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第三話:逃走者level?

お待たせしました、第三話になります。


とある第二王女が命がけで逃走劇を繰り広げている頃である。

王女が逃げ込もうとしていた城の中でも、一人の少年が人生をかけた鬼ごっこを繰り広げていた。


「見つけたぞ!」


そんな言葉と共に追手が増える。

少年、千条海里は何も考えずに、ただ前へ前へと足を動かした。


「逃がすな! 何があろうと城内で捕えろ!」


その言葉は何度聞いたか、そんな気合いの入った声が上がるたびに追手の闘志やら殺意のようなものが膨れ上がるのだ。

追手は西洋風の甲冑か軍服を身にまとった厳つい男達である。

捕まったらどうなるかなど、あまり考えたくなかった。

何故こんな事になったのか、走りながらそんな事を考え、あのそそっかしい神様モドキのせいだったな、と思い至る。


『だあれが神様モドキじゃ!』


不機嫌そうな声が幼い少女の声が頭に響く。

こんな修羅場に少女なぞいる訳もなし。

幻聴。

頭の中でそう処理して、鬼ごっこを継続した。


『おい聞け! 確かに妾に落ち度はあったが神様モドキだけは聞き捨てならんぞ!』


まるで自分で考えたかのように思考の内側に響く声。

声は神様モドキと称されたフレイアのものなのだが、本人の姿がまったく見当たらない。

と、唐突に、これまた自分が何かの景色を頭に思い浮かべたかのように、フレイアの顔が思考の中にデカデカと浮かんでくる。

ゲンナリだ。

眉間に寄せられた眉毛に、釣り上がった目じり。いかにも不機嫌そうな顔をどアップで見せつけられるなどたまったものではない。


(うわっ)

『あ、今うわって思ったな! 乙女の顔を見てうわって思ったな!』


思っただけでこれである。

海里は走るのを止めて頭を抱えそうになった。

フレイアは海里の頭の中にいるのである、無論、脳味噌の中に巣くうというグロテスクな意味ではなく、精神的な意味で。

謎だった。

彼女は海里に、偉い神や仏が夢枕に立つようなものだと説明したが、しっかり目が覚めている状態で夢枕に立つとは一体どういう事なのか。

ともかく、物質的なしがらみと、海里なりの常識を超越し、フレイアは彼の精神にとり憑いているのだ。

恩恵と言えば、この世界の人間の言葉が聞き取れるようになった事と、神の加護とやらで身体能力が向上したくらいか。

フレイアは誰が何を言いたいのか言葉を介さずとも分かるらしいのである。そうでなければ祈ってもらっても気づいてやれん、とフレイアは言い、そのフレイアと精神を共有している海里も言葉がある程度は分かるようになる、そのような海里本人にもよく分からない理屈であった。


『神様に接する態度としても、女子に接する態度としても、お主は……』


続くありがたくもない説教に、海里は無視を決め込んだ。

背後にじりじりと迫ってくる大勢の圧力を感じながら、突き当たりの角を猛スピードで曲がる。途中、メイドとすれ違う事もあったが、今の彼にそんな余裕などあるはずもなかった。

中世ヨーロッパ風の庭園を全力疾走で駆け抜ける。

が、曲がった角の先には今一番見たくない光景が広がっていた。


(……うぇ!?)


行く手には人、人、人。

先回りした追手が海里を待ち構えていたのである。


「術師隊かまえ!」


前にいる追手の一人が、そう大声を上げる。

一斉に集団が動き、剣とは違う、鉄でできた杖のような物を向けてきた。

そして先のフレイアが発したような違和感。

迷わずUターンする。

直後、方向転換のために立ち止まった場所が爆発した。


(いいいええええ! マジか!?)


フレイアといい、皆、平気で魔法などを使ってくる。

何と言うファンタジーか。

出来る事なら同じファンタジーなら可愛らしい妖精など、もっと平和な存在に出会いたかった。

爆発は連続して海里に迫ってくる。ちょうど人間一人を包めるくらいの炎が迫ってくるのだ。たまったものではない。

冷や汗を流しながら走る海里の目に石壁に隣接した階段が飛び込んだ。

前からは屈強な野郎共、後ろからは自分を黒コゲにすべく凶悪な魔法が近づいてくる。

迷う間もなく、海里は階段を駆け上った。


「上だ! 逃がすな!」

(逃がしてくれっ!)


