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躯の王  作者: zan
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07.情報

 勇者ハーディは、行く町々で歓待を受けている。煩わしいと思わないこともないが、民衆にとっては英雄である。

 次々と魔物を討ち取り、安寧をもたらしてくれる勇者に対して感謝の気持ちをあらわしたいという気持ちを無碍にすることはできなかった。そこで素直に歓迎されておく。与えられるものは遠慮しながらも結局受け取り、世の中の役に立てると約束する。

 そうした具合で彼に贈られる物品も相応の数があったが、甚だしいものでは女性が自らを売り込んでくるということもある。父親が娘を、ということもあった。

 どうか傍において欲しい、召使でも奴隷でもいいから勇者と同じ空気を、適当に性処理に使ってくれてもいい。

 まさに貞操観念も何もなく、自らの体を放り出してくるのだった。こういう手合いがどこの村でも一人か二人はある。

 これでは勇者ハーディに自重しろというのも無理な話だ。彼は好色であり、若い女に目がない。英雄色を好むというのは全くよくできた言葉だと常々カヴィナは思う。

 彼は誘惑に弱い。ならば人間たちのつまらない策略から勇者を守るのは自分の役目であろう、とカヴィナは考えていた。


「ときにカヴィナ様。勇者様は次にどこの魔物を討伐なさる予定でしょうか」

「なに、彼は困ったものを見逃さない。あなたが頭を痛める要因になるような魔物もいずれ必ず誅滅するので、待っていてもらいたい」


 多くある質問のひとつひとつに答えながら、彼女は民衆が何を求めているのかという情報をも吸い上げていく。これは今後の行動の参考にすべきことである。


「いえ、ぜひお教えください」


 しかし今日の男は食い下がった。

 どうしても勇者がどこに行くのか知りたいという。訝しく思いながら、カヴィナは言葉を返す。


「知りすぎるのもよくないな。魔物たちがこの会話を聞いてたらどうするんだ」

「そこをなんとか。勇者様の行く先を知りたがる者たちも多いものですから。

 彼らは勇者様が活動しているところを目の当たりにはできません。我々もそうです。

 だからこそ、次はどこに戦いに行くという情報だけでも、大いに安心できるのです。ぜひお教えください」

「お前は何を言っているんだ。

 安心させるために戦いに行くのに、お前たちにリスクを負わせるわけにはいくまい」

「それが」


 やけにしつこい態度に、カヴィナは疑念を抱く。語気を荒くして、その男を問い詰める。


「どうしてそんなに私たちのことを知りたがる。勇者だから、というんじゃあるまい。

 お前の言っていることはおかしいぞ。

 何か私たちのことを、どこかに売り飛ばしているのではあるまいな。心当たりがあるなら言え。

 お前は情報屋か!」


 するとその男は白状した。

 ある町の少年たちが勇者に関する情報を金で買いあさっていると。

 男は彼らに売るための情報を得ようと必死だったのだ。


「年端もいかない少年が? わざわざそんなものを金でか。

 まるで意味がわからんぞ。

 こりゃちょっと、確かめておいたほうがいいかもしれないな」


 カヴィナはそう判断して、問題の町にやってきたのだった。

 魔法使いであるカヴィナにとって長距離の移動は面倒なことだったが、ハーディほどに注目を浴びていない彼女はそれほど目立たずにここに来ることができる。

 その道中で、気になる話も聞き及んだ。恐らくながら、その少年たちの正体。それにつながる話を。


「ルグーの娘が消えたらしい。奴が引き取っていた男も一緒に」


 そんな話だった。ルグーというのは大商人の名である。豪邸に住み、幾人もの使用人を雇い、貴族に混じって夜会に参加するような身分の男だ。

 彼の娘が消えた、というのは穏やかな話ではない。何者かによって誘拐された可能性もある。

 そこでカヴィナはその件についてもう少し詳しく調べた。彼女にとって、調べごとをするのはあまり難しいことではない。人の嘘を見抜く程度の魔法なら、彼女にはお手の物であるからだ。

 最終的に得た話は、次のようなものだった。


「なんでも、ルグーは孤児だった男の子を引き取って育てていたとかいう話だ。いや孤児だってのはウソだろうけどな。侍女の一人を孕ませちまって、その子をイヤイヤながら引き受けたってのが大方のご意見でよ。

 そんな子を受けちまって、実の娘がおかんむり。自分の相続権が怪しいと思ったのかしらねえが、随分そいつをイジメていたらしいぜ」

「ルグーがいうには奴の奥方が病気こいちまったらしい。難病らしいがな。

 そいで鬱陶しいその養子がどうしても治したいなんていうから、アーマーベアのいた森の奥に薬草があるなんて話を振ったんだと。勝手に飛び出していって、そこでうまいこと死んでくれれば好都合だとでも思ったのかもな。

 まあそうだとしたら事故に見せかけて殺すほうが手っ取り早いし、そうしてなかったってことは案外薬草の在り処自体は本当のことだったのかも知れねえ。でもそんなことを聞きつけて、実の娘まで飛び出しちまったらしい。娘にとってもそりゃ母親なんだから当然だったかもな」

「娘は随分、その養子を憎んでたらしいから、母親に媚を売ってるように見えたんじゃねえか。

 それで怒って、先を越そうとしたのかもな。どっちにしたって二人とも消えちまったんじゃしょうがねえだろ。

 ルグーの奴、妙なことを考えたから養子どころか娘まで失っちまったわけだ。今じゃふさぎこんで病気の奥さんと泣いて暮らしてるらしいぜ」


 幾人かの話を聞き、ルグーという商人がどういうことをしたのかはおおよそわかってきた。

 しかし、これらの情報は前提に過ぎない。この後、カヴィナはさらに決定的な話を掴んだ。


「その行方不明になった子供たち、よく似たのがあの町にいるよ。

 随分と仲よさそうにしてなあ。

 ま、これは俺の想像だけど。二人は本当のところ好き合ってたけど、兄妹になっちまったんで仕方なく理由つけて家を出たんじゃねえのか?

 それでこんな田舎まで来てよ、苦労してでも二人で生きていこうとしてんだろ。泣ける話じゃねえか」


 なるほど、と頷く。カヴィナはますます怪しいと考える。

 放っておくわけにもいくまい。自分の目で確かめなければ。


 そこまでの情報を仕入れ、自ら考えて整理し、今、カヴィナは酒場の戸を開いたのであった。

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