をしており、それを忘れる者はまずいない。


「アンタ達何やってる訳!?」

「いや……これはつまり、その……」

 愛想笑いで誤魔化そうとしていた辺留だったが、佳志があっさりやった事を口外してしまった。

「族と喧嘩したんだよ」

「はぁ!? アンタまたそんな無茶した訳!? ちょっと、ここ開けなさい!」

 長柄と賀島は「喧嘩と言うよりは明らかに一方的な殺人未遂」と言いたいぐらいに心で叫んでいたが、あえていう事はなく、彼ら二人の間に亜里沙が座った。

「あのね、アンタ達ね、自分が何やったか分かってる? 暴走族と喧嘩したのよ喧嘩!」

「うるせぇなぁ、俺らの圧勝だよ。あんな半端モン余裕余裕」

「あ、まさかアンタ、物使ったんじゃないでしょうね?」

 それよりも車で全速力で轢いたことの方が重大である。と辺留を含めた三人はそれをあえて口に出さずに心の中で叫び続けた。

「まぁまぁ、佳志も俺らがやられた事が許せなかったから敵を討ったんだよ。な? 佳志」

 賀島が冷や汗をかきながら佳志に聞くと、彼は何も反応することはなかった。


 亜里沙は今回の事をかろうじて穏便に見て、何とか説教は終わった。

 そんな時、歩道橋へ足を踏み入れている1人の学生を辺留は見逃さなかった。


「ちょっ……! アイツ何やってんだ!?」

「何だぁ!?」

 長柄が前の席へと顔を突きだし、その男を見ると、辺留にブレーキを踏むように指示した。

「あれ、この前佳志に恐喝して思いっきり返り討ちにされた赤星高校の学生じゃんかよ」

 そう言うと、佳志もその光景を見て、即刻車から跳び出した。


 二段飛ばしに階段を上り、その男子生徒の元へ走るところを見た長柄達は助けるのだと安心しているのかと思うと、行動は正反対だった。

 その今でも飛び降りそうな男子生徒を後ろから蹴り飛ばしてしまったのである。


 あまりに意外な事態に、その男も悲鳴を上げながらアスファルトを目がけて頭から落ち、亜里沙は表情を変える事さえできなかった。


 幸い落ちた生徒を力持ちの辺留が何とか受け取り、死人は出ずに済んだが、辺留は階段を下りる佳志の胸ぐらを掴み、自分の身に引き寄せた。

「テメェ、普通の学生に何てことしてんだ。人を殺すのがそんなに楽しいのかよ!? これは敵討ちなんかじゃねぇんだぞ!?」

「……………」

 佳志は無言でその手を外し、青ざめて足をすくませている男子生徒に近寄った。

「オメエ、この前俺にカツアゲして来た赤星の奴だな。どうだ? 追い詰められて、その事しか考えず、生きる気力を失い、歩道橋の手すりに足を踏み入れ、そしてそこから地面へたどり着く二秒間の大後悔はよぉ?」

 佳志はそう言って男子生徒の胸ぐらを掴んだ。


「どうやらお前、そこらへんの不良少年ではなさそうだな。あの時、誰かに命令されて俺に恐喝したのか?」

 そう聞くと、青ざめていたその男は何も言えず、何度も頷くことしかできなかった。

「ふん。情けねぇな。怖いからって、弱いからって強い奴の命令に従って命乞いして、それで本当に良いとでも思ってんの?」

「そ……そんなの、良くないに決まってるよ……。でも、僕だって……僕だって強くなりたい…。あなたと違って僕は……弱いから…もうこうするしかないんだ……」

「うるせえ。俺だって弱いんだよ」

「え?」

「俺だってお前と同じ立場の人間だよ実を言うと。でもよ、やられてるだけってつまらないって思わねぇか? だったらボコすとか考えずにいっそ殺しちゃえって思えばいいんだよ」

「はっ……え?」

「黄金美町の不良なんてどうせ拳で語り合うだの、アイツらはアイツらなりに色々とこだわりがあるんだよ。多分お前を命令する奴らだってそうだ。だから武器でも何でも使って半殺しにすれば、それはもうお前の勝ちなんだよ」