泣きたい。そう思った。

外傷はなかったが心はボロボロである。何が楽しくて野郎共と鬼ごっこに興じねばならないのか。

心の奥で大粒の涙を流しつつ、やっとの思いで階段を登りきる。

そこで海里の足が止まった。

眼前には胸の高さまでの塀、その先には見た事もない西洋風の石造りの町並みが広がっている。今、海里がいる場所は街と城を隔てる城壁の上であり、相当な高さがある。

そして先程と同じような、甲冑を身につけた衛兵が、海里を取り押さえるために左右から傲然と迫ってきていた。

逃げ場が無い。

後ろは階段、牢屋からずっと追いかけてきている男達が登ってきているだろう。

鬼ごっこに終わりが見えた。


(なあフレイア)

『何じゃ、さっきから妾の話を無視しおってからに……大体お主は他者に対する敬意と言う物が欠け』

(お前に言われたくないな、うん、でも、もういいや)


馬鹿な会話なんてしていないで、もっと建設的な事を考えるべきだった。

後悔した時には、すでに追手は海里を射程にとらえ、三方から槍を突き付けているところであった。

お前は完全に包囲されている、そんな言葉を投げかけられる犯罪者の気分を味わっていると、追手の中からリーダーらしき者が歩み出てきた。


「牢屋を爆破し、我らからここまで逃げおおせた事、驚嘆に値する」


確かにその非常識さは驚嘆に値するだろう。


「投降せよ。抵抗しないのならば、命まではとらぬ」


はたして本当だろうか?

無抵抗になったと見るやバッサリなんて展開がありそうで怖い。


「返答はいかに!」


リーダーが急かしてくる。

突然増した圧力に、海里は思わず両手を上げそうになった。

こんな状況で断固として拒否できるような精神力を、彼は身につけていない。


『待てい』


止めたのはフレイアの声だった。

溜め息でもつきたそうな声色である。


『そうそう簡単に諦めてくれるな、捕まってまた牢屋行きなんぞ、妾はご免こうむる』

(逃げ道もない、打開策もない、こんな状況でどうしろと!)

『何? あるじゃろ、逃げ道』


不思議そうに逃げ道と言われ、周りを見回した。

右に男、左に男、前に男である。


『後ろじゃ後ろ』


その瞬間、なんとなく体の制御が奪われたと感じた。自分の意志とは関係なしに首と目が後ろを向く。

先には塀があり、その下は……、

まさか、海里はそう思ったがフレイアはただ一言だけ告げた。


『飛べ』


リモコンを取ってこい、それくらいの気安さで言う。


(お前は俺に死ねと申すか)

『ああ? なんじゃこの程度で、大した高さじゃなかろうて』

(どんなフィルター通したら大した高さじゃないなんて言えるんだろうね、この子ときたら!)

『何じゃ? まさか怖いのか? まったく大の男が情けない、誇り高き侍の血はどこへ行ったのか』

(いや侍関係ないから! 死ぬから!)


海里達が言いあう内に、甲冑から覗くリーダーの目はますます険悪な色を帯びてくる。

今にも剣を抜いて斬りかかりそうな勢いである。

海里にしても我慢の限界だった。今まで生きてきた十六年間、こんな危険な意思を向けられた事は無い。


「返答は! いかに!」


最後通告と言う意思を込めたリーダーの大音声。

しかしタイミングが悪かった。上げようとした両手は寸前で止まり、頭の中が真っ白になる。

そして、それが運のつき。無論、海里のである。


『行くぞ海里! 飛べ! むしろ飛ばす!』

(え、あ? おい!)


肉体を動かすのが精神であるならば、それにとり憑いたフレイアが、海里の体を動かせぬ道理が無い。

海里の思考が止まったのは絶好のチャンスだった。

彼の身体は本人の意思とは無関係に、残像すら残る速度でリーダーに背を向け、数歩分ある塀までの距離を一息に飛び越える。

その先は、もちろん空中。

スローモーションになる視界。散々追いかけてきた兵士たちが驚く顔が見えた。海里の目から一滴の涙がこぼれた。


『何、心配はいらん』


心なしかニヒルな笑みを浮かべ、フレイアは海里に言う。


『お主には、神の、妾の加護がある』

(それが一番心配なん……ああああああああ!!)


