87話
新しい名前がめっちゃ出てくる……できるだけ覚えやすいやつにまとめたつもりですが、めんどくさかったら最悪エルツィアとソリステラ以外は頭からポイしちゃってください。
◇
アーニャたちと蜂蜜を食みながら時間を潰して暫し。
いよいよ貴族と会う時刻になり、謁見の間でリフィーズ立ち会いのもと対面した。
2つの家でそれぞれ固まっているようで、まずはエルツィアの家が名乗りを寄越してくる。
「お初にお目にかかります。私はソウェニア王国三柱がひとつ、『財』を担いしファースアル家当主、バイラム・ファースアルと申しまする」
「そしてその妻、セルビア・ファースアルと申しますわ」
「嫡男、ウリガイ・ファースアルでございます」
「その妹、フォルセカ・ファースアルですわ」
禿げた頭の男に、ベージュ色の髪を肩から前に流した女。
続いてツンツンボサボサとした薄茶色の髪の男と、ベージュ色の髪を後頭部で結い上げた女が名乗る。
そして、
「ご機嫌ようございます。ファースアル家末娘、エルツィア・ファースアルですわ」
もう一人、エルツィアが前に出てきてにっこりと礼をする。先日『エッテアック』で会ったときとは違い、ドレスの華美さが増しているようだ。別に興味はないが、他の者たちも同じような華美具合の衣服だった。
「先口の無礼をお許しください。一刻も早くあなた様にお礼をお伝えしたいのです」
「…………ん」
よくわからないが、言いたいことがあるならばとうなずく。
しかし、お礼とは……やはりその髪のことだろうか。
「あなた様から頂いたあの素晴らしいお品のおかげで、私はこんなにも滑らかな髪を得ることができました。本当に――本当にっ、心より感謝を申し上げます……!」
最後のほうは堪えきれなかったように涙ぐんでいた。彼女の家族らも目頭を指で押さえたり、目尻を拭っている。エルツィアがどれだけ己の髪に悩んでいたか、よく知っているのだろう。
いま本人が言った通り、彼女のその髪はとてもさらやかな質に変わっていた。肩口を少し越すほどに垂れたそれが、その事実を示す証拠であり結果である。
まあ何であれ、悩みは解決したらしい。
「妾も話を聞いたけれど、驚いたわね。たった一度つかうだけでそれほどの効果が表れるなんて」
リフィーズが感嘆したように言う。
たしかに、一度の使用でこうまで効果が出たのなら驚いて然るべきことだ。
「さて――次はセカンデリグ家、名乗りなさい」
「ははあッ、了解でさあッ!!」
声が大きい。おそらく今までの経験で一番だ。……いや、それはさすがにいい過ぎだろうか。
まあとにかくその男は声も体格も大きかった。正装に身を包んではいるが、衣服の上からでもその筋骨隆々さがよく窺える。頬や首筋に傷痕がいくつもあり、それらが歴戦を物語っているようだった。
「ワシはソウェニア王国三柱がひとつ、『武』を担いしセカンデリグ家当主のアダック・セカンデリグでさあッ! よろしく頼み申すッ!」
「その妻、ディフェル・セカンデリグと申します~」
「長姉、ヒランジア・セカンデリグでございます」
「嫡男、ソウェニア王国騎士団団長ガナン・セカンデリグ。改めてお見知りおき願いたく」
「す、末娘っ、ソウェニア王国『旋花隊』団長、アランドラ・セカンデリグですっ」
妻と名乗った女は、夫とうってかわってとても柔らかな印象だった。垂れ目で、ずっとにこやかな顔をしている。
長姉は冷淡な様子だった。身長は自分より少し高い。おそらく軍服、というのか、とにかくそれらしき衣装だ。全体的に深緑色で、上衣は背部の両裾が長く、それが脚部を囲う形になっている。下衣は自分がこの世界に飛ばされたとき身につけていた、あのホットパンツと同じような型で、裾が非常に短い物だった。あとは腿までのタイツと、折り返しのついた長ブーツ、それから苔緑色の手袋という恰好である。
そして、ガナンにアランドラ。それぞれ騎士団の団長である兄妹だ。両者とも各々が属する団の鎧を纏っていた。
「一通り名乗りは済んだわね。じゃあ、次は貴女よ」
「……シルヴェリッサ」
「ふふ、この通り物静かな娘だから、続きは妾が紹介するわ。この娘が、例の披露会に出席する代表騎士よ。実力については、”クラーケン”を超短時間かつ無傷で討伐した、と言えば想像できるわね?」
「ほおッ!」
「なんと……!」
アダックやバイラムをはじめ、他の者も程度の差はあれ強く驚いている。
”クラーケン”といえば、あの大量の素材をどう使うべきか……まあ、急いで使いきらねばならないわけでもないので、これは保留だ。
「それほどの力なら、他国の代表と並ぶどころか圧倒できましょう!」
とバイラムが声高になる。
そしてセカンデリグ家のほうでは、アダックがガナンの背中をバシンッと叩いていた。
