14 怖いという本音
「迷宮へ行くんですか?」
後ろから声がした。レインは少し驚いて振り返ると、そこにはリリアが立っていた。依頼報告を終えたばかりらしく、受付の方から歩いてきたところだった。
「ああ」
レインが頷くと、リリアは申し訳なさそうに笑った。
「聞こえてました?」
「少しだけ」
「盗み聞きするつもりじゃなかったんです」
「別に秘密じゃないですから」
「だから迷宮なんですか?」
そう尋ねられた瞬間、レインの胸がわずかに跳ねた。本当は違う。幼い頃から迷宮の話に憧れ、ギルドの資料室で攻略記録や地図を眺めては、いつか自分も深層へ辿り着きたいと夢を膨らませていた。そんなことを口にするのは、何だか子供っぽくて気恥ずかしい。それに、弱いテイマーが夢ばかり語っていると思われるのも嫌だった。
レインは少しだけ間を置いてから苦笑した。
「結局は、お金です」
リリアは少し驚いたように目を瞬かせ、それから柔らかく笑う。
「現実的なんですね」
「夢だけじゃ食べていけませんから」
レインは腰の短剣を軽く叩いた。
「こいつもそろそろ限界ですし、家にも仕送りしないといけませんから」
リリアの表情が少し真面目になる。
「危ないですよね」
「だから稼がないと」
「迷宮は危険ですよ」
「知ってます」
レインは静かに頷いた。危険なのは十分理解している。それでも、このまま薬草採取だけを続けていても何も変わらない。
「このままでも変わらないんです」
その言葉に、リリアはしばらく黙り込み、やがて小さく息を吸い、少し照れたように笑った。
「実は……私も迷宮に興味があるんです」
レインは目を瞬いた。
「本当に?」
「はい」
リリアは真剣だった。
「私も成長したいんです。回復しかできなくても、もっと役に立ちたいです」
レインは少し考える。同じなのだと気付く。悩みは違っても焦りは同じだった。
「でも一人で行くつもりはありません」
「まだ怖いので」
その言葉に少し安心する。
「それが普通ですよ」
「レイン君は?」
「怖いですよ」
即答だった。
リリアは驚く。
「怖いんですか?」
「もちろん」
「死にたくないですから」
それを聞いてリリアも笑った。強がりではなく本音だった。
その時、ギルドの入口が少し騒がしくなる。視線が集まると、装備を傷だらけにした冒険者たちが入ってきた。荷車にはゴブリンの耳や魔石が積まれている。迷宮帰りだった。レインとリリアは無言でそれを見つめる。危険、報酬、経験、成長。その全てがそこにあった。そして二人は同時に思う。迷宮は、もう遠い場所ではないのかもしれない、と。