ツッコミは途中から悲鳴に変わり、二人は真っ逆さまに落ちていった。





♢♦♢♦♢♦


夕暮れ時にどこからか城内に侵入してきた少年を捕まえた。

少年とはいえ規則は規則、現在は隣国との関係悪化の件もある、と牢屋に拘留する事になったのだ。だが、それでもやはり年若い少年なのである。

捕えた時はまったくの無抵抗であったし、困惑する素振りすら見て取れた。その場にいた衛士達の誰もが、間諜の類ではないと、頭のどこかで思っていた。

黒目黒髪黒服、どこか大陸の人間ではないような風貌の少年。

服装以前に黒目黒髪と言う容姿が珍しい。実際、城内の衛士達は、生まれてから一度もそのような容姿の人間を見た事が無かった。衛士長は、そのような目立つ人物なら街の防護壁の門をくぐる際の検問から漏れる事はないだろう、と門へ部下を走らせたのである。

検問所でまとめられた書類から、少年に関する記述を探し、彼の身元が割れ問題ないと判断でき次第、厳重注意の後解放するつもりであった。

それが、まさか、こんな事になろうとは、誰が予想しただろうか。

牢が爆破されたという知らせは、すぐに城内の兵士全員が知るところとなった。

いち早く駆けつけた兵士が見た物は内側から崩れ、砂ぼこりを巻きあげる変わり果てた牢の姿、そして、その中から現れた黒髪黒目の少年の姿であった。

牢の造りは頑丈だ。魔法使いを収監する場合を考え、魔術魔法の類を無効化するように造られている。物理的な面もまたしかり、個人で用意できるありとあらゆる脱出の手段を封殺するために、この牢はあるのだ。にもかかわらず、発生した事態に、兵士達は何を思ったのだろうか。

何故か、と冷静に状況を把握したのだろうか。

予想外の事態に狼狽したのだろうか。

いや、どれも違う。

彼らにそのような余計な考えを抱く余裕など、微塵もありはしなかった。

誰もが、破壊の中心より現れた少年から目を離せなかったのだ。

黒髪黒目黒服、容姿格好はまったく変わっていない。

しかし、彼らはその時目の前にした少年と、自分達が捕えた少年が同じ人物とは到底思えなかった。

皆、伝説級の竜に相対しているかのような、膨大な魔力を感じ取った。

牢にかけられた魔力的な枷を凌駕して余りある。まるで少年の身体の内に、別の何かがいるのではないかと思わせる巨大な力。

衛士長の一喝が無ければ彼等はいつまでもその場で動けずにいただろう。

やがて動き出した兵士達に背を向け、少年は走り出した。

が、少年は驚異的な身体能力で兵士達を引き離し、精鋭ぞろいの術師隊の法撃ですら、掠り傷一つ負う事なく潜りぬけるという曲芸じみた真似をやってのける。

追う兵士達は少年の背中が、やろうと思えばいつでもお前達を始末できる、そう言っているようにも感じた。

城壁の上で少年を追い詰め、三方から剣と槍を向けたその時でさえ、彼等は『勝った』などとは微塵も思わなかった。

衛士長が投降を勧めても、少年は表情一つ変えず、ただ強い眼差しで周囲を見回すのみ。普段は冷静沈着である衛士長の額にすら汗が浮かぶ。

だからこそ、その場にいた兵士達は皆が目を疑った。


「馬鹿な……!」


人の胸ほどの高さの塀の向こうに、黒い影が消える。

少年が城壁の外へとその身を投げた事を、誰も現実の出来事として認識する事が出来なかった。

何故、と思う。

あの少年は圧倒的な力を持つ魔法使いではなかったのか、と。

誰よりも早く正気を取り戻した衛士長が塀に駆け寄り、城壁の外へ落ちたであろう少年を目で追った。

月の光は雲に隠され、真下にはただ夜闇が広がっていた。

そして、その中でなお見失わぬ、闇よりもさらに黒い双眸。


「何なんだ奴は……」


衛士長が思わず口にした言葉。

少年は生きていた。

雲が晴れ、月の光が蘇る。

淡い光の下にさらされた少年は怪我を負った素振りも無く、何も変わらず、何の感情も見せず、ただ城壁の上の兵士達を見上げていた。

やがて彼は興味を失ったのか、すぐに背を向け走り出す。


「捕えるぞ」


衛士長は言う。


「何としても奴は我らが捕える! 目標は凡百の敵兵にあらず! 衛士隊は中央通りから圧力をかけろ! 術師隊は私と共に奴を追う! ぼさっとするな! 走れ!」


夜の逃走劇は、まだ終わらない。





♢♦♢♦♢♦


結論から言えば無事だった。

神の加護とやらは人が粉々になる程度の衝撃を、たんこぶが出来る程度に抑えるくらいの効果はあるらしい。

海里は民家の間を走りながら思った。


(何で俺がこんな目に会ってるんだろうなぁ……)