「がはははッ、そりゃあ倅が負けたってのも納得だあッ!」
「ぐっ……」
痛いのだろうか、ガナンが声を漏らす。
その隣ではヒランジアが興味深そうに目をすっと細め、さらに隣ではアランドラがきらきらとした眼差しでそれぞれこちらを見つめていた。ディフェルだけは変わらず、先ほどからのにこやかな顔である。
「シルヴェリッサ様のお力は、私もこの目にいたしております。先日、私やソリステラ嬢を悪漢よりお救いくださいました」
「シルヴェリッサ殿、その節は娘がお世話になりましたようで、誠にありがとう存じまする」
バイラムが言って頭を下げると、次いでファースアル家の全員が続いた。とりあえず返じる。
「……ん」
一段落ついたとみたのか、そこでリフィーズが口を開く。
「さて、シルヴェリッサ。そろそろお楽しみの”ジュエリーパピヨン”を見せてくれるかしら?」
「「「「「!!」」」」」
言い終わるかどうかの瞬間、ヒランジア以外の女性陣の空気と目が変わった。よほど楽しみにしていたらしい。
「……出てこい」
ともあれ、燭台や装飾の陰などに隠れている彼女らに声をかける。ちなみにそのように待機させておくといい、と言ったのはリフィーズだ。
間もなくジュエリーパピヨンたちがご機嫌な様子で舞い現れると、女性陣から黄色い声がこぼれた。
「ああ、なんて綺麗なの……!」
「感動で言葉が出ませんわ」
「私もです、お姉様……」
「まるで夢みたいだわ~」
「か、感激ですっ」
とても興奮しているようだ。目線を右に左に、上に下にと移ろわせながら感嘆している。
「白と黒の個体は今まで耳にしたこともないな。ふむ、これは興味深い」
「生きた宝石……まさしくその言葉にふさわしい美しさですね、父上」
「ほおーッ! なかなかのもんだなあッ!」
「ほう」
男性陣も女性陣ほどではないが見楽しんでいた。
リフィーズや近衛、侍女たちもそろって観覧する中、しかしヒランジアだけが少し違う。どうも他の者らと異なり興味は薄いようで、普通にただただ冷淡に見つめているだけだった。
『――れい……っ! ――んれい……っ!』
なんだろう。外の廊下から慌てたような声が聞こえてくる。
すると間もあらず、息せき切った兵士が1人、転がり込むように入ってきた。
「でっ、伝令ッ! 伝令でございますッ!」
様子からしてただ事ではない。いったい何だろう。
と、急にヒランジアが空気を怒らせた。
「控えッ! 陛下の御前である!」
「ヒ、ヒランジア教兵官殿、申し訳ございません! しかし事は一刻を争うのです!」
「ヒランジア、いいわ下がりなさい」
「はっ」
兵士のただならぬ様子を見てか、真剣な表情に変わったリフィーズがヒランジアを宥める。続けてその兵士に目を向け直すと、
「報告しなさい」
「は、はっ! フィンルフ大森林の上空にて、”飛竜”の大群が観測されました!」
一瞬の静寂。
そして、場に戦慄が走った。特にアダックとガナンの顔が鋭く変わる。ヒランジアとアランドラも彼らほどではないが、同様に眼光が強くなった。
「”飛竜”の大群だと!?」
「本当なのか!?」
「なんということだ……」
そこかしこで困惑する声が波となる。
”飛竜”。
たしか聞いたところによると、竜種の一角だ。一体でも国を滅ぼせる存在だということであるが、それが大群と。……かなり大事になるかもしれない。
「静まりなさい!」
リフィーズが一喝すると、場が水を打ったように静まった。
「まずは状況を知らなければ動けないわ。伝令のお前、報告はそれだけかしら?」
「い、いえ、もうひとつだけ、これは確実ではないのですが……」
「続けなさい」
「はっ。その”飛竜”の大群の只中に――」
しかし、なぜ急にそのようなものが現れたりなど――
「――”緑色の巨鳥”らしき影があったとのことです」
――その言葉が耳に届いた瞬間、厩舎に向けて駆け出した。
名前の覚え方、というか由来↓
『財』 ファースアル家(ファースト)
バイラム = 買うという意味の英語buy
セルビア = 売るという意味の英語sell
ウリガイ = 売り買い
フォルセカ = ディモルフォセカ 花言葉『富』※他多数
エルツィア = エッショルツィア(ハナビシソウ) 花言葉『富』
『武』 セカンデリグ家(セカンド)
アダック = 攻撃attack
ディフェル = 防御defense
ガナン = 特に理由なし 先んじて名前でてたので
ヒランジア = ハイドランジア(アジサイ)の青 花言葉『冷淡』
アランドラ = アフェランドラ 花言葉『勇ましい』
ガナンにはちょっと悪いことしたなと思わなくもないですが、がっしりした感じの名前なんでイメージ的にはいいかな、うん。