14.王城
王城に戻ってきた勇者ハーディと魔法使いカヴィナは、まっすぐに玉座のある部屋に突進した。
王はこれを予想していたのか、玉座に座ったままで二人を出迎える。
それなら話が早いとばかり、ハーディは王に説明を求めた。彼なりの丁寧さをもって。
「国王、討伐寸前のところで魔物たちに屈服してしまった理由を教えてもらいたい。
あと数分もあれば、あの程度の村は壊滅できた。今後、人間が魔物に怯えることもなく暮らしていけるはずだった。
その機会を永久に奪ってくれたからには、その理由を説明してもらえると信じているのだが」
「おお、勇者ハーディ。お前の言っていることはわかる。
だがまずこちらの言うことを聞いてくれ。それからカヴィナと相談して、それでもわからないことをこちらに質問するがいい」
ハーディと話すには通訳が必要だった。主に、カヴィナという緩衝材兼用の通訳が。
それを知っている王は、カヴィナをじっと見つめる。無論、魔法使いも彼の言いたいことはわかっているので特に何も言わない。
「まずはなぜ彼らの言い分を認めたか、から説明しよう」
王は状況を語った。要は、攻められたのだ。
カヴィナが察したとおり、勇者たちが魔物の村を攻めている間に、手薄になった王城を直接襲撃されてしまったのである。
「それほどの戦力を敵が持っていたとは思えませんが」
「いや、恐ろしい敵だったよ。虫や、小動物の類だ。彼らはそうした小さな死体を操って、戦力にしていたのだ」
「そんな小さなものまで操れたのですか?」
言いながら、カヴィナは思い出した。以前、自分を襲った数多くの気配の正体。
あれは、思い返してみればネズミや虫などのゾンビだったのだ。
となれば、魔物の村にそうした小さな者たちがいなかったことを考えてみれば、最初から彼らは王城付近に潜んでいたと考えるのが自然だ。
「ああ、魔法の類かわからないが我が兵士たちはあっという間に昏倒させられてな。
君たちが今いる、そこよりももっと近いところまで余に迫った。彼らを統括しているらしい、少女のような姿の魔物が」
それは恐らくカヴィナが取り逃がした少女ゾンビだろうな、とハーディも察する。逃がした本人も当然、思い当たっている。
「それで彼女は、何と?」
「自分たちが奪われた土地をかえすように、と。それと勇者たちを退かせろと要求してきた。
これは正当な要求であるともな」
「脅迫でしょう」
「うむ。実際に、そう言っていた。
余はそのような無茶な要求に答えはしないと言ったのだがな」
王は、ゾンビ少女のキサとどういった会話をしたのか、全て話した。
そのとき、彼女は王の抵抗に対して冷徹に言い放ったのである。
『私たちは、あなた個人を脅迫しているのではない。国を脅しているのです。
今、この城を掌握してみせたのは私たちの力を見せるためであって、あなたたちを殺傷するためではない。
私たちには目的がある。自分たちの土地を回復することがその目的の一つ。
あなたを脅迫することがその目的に近づくための最適な手段と判断したのでここにいるのです。
もし、それでもあなたが首を縦に振らないのであれば、力づくででも土地を奪い取らざるを得ません。
その場合はどれほど無辜の人間が亡くなるのか、あなたならおわかりではありませんか。現に、今現在私たちをこの土地から追い払おうと力づくで戦っている勇者たちによって、私たちには甚大な被害が出ています』
『だが、勇者の力ならお前たちを攻め滅ぼせる。
私がここで頭を下げてはお前たちの台頭を許すことになろう。
それなら国がたとえ途絶えようとも、勇者がお前たちを殲滅させることを信じて、要求を拒否できる』
『王家が途絶えるならともかく、あなたは無辜の国民がおそらく滅びることになるのがわからないのですか。
私たちは、死体がある限り種族を増やせます。虫でも、ネズミでも、人間でも。
いかに勇者とて、倒しきれるでしょうか。そして私たちを殺しきるまでの間に、国民がどれほど血を流すことになるのか、理解できていますか』
つまり、キサは提案が受け入れられず、魔物の村が滅んでしまった場合には虫やネズミのゾンビたちを引き連れて国民たちを殺傷するというのだ。
自分たちの領土を確保するために当然それをする、というのだからそれはなんとしても回避しなければならなかった。だから、王は屈服してしまったのである。
直筆で書類をしたため、魔物たちの旧領には手を出さないと約束する。そして、キサたちは帰っていったのだ。
王城の攻略はほんの半時間程度ですまされ、彼女たちは勇者と魔法使いが魔物の村を破壊しつくす前に、間に合うことができた。
勇者たちからすれば、まんまとしてやられた格好である。
「くそ!」
ハーディは悪態を吐いた。これ以上どうにもしようがなくなったからである。
しかし、カヴィナはじっと目を閉じて考えを練り、それからようやく発言した。
「王。旧領を約束してやったからと言って、奴らが攻めてこない可能性はない。
国民の感情を考えれば、こちらから攻めることを止める手はないのでは?」
「とはいえ、そうした場合には奴らも国民に手を出す。ネズミや虫を使ってだぞ。どうにもなるまい」
「だが奴らの望みどおりに動くのは危険だ」
「ともかく、今はそっとしておくしかあるまい。お主たちによって彼らも傷ついておろう。
今日明日にも国民が攻められることはなかろうし、そうなったときにはすぐにお前たちに動いてもらう。
疲れているであろう、今日はもう下がってよい」
なるほど、それももっともだ。カヴィナとハーディは引き下がる。
確かに一度休むべきであった。疲労がとれれば、また考えも変わるかもしれない。城の中に部屋を用意された二人は、そこで一晩休むこととなった。
翌朝、頭痛と共に目覚めたカヴィナは股間を押さえて苦しむハーディを見て訝しむ。
額を押さえつつ、何をしているのかと問いただしたが、彼は曖昧に言葉を濁すだけだった。
「もしかして寝ている私に何かしようとしたのか? 自動反撃の魔法防壁があるのはわかっていただろうに。
どうしてそういうことをするんだ」
「男にはそれでもしなければならないことがあるんだよ」
「お前は何を言っているんだ。まあそんなことはどうでもいいが。
とにかくあのゾンビたちの対策を考えなきゃならん、さっさと顔を洗ってこい。王のところにいかなきゃなるまい」
どうしようもない勇者と、彼の振る舞いになれた魔法使いはそれからほどなく、城内の会議室に足を踏み入れた。
彼らは直接会議を聞く必要があり、顔を出すことを許されているのでこの行いに問題はない。彼らを交えて、国として魔物たちに実際どう向き合っていくのかということが話し合われる。
所詮魔物は魔物であり、いかに理性的に振舞おうとも、いつ国民を襲うかわからないのでスキを見て討伐し根絶やしにすべきだ。会議で勇者ハーディはこのように主張した。これは会議でも支配的な意見であった。実際に王城を制圧されたのだから魔物たちが恐ろしい存在に見えるもの当然である。
しかし、数分もしないうちに扉は再び開かれた。
この会議に割って入った者がいる。
少年と、少女だった。
「お前たちは」
ハーディが目を見開く。
なぜここに。
そう言いたげだった。
しかし来訪した少年、エグリはこともなげに言葉を返す。
「先日はお世話になりました。我々も会議に参加いたしましょう」
エグリとキサは、ゴージャス王国の会議室に乗り込んだのだった。ここには勇者も、魔法使いもいるというのに。