「………そんなんでいいんでしょうか…。僕は、喧嘩なんてしたくありません」

「は? 喧嘩? 殺すっつってんだよ。お前は喧嘩をスポーツか武道だと勘違いしてる。もっと自信持てよ」

 そして佳志は男の肩をポンと叩き、再び立ち上がった。


「だから、自分の命ぐらい大切にしろよ」


 そう言って彼ら四人は車に戻り、男子生徒は唖然としていた。


「たく、アンタあの生徒辺留が受け取ってなかったらどうするつもりだったのよ!?」

「刑務所行く」

「はぁ!? 何でそう簡単に言える訳!? 自分が何したと思ってんのよ!」

「教育だよ、命懸けの」

 亜里沙は呆れ返り、遂には深いため息をつくぐらいだった。

「まぁ、結果オーライってとこだしいいじゃねぇか亜里沙! もう忘れようぜ今の事は」

 賀島はそう言って亜里沙の肩をポンと叩いた。



 その後、辺留の車は修理屋へ出したが、修理代は酷かった。


「つーか佳志の奴、あの生徒に色々説教してたけどよ、何か自分の事言ってるみたいに聞こえたのは誰だけか?」

 ナガラバーのカウンターでタバコを吸いながら賀島は長柄へ聞いた。

「まぁアイツも昔色々あったらしいからな。詳しい事は知らないが」

「ふーん。まぁどっち道アイツのやり方は異常だよなぁ。よく俺らあんな危険人物とツルめてたよなぁって思うぜ」

「佳志のモットーは『喧嘩はいかに強い者が勝つかではなく、いかに手っ取り早く処分することができるか』だからな。アイツにタイマンも素手も関係ない。高校デビューかと思えば高校にも入ってないし、正体は性根から腐りきってるチンピラだからな」

「参ったねぇ、俺もアイツと会った時はお前よりも大した事なさそうな奴かと思ってたけどよ、まさかあんな歯止め効かない奴だとは思わなかったぜ」

「人は見かけによらないとは正にこの事だ。一応アイツは俺らの事仲間って言ってくれてるだけ俺らはまだ安全な方だ。放っておこう」


   ★




 ある朝の時、黄金美町の東方面にある田舎、赤星地区の赤星高校で例の男子高校生が久々に登校した。

 彼の名前は鳥井昌一とりい まさかず。赤い学ランを着るその高校。かつては広行という男がそこの番長をやっていて、赤星高校は正に不良の集いだった。しかし、彼らの卒業と同時にその高校はいたって真面目な共学高校へと変化した。

