初音、室生家に奉公す
この物語は『余次元住まいのハザマ様! ーハザマ編ー』の続編となっており、人間関係はハザマ編,湖西 尊編を読んでいただけると、なお一層理解が深まります。
室生 初音: 地方の芸大生
湖西 尊: 初音の幼馴染。同じく芸大生
ハザマ様 =室生 透青
室生家の巫覡をしている。
中の人は月島 秀青で、彼は死んだ事になっている
大学三年の後期は、ぽっかりと時間が空くことになった。 ――というのも、私は去年、秀青さんの死が原因で三年生前期の単位を落として留年してしまったからだ。
留年してやり直した今年の前期で、ようやくその単位を挽回することができた。後期の単位は去年すでに取得済みなので、これからの半年は授業に出なくていい。
時間が出来たこの後期は、鬼のようにアルバイトを頑張って、大学資金を両親に返そうと思い立った。
「良いアルバイトないかな?」 とずっと探していたら、本家の惟光さんから実家に電話があったらしい。
本家の内孫さんの一人が海外から帰って来るので、身の回りの世話や掃除などをするアルバイトを探しているのだという。あの家に入るには誰でも良いというわけではなく、全くの他人を入れるより、長年のお付き合いをしている身内しか入れたくないとのことだ。
母は少し言いにくそうに教えてくれた。
「条件は悪くはないんだけど……その帰ってきた内孫さんというのは、あの御影様なのよね」
「あー……。律様なら抵抗なく話せるけど、御影様はねぇ……」 私の心はスッと沈んだ。
御影様は冷たくて辛辣なイメージがあり、内孫三人衆の中で一番とっつきにくい方なのだ。
でも、以前あのハザマ様が『御影より律の方が怖い』と言っていたのを思い出す。その真相を見てみたいという好奇心もあった。
私は取り敢えず本家に行くためアポイントを取り、思いきって面接に向かうことにした。
――数日後、本家に到着した私は、さっそく惟光さんに御影様の事を相談した。
「あの……御影様のお世話なんて、私に務まるでしょうか? ええと、お役目様のお孫さん三人の中で、一番コミュニケーションが取りづらそうで……」
すると、惟光さんは穏やかに微笑んだ。
「一見、酷く辛辣な方に見えますが、中身はそうでもない方なのです。根気よく深く知ろうとすれば、癖になるほど興味深い方だと思いますよ。あの気難しいハザマ様と長くお話しできる初音様なのですから、あなたにしかできないと思いまして」
「えっ?? ハザマ様はコミュニケーション能力も高くて、とてもお話ししやすいですよ?」
私が驚いて聞き返すと、惟光さんは静かに首を横に振った。
「初音様にはお話しをされるかも知れませんが、私どもにはそうではありませんので……。用件以外の事は一切話されませんね」
なるほど、人によって態度が違うのか。
「わかりました。惟光さんの御影様に対するご意見は信頼しています。雇っていただけますか?」
「もちろんですとも、初音様」
参考図書 : 「生き神信仰 人を神に祀る習俗」宮田登 著




