室生 陸 という男
一月の下旬。私の住んでいる地方では、黄色い蝋梅の花が咲き、続いて万作の花が咲く。 春の訪れは黄色い花が知らせてくれる……私はそう思っている。
室生本家のお屋敷にはたくさんの木や花があるので、全く退屈しない。いつまでも見ていられるは…ず…なの...に……。
「あぁ、暇だな。ハザマでも来ねぇかな。来たら遊んでやるのに」
休暇中の御影様が、スケッチをしている私の横でぼやいていた。
すると、廊下をつかつかと歩く足音が近づき、襖の前でピタリと止まったかと思うと――
ぱあああぁぁぁぁああんっ!
勢いよく片方の襖が開け放たれた。 そこに立っていたのは、片手にMacBookを持ったハザマ様だった。彼は無表情のまま、静かに御影様へ問うた。
「御影、お前か? オカルト板に『結界師だけど質問ある?』というスレを立てた奴は」
「あぁ、俺だけど? なに、自分の立てた『霊能者だけど質問ある?』より勢い率が上だから文句言いに来たわけ?」
某匿名掲示板では、人気は投稿数で決められるわけではない。一定の時間にどれぐらい多くの投稿がなされるか――「勢い率」なるものが表示される。
勢い率の高さが、人気のバロメーターとされる。
どうやらハザマ様がスレ主であるスレッドよりも、御影様のスレッドの方が人気らしい。
「お前のスレに、陸らしき奴が降臨してるぞ」
「なにっ? 俺のスレに陸が!? やべえ、アイドルの座を奪われちゃうぜ!!」
私はこのやり取りを見て、(この屋敷の上位存在は、ちゃねらーしかいないのだろうか……)と呆れながら眺めていた。
匿名掲示板における「スレッド(スレ)」
特定の議題,語りたいテーマごとに見出しを作ることができる。
1つの話題に対してユーザー同士が会話をしていく仕組み。議題を立てた人のことをスレ主という。
この匿名掲示板を愛用する人の事を『ちゃねらー』と呼ぶ。