 しかしほんの一部では、よからぬ事を企む生徒も混じっている。彼ら三人は屋上でタバコを吸う、お酒を飲むと言ったいかにも不良高校生を纏う生徒だった。

 そしていつも、四人目に出てくるのは鳥井昌一である。彼は不良ではないが、いつも彼らに虐められ、パシられることが多い。

「おい鳥井、こっからバンジーやれよ」

「えっ……」

「この前カツアゲして思い切り負けてんじゃねぇかよ。テメェあんな弱そうな奴が相手でも勝てねぇとか、どんだけ雑魚なん?」

「いやっ……あれはちょっと別の……」

「あぁ? 言い訳してんじゃねぇよ。俺らだったらあんな奴一発なんだよ一発!」

 そう言うと、彼の周りにいる二人もゲラゲラと汚い笑いで鳥井をけなした。

「ほら、ヒモならここにあっから、この前の落とし前つけろよ」

「それ……絶対ちぎれるじゃん…」

 限りなく細いその紐を、彼は鳥井に渡した。

「早くやれやコラァ!」

 そう言って三人は屋上の手すりに彼を押し付ける。鳥井は抵抗したが、無駄だった。



 そんな時、屋上の扉が勢いよく突き破られ、そこから教師が倒れ込んだ。

「き…君! 我が校の生徒に何の用だ!」

「うるせえ。この前俺がここの学校の人間に迷惑かけられたから、賠償金もらいにきてやったんだよ」

「ウチの生徒がそんな事するはずないしょうが! このチンピラが!」

 黒髪の男、与謝野佳志だった。彼は学校に置いてあった大きめのビンを肩にかけ、その教師を見下ろした。


 縄を腰に巻いていた鳥井に、佳志が睨んだ。

「……おい。お前この前はよくも俺に恐喝しやがったな」

「えっ……は、はい。すみませんでした……」

「今すぐに一千万用意しろ。これは賠償金だよ」

「は!? 一千万!?」

「用意できないんだったら……」

 佳志は不良の三人組をビンで指した。


「お前の愉快なお友達ぶっ殺す」


 ひそかに嘲笑っていた三人が急に血相を変え、青ざめてしまった。

「ちょっ……コイツ誰だよ!?」

「知らねぇ! なぁ鳥井、俺達友達だよな? こんな奴俺らで倒せれるよな!?」

 すると鳥井はブンブンと首を左右に振った。

「僕たちで……ちゃんと謝らないと……」

「アホかお前! こんな奴は複数には勝てねぇんだよ! 俺らがどんだけ喧嘩慣れしてると思ってんだよ!」

 すると佳志はその『喧嘩慣れ』という言葉に反応し、三人の内のリーダー的存在の金髪坊主に話しかけた。

「おい、誰も喧嘩なんてしようなんて言ってないよ」

「え……そ、そうなのか。今すぐじゃなくて、もう少し待ってくれ――」

「俺が殺しに来たんだから黙ってろよ人質」

「――――」


 佳志はその金髪の男にビンを投げつけると肩に命中し、片膝をついた。武器はもうなくなったと油断した残り二人だったが、佳志は腰からお馴染みの短めの鉄パイプを取り出した。

 しかしそれはもう1人の男に投げつけ、男の鼻に当たった。悶絶しているその男の髪を掴み、最後の1人に押し付けた。

「大丈夫か翔!? て…テメェ何が目的なんだよ! 一千万なんて、高校生が今持ってる訳ねぇだろ! 今じゃなくても用意なんか……」

「弱い人にお金を要求するのは良くない事って、お前なら分かるよな?」

「……!」

「恐喝罪って知ってるよな。人にお金をタカったりユスったりすると、それは紛れもなく犯罪なんだよ」

「でもアンタは今俺たちに暴力振るってんじゃねぇか! 傷害罪だぞ傷害罪!」

「増してや弱い人間に恐喝させるなんて立ち悪いよなぁお前らも。なぁ教えてよ。俺はお前らみたいな非行少年じゃないから弱い人間から金をむしり盗ろうとする人間の気持ちが分からないんだよ」

「どっからどう見てもアンタのやってる事は立派なチンピラがやる事だぞ! 俺達をどうしようって言うんだ!?」

「殺すって何度も言わせんなよ」


 不気味な殺気を漂わせる中、二人の間に鳥井が来た。

 鳥井はそんな佳志の目を睨むが、頭を下げるどころか、体ごと床につけた。


「土下座……」

「お願いします、許して下さい。僕たち、悪ふざけでやったつもりなんです。だからこれで勘弁してください!」

「…………」


 佳志は少し考え、その土下座している鳥井をまたぎ、最後の不良へと近づいた。

「……おい、不良やっててそんなに楽しいかよお前?」

「いや……えっと…その……」

「不良ってのは大人に歯向かうからこそ不良ってモンだろ。たった一人の一般人さえも殴れねぇってか? ほら殴ってみろよ」

「………すみませんでした…」

「あぁ?」

「すみませんでした! どうか、勘弁してください!」

 その男も佳志に土下座し、彼はもう殴る相手さえいなくなった。


 呆れた彼は屋上の扉へと戻り、振り向くことはなかったが、最後に言葉を放った。

「俺は与謝野って奴だ。お前らみたいな非行少年は嫌いじゃないよ。不良なら不良らしく、強い奴に立ち向かってのし上がってみろよ」


 そう言って彼はその場から立ち去った。警察が来た時は、既に遅かった。



 そして不良三人組は喫煙、飲酒によって三週間の停学処分とされ、一緒にいた鳥井は三日の停学処分で済んだ。

「けっ……、何だよあの野郎。今度あったら確実にぶっ潰す!」

「やめとけよもう」

「あ? ビビってんのか!?」

「この前テレビでやってたけどさ、与謝野佳志っていやぁ黄金美地区で問題にされてる佳志グループの首謀者らしいぜ」

「佳志グループ? 何だそりゃ。あのメイルバールって奴らみたいな?」

「違う違う。不良集団とはまた別の人種だよ。警察一課では手に負えない凶悪な前科モンの集まりだよ。人数は随分少ないようだけど、一人一人が容赦ないって噂だぜ?」

「んで、そのヤバい連中のトップがこの前来たアイツって訳か。急にビン投げつけやがって……。俺でもあんな卑劣な真似しねぇよ!」

「実際喧嘩はそんなに強くないらしいけど、相手をぶちのめすためなら手段選ばないらしいってよ。どうやらこの前なんて車で族の連中轢いたらしいしな」

「シャレになんねぇなおい。頭いっちゃってんのマジで? 紛れもない人殺しじゃねぇかよそんな事言ったら」

「まぁ、そうだよな。あの目は絶対に……そうだよな。与謝野って言ってたから調べてみたけど、黄金美地区には結構その苗字があってよ。写真見たらアイツだけ地味な感じだったからすぐ分かったけど……。

