↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/67

13 レベル上げ

その日を境に、レインたちの行動は少しずつ変わっていった。以前と変わらず薬草採取の依頼も受ける。生活のためだ。家へ金を入れなければならない以上、それを完全にやめることはできない。だが、それだけではなくなった。依頼を選ぶ基準が変わったのだ。以前なら安全性と報酬を優先していた。少しでも危険な依頼は避け、確実に終わらせられる仕事を選ぶ。それがレインのやり方だった。だが今は違う。報酬よりも経験値、その考えが頭の中にあった。チビをレベル10まで育て、融合の条件を満たす。その目標ができたことで、今まで見向きもしなかった依頼にも自然と目が向くようになっていた。


迷宮探索も続けた。とはいえ毎日行けるわけではない。迷宮は遠く、徒歩で半日近くかかる。乗合馬車を使えば楽だが、その金が惜しかった。結局、迷宮へ行くのは数日に一度。その度に朝早く出発し、一階層を中心に探索する。ホーンラビットを倒し、甲殻亀を倒し、ダンジョンラットを倒す。戦いにも少しずつ慣れてきた。最初は魔物が飛び出してくるだけで緊張していたリリアも、今では落ち着いて支援魔法を使えるようになっている。レインも以前より短剣を振る機会が増えた。


もちろん危険はある。何度か怪我もした。甲殻亀の突進を避け損ねて転がされたこともあれば、ホーンラビットの角で腕を掠められたこともある。その度にリリアが治療し、二人で反省した。それでも一歩ずつ、確実に前へ進んでいた。


迷宮へ行けない日も無駄にはしなかった。都市近郊の森で行われるゴブリン討伐依頼、それも積極的に受けるようになる。ゴブリンは薬草採取より危険だ。だが一体倒した時に得られる経験は比べ物にならない。最初の頃は一体相手にするだけで必死だった。木々の間から現れる緑色の小鬼、粗末な棍棒、汚れた短剣。決して強い魔物ではない。だが油断すると怪我をする。レインたちは慎重に戦った。チビが敵を見つけ、レインが前に出て、リリアが支援する。連携も徐々に形になっていく。


ある日、三体のゴブリンに同時に遭遇したことがあった。木々の隙間から緑色の影が三つ、揃って姿を現した瞬間、レインは思わず息を呑んだ。これまで相手にしてきたのは、多くても二体までだった。数の違いは、想像していた以上に重くのしかかってくる。


「チビ、一体だけ引き付けてくれ!」


「キュッ!」


チビが素早く飛び出し、一体の足元を駆け抜けた。注意を引かれたゴブリンがチビを追い始める。残る二体はレインとリリアへ向かって棍棒を振り上げながら迫ってきた。


「リリアさんは下がって!」


叫びながら前へ出るが、二体を同時に相手取るのは初めてだった。一体の攻撃を短剣で受け流したところへ、もう一体が横から棍棒を振り下ろす。


「くっ……!」


咄嗟に身を捩って直撃は免れたものの、肩を掠めた衝撃で体勢が崩れた。地面に片膝をついたレインの視界に、追い打ちをかけようとする棍棒が映る。


「危ない!」


リリアの声と同時に、投げられた石がこめかみへ命中した。よろめいた隙にレインは体勢を立て直し、短剣を突き出す。一体を仕留めた直後、チビを追っていたゴブリンが痺れを切らしたのか、こちらへ向きを変えて突進してきた。


「三体同時は、さすがにきついな……!」


歯を食いしばりながら短剣を構え直す。息が上がり、腕も重い。それでも足を止めるわけにはいかなかった。チビが横から飛びかかり、ゴブリンの視界を遮る。生まれた一瞬の隙を突いて、レインは最後の一体を仕留めた。


戦闘が終わった時には全員息を切らしていた。レインの腕には浅い切り傷があり、リリアも魔力切れ寸前だった。それでも達成感は大きかった。薬草採取だけでは味わえない感覚だった。ギルドへ戻る帰り道、疲労で足が重い。それなのに不思議と気分は悪くない。


「前より強くなってる気がします」


ある日、リリアがそう言った。森からの帰り道だった。夕日が木々の隙間から差し込んでいる。レインは少し考えてから頷いた。


「俺もそう思います」


実際、以前なら苦戦していた相手に余裕が生まれていた。戦い方も分かってきたし、呼吸も合わせられる。経験とはこういうことなのだろう。派手な変化ではない。だが確実に積み重なっている。


そして何より、チビの成長が目に見えていた。迷宮、ゴブリン討伐、薬草採取の合間の戦闘。それらを繰り返すうちに、チビは以前より動きが鋭くなっていた。敵を見つける速度、回避する動き、噛み付く力。全てが少しずつ向上している。


レインは時々思う。あとどれくらいだろう、と。レベル10、融合の条件、あの日隠し部屋で得た力。焦るつもりはない。だが期待はしていた。もし融合が成功したら、チビはどんな姿になるのか、どんな力を得るのか。それを考えるだけで自然と足が前へ出る。薬草採取だけを繰り返していた頃にはなかった感覚だった。


毎日は相変わらず地味だ。派手な戦いもない。大金も手に入らない。それでもレインたちは進んでいた。少しずつ、本当に少しずつだが、冒険者として前へ進み始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。