城壁の上からリーダーが物凄いというか、形容しがたい凄まじい形相で見下ろしてきたのを思い出すと、どうしてもそう思わずにいられない。


(まあ、どう考えてもアレだな)


アレ。

頭の中に巣くうアレ。異世界行きの原因になったアレ。人の頭の中でオラわくわくすっぞとでも言いたそうな雰囲気を醸し出しているアレ。

アレがいなければタバスコの辛さで一晩悶絶したのち、新しく希望に満ちた高校生活が始まるはずだったのである。

それがどうして見知らぬ土地で牢屋に放り込まれ、野郎どもに追いかけられるなどという新しいは新しいが希望の欠片も見つからぬ逃避行に走らねばならんのか。

眉間に手を当てて海里は頭を振った。

考えてもどうしようもない事だ。

第一今はそんな余裕など皆無に近い。追手の姿は見えずとも、リーダーの顔を思い出すと余裕など消えてなくなる。捕まればスパッとやられる、海里はそんな予感がした。

自然と動かす足が速くなる。

急げ急げと、急がねば命にかかわる……かもしれない、と。

そんな事を考えた時である。


『ん~……ふあぁ~あぁ』


どこぞの馬鹿女神の欠伸の声が聞こえた。

そして自分自身の堪忍袋の緒が切れる音が聞こえた。


(何を人の頭ん中で大口開けてアホ面さらしとんじゃボケゴルァァアアアアアア!!)

『むぁっ!? 何じゃいきなり大声で!』

(何それ!? ねえ何それ!? 寝てたの!? お前俺が今必死に逃げてる間寝てたの!?)

『いんや、張り切って力を使いすぎたら疲れたというか』

(この駄目神)

『……あぁん? 今なんつった?』

(聞こえなかったのか、ああ? 何度でも言ってやんぞコラ)


両者ともに互いの琴線に触れたらしい。

頭の中で激しい言い争いが始まる。


『だぁれが牢屋の中から出してやったと思っとるんじゃ! こっちが悪いなと思ってたら頭をビシビシバシバシ!』

(やっかましいわ八割方お前のせいであんなんなってんだろうが自覚症状すらねえのかスカポンタン!)

『ドSか! ペドでサディストか! いたいけな幼女に暴力をふるう事に喜びを覚える変態か!』

(黙れ! 俺にはそんな性欲は無い! 自意識過剰にも程があるわ自称女神!)

『あ!? 自称って言ったな! 正真正銘の女神に向かって自称言いおったな! 喧嘩売ったな! 買ってやるわ神の名にかけて! 覚悟は出来ておろうなぁあ! 特徴皆無の昼行燈系男子がぁあああああ!!』

(おおおおーっ! 言ったね!? 昼行燈って言ったね俺の事! 上ッ等だテメエ! 神だ神だ言うんだったら証拠見せてみろや神様モドキゴルァァアアアア!!)


堪忍袋が他人に見えるなら、おそらくその袋は紐が切れたどころか原形すら留めずにズタズタになっている事だろう。

何ともいえぬ雰囲気が二人を包み、


(この駄目がウボァ!)

『この昼あんどムギャ!』


グシャリ、と。

そんなグロテスクともとれる音が、路地裏に響き渡った。


「――――――っ!!」


走っている最中に考え事をするものではない。

海里は目の前に迫る民家の壁に気付かず、そのまま顔から突っ込んだのである。

城壁から落ちた時のように、心の準備が出来ているのといないのではまったく違う。

声にならぬ叫びをあげて海里は地面を転がり、また近くの壁に出来たてのたんこぶをぶつけて悶絶する羽目になった。


(……痛い)

『こんのド阿呆……前も見ずに走る馬鹿がどこにおる……!』

(あ、お前も……?)