「他の奴らはどんなんだったんだ?」

「チャラチャラしたコーンロウのオッサンとか、金髪頭の兄ちゃんも載ってたし、その妻もいたし。あの佳志って奴によく似てた奴もいたけど……まぁ多分双子だろうな。顎に傷入ってない方がこの前俺ら襲ってきた奴だと思う」

「ふーん。全員親族なんじゃね?」

「かもなぁ……」


 そうして彼らは教室へ戻った。彼ら三人はそれ以降、鳥井と関わる事はなくなった。



    ★




 その時、白アパートの二階、302号室では亜里沙がちゃぶ台の前で佳志を説教していた。

「あのね、どうしていつもこう、アンタには限度ってのがない訳?」

「いや……それはその……」

「いくら不良生徒だからってね、アンタはあくまでも、あくまでもね? あくまでも⒚歳なのよ? じゅう、きゅう、さい! もうすぐ二十だよね? 成人式出る前に年少入りたいの!?」

「だってよぉ、俺に恐喝仕掛けてきたんだぞ? 賠償金いるだろ」

「例え相手がタカろうとね、アンタが仕返しにきたらダメでしょうが! せめて長柄や賀島に頼みなさいよ。私でもいいわ、この私にでも頼めば丸く収まるのよ! アンタが行くとね、毎回怪我人が出るってことぐらい一年間アンタの面倒見てる私には分かるのよ!」

「うるせえなぁ。ガミガミすんなよ。俺はな、弱い奴に手出す奴が一番嫌いなんだよ」

「アンタが弱いって言いたいの? あのね佳志? 私はアンタが喧嘩したところあんまり見たことないけどね、少なくとも人と揉めたことなんていくらでもあるでしょ? いーや揉めるってモンじゃない。大抵アンタが一方的に叩きのめして終わる始末よ。しかもなぜか今のアンタは地味な髪型だし黒髪だし、おかげで顔もモブキャラに相当するレベルだし、格好さえビックリするくらいシンプルになっちゃったし。いや、その事についてはむしろ感心するけどね、相手に印象ぐらい与えて、次は睨みつけて終わる程度にしなさいよ。毎回アンタの顔忘れられて同じ人が二度、三度もボコボコにされてどうすんの? ちょっとは何か印象ある格好とか髪型とかしてみなさいよ前みたいに! 何でこう変わったの?」

「んなもん変わっちゃいけないなんて法律はねぇよ。この街は茶髪、金髪、青髪、赤髪、メッシュ、チョーク、エクステとか、チャラチャラした奴らが滅茶苦茶多いんだよ。黒髪なんてサラリーマンぐらいしか見たことない。そんな奴らと一緒にされちゃ困るんだよ。それにチンピラって思われたくないんだよ」

「いや既に立派なドチンピラだよアンタは? 自覚してる? まさか普通の一般人になれたとか寝言言ってる? そんな訳ないでしょ?」

「だからそう思われないために黒に染め直したんだろうが! 髪もこの通り、ちゃんとしてるしよ。どう? 平和を愛する健康的な大学生に見えん?」

「残念ながらアンタ童顔だからどちらかと言えば高校生だわ。確かに佳志は今まで柄の悪い髪型ばっかしてて、できれば一緒に歩きたくなかった。だから正直今の佳志の外見はこれ以上にないくらい柄が良く見えて、よからぬ恐怖心も全然なくなったわ。あとは行動さえ変えればアンタは立派な社会人になれるのよ」

「そうなんかねぇ……」

 そう言いながら佳志はタバコを口にくわえると、それを亜里沙が取った。

「未成年の喫煙は犯罪です。それとウチは禁煙です。いい加減煙草を、やめましょう」

「面倒くせぇな。親にでもなったつもりかよ」

「私はアンタの保護者代理人としてシツケているだけ」

「はぁ……。それにしてもよ、お前何で金に染めたの?」

「女たるもの、お洒落よ。悪い?」

「まぁ汚いギャルみたいな金髪よりはずっとマシだけどよ、似合ってねぇぞ」

「うるさいわねー。そんなに黒に直して欲しいわけ?」

「別に……」


 そう言って佳志はそっぽを向いた。亜里沙は前までごく一般の黒だったが、お洒落を試みて外人のようなキラキラした明るい金髪にしたのである。余談だが家の時では耳を隠し、仕事に行く時などの出かける際には耳を出し、ワックスをかける。

 佳志にとっては耳を隠す方が気に入っている。

 しかし、この2人は付き合ってもいなければもちろん婚約もしていない。


 それが彼彼女の現在である。それ以上でもそれ以下でもない。


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