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躯の王  作者: zan
13/15

13.勝利

 決着がついた。

 宣言したのはエグリである。だが、その意味をハーディとカヴィナは理解できない。


「つまりなんだ、負けを認めるってコトなのか」


 勇者ハーディは剣先をエグリに突きつける。

 しかし、そのような脅しは通用しなかった。エグリは落ち着いたまま、わかりやすく言いかえた。


「いいえ、これ以上こちらに犠牲を強いるのはあなたたちにとって不利益を与えるといいました。

 つまり、戦争は終わりました。その詳細はこちらにあります。ご確認ください」


 言いながら取り出したのは一枚の紙きれ。

 エグリはそれを、ハーディの剣にのせてやった。

 勇者は呪いの言葉が書かれているのではと疑ったが、カヴィナが特に怪しい気配はないと告げると素直に剣を引き、書類を確認する。

 それは、勅令だった。ゴージャス王国の現国王が直筆した、紛れもない勅令であった。印まで押されている。


「バカな、なんでこんなものを魔物がもっているんだ」

「だが、ホンモノだ。これに背くのは無理だ。国中の信用を失う。逆賊扱いになるぞ」


 カヴィナも書類を見て、血の気が引いたようになっている。ハーディは信じがたかった。

 書類の内容は、魔物たちの領土を安堵することを約束したので、直ちに帰還しろという命令だったのだ。それも、ハーディとカヴィナを名指ししている。

 これを無視するのは不可能だった。知らないふりをして魔物の討伐を続行してしまった場合、非常に厳しい処分が待っていることは間違いない。今まで築いてきた名声は地に落ちるだろうし、暴力に任せて王国に反旗を翻したとしても、勇者の選定を取り外されればハーディもただの人である。

 どれほど気張って戦おうともたった一人の反乱軍だ。また、近隣の諸国が彼をほうっておくとは思えない。


「ぐぐ、なぜだ。お前たちはどうやって王にこんなものを認めさせた」

「直接、お会いしてお願いしました。ただそれだけです」

「脅したな!」


 ハーディが激昂するが、それが交渉というものだ。

 隠す意味もなく、エグリは素直に首肯する。

 同時に、背後からキサがやってきた。彼女はエグリの横に並び、捕捉するように説明を入れる。


「はい、王城を実質的に占拠した上でお願いいたしました。

 数分もしないで、ご英断をいただきました。さすがに王様といえましょう」


 つまり、キサはこの決戦に参加せずに王城を攻めていたのである。

 彼女の衣服は血に塗れ、顔にまで飛び散った鮮血が付着している。凄惨なままの姿で、ここに戻ってきたのだった。


「つ、つまり」


 カヴィナが驚愕の目でキサを見る。

 今までいなかった彼女の姿を見て、全てを察したのだ。


「私たちがここに来るように仕向けたのも、魔物の村なんて作ったのも、策略だったんだな!

 勇者をここに呼びつけて、集団で戦い続けたのは全部、時間稼ぎだったのか。

 王城を攻め落とすための、陽動」

「そのとおりです。そして、あなたたちはその作戦にかかった。結果、王様は私たちの領土を約束してくれている。

 だから、これ以上戦う意味はないと言ったのです」


 なんてことだ。

 カヴィナはエグリの言うことを理解して天を仰いだ。確かに、全く確かに。これ以上争う意味が全くない。

 戦えばそれは、王命を無視していることになる。自らを不利にするだけだ。

 この書類が偽造されたものであるという可能性も、低い。王の文字だ。勅命にしか記されない王の名や、印もそこにある。魔物たちがこれを知っているなどということは考えにくいことだった。

 つまり、ホンモノだ。疑う余地はない。


「引き返すしかないようだ。ハーディ、戻ってから考えるべきだろう。

 ここは余計なことをするなよ」

「わかった」


 非常に悔しそうに歯噛みをし、それでもどうにもならないことはわかったのか、しぶしぶと頷く勇者ハーディ。

 彼を連れて、カヴィナはその場を去っていった。当然、国王本人に事情を聞いて、事実確認をするためだろう。

 この場での戦いは、終わったといえる。

 夥しい数の犠牲者をだし、その場に死体を残し、魔物の村での攻防は終わった。


「エグリさま」

「ああ、わかっている」


 ひとまず、それほど損壊していない死体には分体と魔力を吹き込み、同族として蘇生させる。生前の記憶は引き継がないが、戦力として一族として、大いに役に立ってくれるだろう。

 エグリとキサはその作業を行った後、全軍を集めて戦後の処理に当たる。

 蘇生できない死体を埋葬し、破壊された施設などを修復する。すべきことは多かった。


「ここで勇者を倒せなかったことは、無念だ。ぼくの作戦が奴らの力に及ばなかった結果だろう。

 多数の犠牲者を出しながらこの失態、申し訳ないとしかいえない。

 だが次善の策として、ゴージャス王国を屈服させることは成功した。これでみんなの安全は約束された」


 生き残った魔物たちにエグリはそのように説明した。

 恨みのある勇者を殺せず、しかもその機会をほぼ失ってしまったのだから抵抗があるかと彼は予想していた。しかし、それはむしろ少数派であった。実際には勇者の力を目の当たりにして、彼を直接的な手段で倒そうとするのはむしろ愚策だと悟った魔物が多く、搦め手を突いて戦略から勝利したエグリを高く評価する声が大きかった。

 無論、直接王城を攻め落としたキサもその一人である。


「エグリさまの作戦勝ちです。勇者は二度と我々に手出しできないでしょう。

 誰にも文句は言わせません。我らの勝利です」


 彼女は、笑ってそう言った。

 エグリの目的はほぼ果たされていたからだ。一族の再興、旧領の確保。

 勇者への復讐という一点においては不十分なところもあるが、彼が掲げていた目標は既に達成しているといえた。だからこそ、勝利宣言だったのだ。

 だが、エグリはキサの言葉に頷きはしなかった。


「いや、戦いはむしろこれからだ」


 彼はそう言い切って、村の復旧作業に加わりに行く。その背後を、ソールが追いかけるように走っていった。

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