『頭ん中にいるんだから当然じゃろうがボケ! アホ! 変態!』


痛む頭を押さえながら、地面に横になったまま空を見上げる。

溜め息が出てくるのを抑えられなかった。

思わぬ出来事に水をさされ、急速に怒りが冷めていくのを感じた。


(アホらしい)

『ああ、本当にアホらしいの』

(どこだここ?)

『知るか、妾にだってわからんわ』


海里はガリガリと頭を掻きながら立ち上がる。

周りにいくつか木箱が置いてあるのを見つけると、それを積み上げ始めた。


『何をするんじゃ?』

(上に登れば城からどの辺にいるかくらいは分かるんじゃないか、と)


木箱の位置を少しずつずらし、足が置ける場所を作る。

若干バランスが悪いがすぐには崩れない程度にしておいた。

つま先が引っかかるくらいの足場に乗り、おっかなびっくりといったように木箱を上へ上へと登っていく。


(追手に見つかったりしないかな)

『ここにいたって見つかるじゃろ、腹くくれ』

(へいへい)


最後は高さが足りず、ジャンプで屋根へと飛び乗った。

人の家の屋根に勝手に上がり込んだ事に罪悪感を覚えつつ、周囲をぐるりと見回してみる。

先程走ってきた方向には例のごとく城と城壁。

夜闇の中ですら大きさが分かる壮麗な城であった。反対側には城を囲む城壁以上の高さを誇る防護壁が見え、白い石畳の町並みを両断するように広い通りが走っているのが見えた。

だがしかし、


(場所はわかったが、どこに逃げればいいのかまったくわからん)

『意味が無いではないか』

(まったくだ)


むしろ街が広すぎてどこに向かえばいいのか見当もつかなくなった。

もう一度眉間に手を当てて頭を振る。


『おい』

(何だ)

『前を見て歩かんかド阿呆』

(あ)


フレイアが警告した時にはすでに遅かったのである。

歩き出した海里は、思い切り足を踏み外して、屋根の上から墜落した。

また落ちるのか、そう思って涙を流しそうになる。

だが、海里の目から滴がこぼれる前に、何か足に感触があった。


グシャリ、と。


壁にぶつかった時と同じような音が響く。

何かを踏んだ。

冷や汗が出てくる。アレ、何だろうこれは、そう思っていると足元からくぐもった声が聞こえた。

冷や汗がさらに増えた。

軽く震えながら周りを見回すと、三、四人の黒ずくめの男達が、自分を取り囲んでいるのが見える。

後ろを見れば、震える少女が一人。

どこかで見たような気がしたが、どこで見たかは覚えていなかった。

そして、下を見ればやはり、というか、男達の仲間であろう誰かが目を回していた。


「運が無いな」


海里はボソッと思った事を口にしていた。

追いかけまわされた事といい、二度も高い所から落ちた事といい。


「本当に運が無い」


きっと後ろにいる少女の事も驚かせてしまったのだろう。

もちろん下にいる男もそうだ。

少女の方を向いて言う。


「俺も、君も、こいつも」


その時、海里は自分の言葉遣いに違和感を感じた。

自分の口から出てきたのに、自分の言葉ではないような。

自分が言った言葉を、英語に訳して、さらにそれをまた日本語に直訳したのを聞かされているような違和感だ。


「何者……」


男達の一人が海里に聞いた。

抑揚の無い声だ。

きっと怒っているのだろうと海里は感じた。それはそうだろう、仲間が突然見ず知らずの誰かに踏みつけられたら誰だって怒る。

出来るだけ穏便に済ませようと、瞬時に言い訳を考え、口を開く。


「名乗る名は無い、失せろ」


空気が凍った。























感想でいくつかご指摘をいただきましたが、更新は続けていこうと思います。

ご指摘の通り、私は無責任が過ぎました。趣味で書いていたとは言え、ここまで付き合って下さった読者の皆様に大変失礼な事をしていたと思います。

申し訳ありませんでした。

現状では学業とアルバイトなどの生活面を優先せざる負えず、更新頻度は一週間に一度というペースに収めるのは難しいと考えています。夏季休暇が始まるまでの間、一話を仕上げるのに二週間から三週間ほどお時間をいただく事になりますが、何卒、ご容赦願いたいと思います。

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