最終話 転生ラミアとヒトの子のシアワセな生活
今日もまた、夜が来た。
平凡で平和で、なんにも珍しいことのない一日が終わった。
昨日もおとといも、おそらくは明日も明後日も、なにも変わらない日を過ごしていく。
面白かったことといえば……先日生まれた豚の子が、山羊のエサを奪おうとしてシエルに怒られてたくらいかな。
豚と違いアクティブな山羊は、エサを切らせると遠くへ行ってしまう。シエルが必死になるのもわかるけど、彼はぼんやりシルエットしか目が見えないものだから、全然ちがう豚に向かって説教してた。
エエッ俺ですか? てな顔をした豚が、おかしくておかしくて。
今日一日、なんど思い出し笑いをしただろう。わたしはくつくつ、ベッドで笑った。
――あれから、もう一年の月日がたつ。季節は一周し、森にはふたたび、秋のにおいが満ちていた。
十一歳になったシエルは、いくぶんたくましく背も伸びて、細長い手足を折りたたむようにして眠っていた。今日もよく働いたものね。深い眠りにおちているようだった。
わたしの体――なめらかな鱗、ほんのすこしだけひんやりとした蛇の脚に、しがみつくようにして。
わたしは彼の髪を撫で、穏やかに微笑む。
「おやすみシエル。また明日」
こんな生活が、いつまで続くのかはわからない。
だけど一日でも長く、一時間でも多く……こうして彼と生きていたい。
うとうとしかけたところに、声が聞こえた。
――ばんわー、ひさしぶりっ。起きてるー?――
女の声だ。
――やあ、いろいろごめんね。あたしってば取り違っちゃって――
――だってほら、下半身が蛇になりたいなんてややこしい言い方するからさあ。
――ほんとごめん。今度はちゃんとするからね。準備はバッチリよ。チートで無双する勇者でもハーレムキングでもお望み通りにやり直しさせてあげるわ――
――ねえ、生まれ変わるなら、何になりたい?
わたしは答えた。
「蛇妖女にしてくれて、ありがとう」
お読みいただきありがとうございました。